追放された大魔導士は魔王と一緒に国をつくる

ビーグル犬のポン太

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-Elleawa-



 冒険者たちに混じり、ゴズ山脈を目指すエリーネは、泥や埃にまみれ、雨に打たれ、寒さを防寒具のみでしのぐ道中、駆け出しだった頃を思い出した。

(二度とあんなみじめな思いしたくなかったのに! どうしてわたしが!)

 人望のなさとは認められない。

 派遣すべき聖女を選んだ彼女だが、皆、病や家族の不幸を理由に断ってしまった。なかにはわざと怪我をして、それを理由に調査に派遣されることを拒否した。

 アリスに頭をさげさせたてまえ、必ず派遣はしなければならない。

 彼女は仕方なく、自分で行くことにした。

 だが、数年ぶりに現場に出ると、その悲惨さが身にしみるのである。

 大陸最大の都市である都タリンガルを出て、まず南西に向かいグーリットで旅に必要な商品を買い集めた。それからローデシアへと向かったが、都市間を結ぶ街道とローデシアに向かう道は質があまりにも違う。

 また、道から少し外れると毒虫や蛇が脚を狙ってくる。

 いちいち結界魔法で防ぐのも馬鹿らしいが、無視するには邪魔くさいと感じて苛々がとまらない。

 そうしてようやくゴズ山脈に来てみれば、魔物の群れと遭遇し、さっそく戦闘になった。

 聖女の加護で、魔物の力を弱めた結界の中での戦闘は調査隊有利に進む。しかし、あまりにも数が多く、これは本当にローデシアに大陸中の魔物が集まっているのではないかと疑うほどであった。

「聖女様、さすがに連戦続きでもちません」
「弱音を吐くな! これだけの数、原因を掴むまで帰るわけにはいかない!」
「しかし、さすがにもう魔法を使えません」

 調査隊には、冒険者に身を落とした魔導士がいる。

 エリーネは、自分と魔導士が組むことで組織としての力が増すことを実感している自分にも苛々していた。

 彼女はその不機嫌を、冒険者たちにあてる。

「いい加減にしなさい! 金を払って雇っているのよ! 言う事をきけ!」
「姉さんよ」

 調査隊の年長者で、斥候や偵察を得意とするアミットが仲間達のために口を開いた。

「あんたの言い分はわかっている。だが、俺達は身体が資本だ。だから仕事を受ける時は、その仕事が見合うかをじっくりと考えてから受ける。だが、この仕事は事前に聞いていた内容と違いすぎる。ローデシアの調査が主目的で、戦闘の確率は高くないとあったが、実際にはローデシアに入る前に戦闘ばかりだ。あんたのおかげで皆、なんとか連戦でも怪我せず勝てているが、これから先はわからない。一度、体勢を立て直すべくグーリットに帰ったほうがいい。剣も研がないといけないし、盾も磨かなきゃならねぇ……矢はもうない。魔導士は疲労困憊だ」
「いいわ! お前達の怠慢は組合に報告しておくから!」

(役立たずども! わたしはさっさと終わらせて帰りたいのよ!)

 彼女はゴズ迷宮の東側入り口を目指して歩いた。

 途中、魔物の群れと遭遇したが、彼女は結界で彼らを追い払う。

 東側入り口が見えた。

 巨大な石の門は開いていて、風が吹き出る音が不気味だ。

 彼女は内部へと意識を向け、支配領域(エリア)の魔法で魔族の存在を探知しようとするが、反応はない。

(あれだけ魔族の群れがローデシアを目指しているのに、迷宮にはとどまっていない? それほど魔族に制圧されているってこと? 魔王が死んでから、古物商や考古学者くらいしか用がない場所だと聞いていたけど……)

 彼女が暗闇を魔法で照らし、迷宮の中に入った。

(西へ抜けるだけなら、一層をこのまま進めばいいと聞いたわ)

 一層は大回廊と呼ばれもしていて、巨大な空洞が東から西へと突き抜けているが、西側の出口は偽物である。本物は、回廊の脇道を利用し、併設されたもう一本の回廊へと出て、そこから西へと向かう。

