上 下
27 / 54
第三章 馬車で行こう

第7話 ヤンキー魔人と野宿

しおりを挟む
 健太郎とアアアーシャは二人、焚き火の火を囲んでいる。
日が落ちる前に次の宿場町に着きたかったが無理だった。
夜は冷えるが今日は野宿だ。馬車には毛布も積んである。

「健太郎、寒くねぇか? オマエもこっち来ていいぜ」

 アアアーシャが自分の右側をポンポンと叩く。
セナはアアアーシャの左腿を枕にして寝てしまった。

「いえ、お構いなく」
「遠慮すんなよ、みんなで固まった方が暖かいって」

 それは確かにそうなのだが。
長い社畜生活で禁欲的な日々を送ってきた健太郎。
今さらアアアーシャに対して変な気持ちになるとは自分でも思っていない。
しかし自分を無防備にさらけ出すような、人の行為に『甘える』といったことが難しくなっていた。

「ていうか毛布、使ってくださいよ」
「ええ~~可愛くねぇんだよなぁこれ」

 アアアーシャは毛布を使っていない。
布地の少ない服そのままの格好だ。
寒さ暑さに強いことは聞いたが、それにしてもこの寒さの中でその露出は見ている方が冷える。

「……そういえば。アアアーシャさんの体、あれって体温なんですか?」

 肩を組んだりと、何度かアアアーシャに触れる機会はあった。
その時に人の熱を感じたのだ。

「あー、アタシ様は炎の魔剣の魔人だからな。体温というよりは炎の熱だ」
「……あれが炎の熱?」
「温度くらい調節できるぜ。それっぽくしてるのさ」
「……なるほど」
「夜は寒いからな。人肌よりはもうちょい温度をあげている」

 そう言われると、非常に魅かれる。
焚き火と毛布だけではやはり寒い。 
セナの寝顔は実に安らかだ。ちょうどよい暖かさなのだろう。

「別にくっつかなくてもいいさ。隣に来いよ。それだけでもけっこー違うと思うぜ」
「……では、お言葉に……甘えます」

 健太郎はアアアーシャの右隣に移動し腰を下ろした。

「え、何これ暖かい」
「なっ?」

 アアアーシャが笑う。
自分の力を誇るような笑みではなく、相手の感情に共感し一緒に喜ぶ笑顔だ。
実際、アアアーシャの隣りは暖かい。
炎の力強さというよりはじんわり沁みわたる優しい熱だった。

「健太郎、オマエも寝ていいぜ。アタシ様が見張ってるからよ」
「先ほど充分に寝ました。もう眠くないです」
「あん? なんだかんだで言うほど寝てねぇだろ?」
「社畜が長かったので。短い睡眠に慣れてしまったんですよ」
「なんだそれ、体によくねぇぞ」
「今さらですよ」

 現実世界では今何時なんだろう。
暗くなると時間の感覚が分からない。
しかし、間違いなく普段はまだ仕事をしている時間のはずだ。
しおりを挟む

処理中です...