上 下
10 / 54
第一章 魔剣で魔人で美人で超ヤンキーで。

第10話 魔剣の人助け

しおりを挟む
「今はなんとかなってるけど嬢ちゃんの体力が持たねーなこれ」
「……どうするんですか」
「当然! 助けるぞ!」

 助ける。その言葉が出てきたのは意外だった。
ふわりと宙に浮き一回転すると、アアアーシャの体が魔剣に変わる。
魔剣の姿こそが本体なのだから戻るというべきか。
黒い魔剣はそのままするりと健太郎の右手に滑り込んだ。

「どうだ健太郎、いけるか?」
「いけるかって、僕に戦えってことですか?」
「ああ。ここであの嬢ちゃんを助ければオマエはヒーローだぜ? 惚れられちゃうかもよ? 彼女欲しいんだろ?」
「……はぁ? 彼女が欲しいとは一言も言っていませんが……」

 あぁ、さっき「もしこう願っていたらどうするか」の時に言ったやつか。
あれは仮の話で、健太郎は別に彼女が欲しいわけではない。

「そうかい? んじゃ、やっぱアタシ様がやるぜ。マホルに怪我でもさせたら魔人の面目たたねーからな」

 マホル? 健太郎が疑問を口にする前に、剣の先端が魔獣のいる方に向くように魔剣が動いた。
剣を持つ健太郎の右腕もつられて伸びる。

 このまま炎のビームを放つつもりだろうか。
それではあの少女にも当たってしまう。

「こっちだ! サルども!」

 魔剣が叫ぶとツノザルたちがこちらに向かってきた。
これは先程までの魔獣討伐と同じ状況。
アアアーシャがスキル"挑発"を発動させたのだろう。

 少女とツノザルとの間に距離ができたが、
このまま炎ビームを撃っても大丈夫なのか。

「キミ、そこから離れてください!」
「え? は、はい!」

 健太郎は咄嗟に呼びかけた。
少女は突然の事に混乱気味のようだが、健太郎が自分を助けようとしているのは伝わったようである。

「いい判断じゃねぇか健太郎!」
「自分でもちょっと驚きました」
「よっしゃいくぜ! 炎ビーーーム!!」

 瞬間、魔剣の先端から炎の衝撃波が走りツノザル四体を消滅させてしまった。
ホント、えげつない威力である。
健太郎も一瞬よろめいた。

「おし!」
「……すごいですね。さすがは破壊と殺戮の魔剣です」
「んだそれ。変な名前つけんな!」 
「破壊と殺戮と獄炎の魔剣……」
「なげぇし! いや、獄炎はちょっとカッコいいな?」

 ツノザルがいた場所には魔石が転がる。
今まで見た魔石よりはやや大きい。
ウサギやタヌキよりは強い魔獣だったということだ。

「……また魔石が増えてしまいましたよ」
「うーん、いっそ食っちまうか」
「魔石って食べられるんですか……?」
「さすがに食ったことはないが、うまそうじゃね? 色もキレイだしさ」
「……昔は仕事で色々なものを食べましたが、石はまだ未食ですね……」

 健太郎とアアアーシャが緊張感の無い会話をしていると、ツノザルと戦っていた少女が近づいてきた。
しおりを挟む

処理中です...