 エリーネは、魔王討伐の物語を思い出し、その通りに進んだ。

 しかし、彼女は魔物よりも困った相手と会ってしまう。

「あらあら、人間がどうしてここにいるのかしら?」

 エリーネはハイエルフが回廊に立っていると見て、驚いて足を止めた。暗闇を照らす彼女の魔法で、ハイエルフは美しく気高く輝くかのようだった。

「ハ……ハイエルフがどうしてこの迷宮に?」
「貴女を待っていたのよ」
「わたしを?」
「ええ……わたしはハイエルフのオーギュスタ。三賢人の一人」
「お! オーギュスタ様!?」

 エリーネは片膝をついた。

 彼女にとっては、リーフ王国の王よりも敬う相手だ。

 オーギュスタはエリーネに、近寄るなと手で示すと、そのまま口を開く。

「山で魔物をずいぶんと狩ったようね?」
「え? は、はい! 醜いゴブリンやオークをたくさん倒しました!」
「そうでしょうとも……だから貴女を通すわけにはいかないわ」
「ど……どうしてですか?」
「一人でここまで来た力は認めましょう。ですが、ここから先はわたしの許可なくしては通ることまかりなりません……ふたつの理由があります」
「教えてください」
「ローデシアは今、行き場を失った魔族に残された場所。彼らにもこの世界で生きる権利はあるのよ。次、魔物をたくさん殺した貴女が、ローデシアに入ればそれはもう狙われるわ……貴女は優秀みたいだから、死なれたくないの」
「ですが! わたしは負けません!」
「わたしが負けると見ている。異論は許しません」
「……申し訳ありません」
「調査目的であることもわかっています。こう報告なさい。このオーギュスタがローデシアを管理している限り、わたしに許しなく立ちいることはまかりならない。よろしいですね? では、去りなさい」

 ハイエルフの圧倒的な霊力を前に、エリーネは背中を汗で濡らしながら深く頭(こうべ)を垂れていた。



-Arahghys Ghauht-



 グーリットで開催された発掘品のオークションは大盛況だったという報告がローデシアに届く。

 ミューレゲイトはガラクタがなぜ高く売ることができるのかと不思議がったが、魔族によって無価値なものが、人間には価値があるものであると再確認することになる。

 食料の買付と運搬の打ち合わせをするために、再びグーリットへと向かおうとすアラギウスは、魔王に呼び止められる。

「アラギウス、これから我々は、人間界と有効的な関わりを持つ必要がある」
「……そうだな。完全な断絶は難しいということがよくわかった。今後、飢饉や疫病などがおきた時に詰んでしまう」
「そうだな。人間達は我々が彼らにとって価値のあるものを提供できると知ると、我々の価値を認めるのではないだろうか?」
「どういうことだ?」
「例えば、今回のガラクタ……なかには魔法具があったが、ほとんどは古いだけのものだった」

 アラギウスは、魔王にとって五〇〇年前の貴重な骨董品も、ただ古いだけのものなのかと思い肩をすくめて口を開く。

「人間界でも、その価値を認める者がいるが、一方でわからない者もいる」
「ということはだ。ローデシアのもので我々には無価値でも、人間達に価値があるものが存在するでは? ガラクタ以外に」
「……取引をもちかけるということか?」
「そうだ」
「ローデシアにあるもので、人間達に価値があるもの……」

 アラギウスには、墳墓に眠る骨董品くらいしか思いつかない。

 彼は出発の時間が迫っていると気付き、ミューレゲイトに詫びる。

「すまない。グーリットでいろいろと調べて、報告する。それから考えよう」
「頼む。それと、食料の件、よろしく」
「大丈夫」

 アラギウスはにんまりとした笑みを返し、馬上となった。

 報告では、東方大陸で流通している金貨と銀貨で約二億リーグの売上となった。四〇〇〇万リーグを手数料で支払うと、残るのは一億六〇〇〇万円リーグ。この取引のすさまじいところは、仕入れに金がかかっておらず、というのも墳墓から拾っているだけなので無料(タダ)だから、運搬費用とダークエルフ達への手当てくらいの簿価であるから、利益率がとんでもないのである。

(まだまだ墳墓を探しまわれていない。しばらくはこれでしのげるが……)

 アラギウスは、いずれ無くなるものを頼ってはいけないと自らを戒め、ローデシアの産物で、何が人間達に魅力的であるかを考えながらグーリットへと向かう。

 到着したのは、六日後のことであった。
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