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喋る犬

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「ウィリアム! ウィリアムの魔法ね!?」
「違う。元魔王今ビーグルの俺だ」
「ウィリアム! ふざけるのもいい加減にして!」

理解させるまでに時間がかかった。

「あなたは本当にギルベール殿?」
「もうその名ではない。今はロイだ」
「ロイ……でも、どうして犬に?」
「選べないのだ。バッタでなくてよかったと思いたい」
「そ……そうね。そうだわ。まだ犬でよかった」

俺は宝物庫の中を見渡して、カテリーナに言う。

「欲しいものがあればもって帰れ。俺はこれがあればいい」
「その指輪が、この会話をなしているの?」
「そう。知恵の神の力が宿っている。前世の俺には不要だったが、今の俺には必要だ。ここに放り投げていたことを思い出せたのも、この大迷宮にきたおかげだ」

彼女はあれこれと物色したが、首を左右にふった。

「なんだか盗むような真似はいやだわ。それよりロイ殿」
「ロイでいいぞ」
「ロイ、あなたにはお礼を言いたいの! あの時、瓦礫に押し潰されそうになったわたしを助けてくれて、また魔族の者たちがわたしを人質にしようといったことを聞き入れず解放してくれたことに……」
「そんなことか。普通のことだ。それよりガルゴズのところに行きたいのだろ? 案内してやろう」

カテリーナは笑う。

「あなたが生きているのに、悪魔の王に用はないわ」

そういえば、そうか……。

「それよりも、あなたのことはウィリアムとわたしだけが知っている。そうね?」

俺はうなずいた。

「あなたは勇者に仕返しがしたいと……でも、勇者とされているカレン・フォルトネラーはあなたを倒した者ではなく、男性で……もしかしたらウィリアムの弟子のエドワードではないかと?」
「そうだ。だが、エドワードに会ってみないとわからん」
「牢獄は上なのね?」
「山頂付近に別の洞穴があり、その奥だ。当時と変わってなければ」
「行きましょう」

俺たちは来た道を戻る。

すると、様子がおかしいとわかった。

ツアー客たちの悲鳴が聞こえる。

「うわぁー!!」
「化け物! 化け物ー!」
「助けてー!」

ん?

罠ではない?

隠し通路から二層の通路へと出てみると、そこには入り口へと逃げていくツアー客たちの背があった。反対方向をみると、逃げ遅れて倒された人間の姿と、狂暴な悪魔の姿がある。

悪魔がどうして出てきている?

「悪魔がどうして!?」

カテリーナの問い。

俺にもわからん。

だが、俺がいてよかったな。

俺は彼女の前にすっと出て、新たな獲物として俺たちを見定める悪魔バルログをにらんだ。岩石から生まれた奴は、体の節々から火を噴き出している。

俺は氷の魔法を放つ。

笑種滑恐どスベリサブ

一瞬でバルログが凍りつき、通路を塞ぐように仁王立ちする。

俺は二層通路の天井部分を破壊する魔法を放つ。

天井盥落コントテッパン

どーん! という轟音でバルログの頭上が崩れ、奴は瓦礫に埋まる。同時に通路もふさがった。

これで、奥に進めなくなった。

人間が間違えて悪魔と会うこともなかろう。

突然、抱き上げられてギューとされる。

「素敵! 可愛い!」

カテリーナ!

放せ……ああ……耳の付け根をなでられるのはたまらん。

ほおずりをされながら、大迷宮の一層へとあがり、上を目指す。

ツアー客たちは入り口まで撤退していて、そこで警備員たちにあれこれと事情を説明していた。

「でも、どうして二層に悪魔が出たのかしら?」
「わからん。しかし、俺は結界で悪魔を封じた……結界をやぶったやつがいるのかな? 冒険者たちが地下へもぐっていると聞いた。その中にいるのかもしれない」
「あ、あの階段?」

前方に、上へと続く階段が見える。

「あれだ。いこう」

俺たちは牢獄を目指す。
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