95 / 99
【完結編】天に在らば比翼の鳥
11.籠の鳥《後編》
香穂はありすより重傷で、肋骨と左足を骨折し内臓も傷ついていたため、緊急手術が必要だった。
術後、集中治療室にいた香穂が一般病棟に移ってからありすは香穂を見舞った。
香穂は横になったまま、ありすを見て微笑んだ。
「香穂さん、ごめんなさい。わたしが、誘わなければ、こんな怪我することなかったのに」
「いやだ、これくらい平気よ。わたしだってヤクザの娘よ」
気丈にそう言う。
「さっき、紗香さんがお見舞いに来てくれたのよ。高谷さんも一緒だった」
香穂が言うと、ありすは途端に不機嫌な表情になる。
「知ってる。わたしも、会ったから」
今日の紗香は着物姿ではなく、シンプルな藍色のトップスと白のスリムパンツ姿だった。
溌剌としていて、ありすの目にも魅力的に見えた。
「あら、ありすは高谷さんが相手でも、紗香さんに嫉妬するのね」
香穂にからかわれても、ありすはいつものように反論しない。
香穂の顔を見て、甘えるように上掛けの上から香穂の膝に顔を伏せた。
「わたし、また紗香さんに嫌な態度とっちゃった。高谷のせい。本当はわかってるの。紗香さんは素敵な人よ。でもイヤなの。わたし、最近、ずっと自分のことが嫌い」
香穂は、ありすを慰めるように、ありすの頭を撫でた。
「ありすが無事で、本当に良かった。幸い、今回は誰も死ななかったけど、もしありすがもう少し酷い怪我でもしてたら三代目は享和会を許さない。手打ちどころか戦争になるわ」
「そうかしら。わたしは綾瀬にそんなに大切にされてないわ。綾瀬はパパに頼まれてわたしを養女にしただけよ」
ありすは顔を伏せたまま、拗ねたように言う。
「二度目、だそうよ。三代目が、あんなふうに我を忘れて怒ったのは」
「二度目?」
顔をあげたありすに、香穂は説明した。
「昔ね、高谷さんが撃たれて大怪我をしたことがあったんですって。三代目は自分の手で報復して、何年も刑務所に入ったとか。そのときのことを覚えている組員は、また三代目が無茶をするんじゃないかって心配してる。誰が見ても、三代目はありすを大切にしてるわ」
「そうだとしても、わたしは綾瀬にとって一番じゃないし、籠の中の小鳥を愛でるようなものよ」
香穂は、わざとらしいため息を吐いた。
「呆れた。ありすは近くにいすぎて、三代目のことが見えないのね」
年上らしい優しい目をしてありすを見ながら言葉を続けた。
「それに、自分のことも。不思議だけど、ありすは三代目によく似ているのよ。血は繋がってないのに、まるでなにかを受け継いでいるみたい。あなたは、鑑賞用の綺麗なだけの小鳥じゃないわ。お願い、ありす。争いをやめさせて。このままじゃ、三代目はまた塀の中よ」
香穂の言葉にありすは身震いした。
戦争も、綾瀬と離れることも、望まない。
「そんなことさせない。わたし、やってみる」
***
ありすは、享和会系の会社組織の財務状況を徹底的に調べた。
ヤクザの経営する会社など、調べればいくらでもボロがでる。
資料を揃えて、国税庁に告発すると脅す方法もあったが、ありすはそうしなかった。
業績の悪い企業の売却プランや、同業他社のM&Aの勧め、粉飾決算の疑いのある企業などをリストアップした。
ありすが作ったレポートは、享和会にとっては大きな利益をもたらすものになる。
ありすはそれを綾瀬に渡した。
綾瀬は目を見張った。
「おまえが一人で作ったのか」
「まさか。香穂さんの大学の経済学者の前田教授に手伝ってもらったわ。教授はわたしに経済学の素質があるって言ってくれて、前から弟子にしたがってたの。でも、今回のこれは名前は出さないで欲しいって。当然よね」
「だが、表に出るはずのない裏帳簿が混ざっているぞ」
「あっ!それはよけておいて。ハッカーのお友達に頼んだのよ」
「お友達?」
綾瀬はきつい目でありすを睨んだあと、諦めたようにため息を吐いた。
ありすの数学知識は既に大学レベルに達していて、高校に通いながら、複数の大学院の研究室に出入りしている。
ありすの興味は数式を解析するだけではなく、生きた経済学に向いていた。
そしてコンピュータースキルも高かった。
「お願い、綾瀬。それを有意義に使って」
「組のことに口を出すなと言ったはずだ」
綾瀬は怒って、それからしばらくありすと口を聞こうとしなかった。
だか、三ヶ月後。
青竜会と享和会は長年の因縁を納め、和解した。
ありすは自分の努力が実を結んだと内心有頂天になったが、篤郎から、手打ちにあたって、綾瀬がありすのレポートを使わなかったと聞いてがっかりした。
ただし、綾瀬はちゃっかり青龍会のシノギ、主に株取引に利用して、かなりの利益を得ていた。
「ありすレポート」と呼んで満更でもない様子だったとこっそりありすに教えた。
NEXT→連理の枝【シリーズ完】
術後、集中治療室にいた香穂が一般病棟に移ってからありすは香穂を見舞った。
香穂は横になったまま、ありすを見て微笑んだ。
「香穂さん、ごめんなさい。わたしが、誘わなければ、こんな怪我することなかったのに」
「いやだ、これくらい平気よ。わたしだってヤクザの娘よ」
気丈にそう言う。
「さっき、紗香さんがお見舞いに来てくれたのよ。高谷さんも一緒だった」
香穂が言うと、ありすは途端に不機嫌な表情になる。
「知ってる。わたしも、会ったから」
今日の紗香は着物姿ではなく、シンプルな藍色のトップスと白のスリムパンツ姿だった。
溌剌としていて、ありすの目にも魅力的に見えた。
「あら、ありすは高谷さんが相手でも、紗香さんに嫉妬するのね」
香穂にからかわれても、ありすはいつものように反論しない。
香穂の顔を見て、甘えるように上掛けの上から香穂の膝に顔を伏せた。
「わたし、また紗香さんに嫌な態度とっちゃった。高谷のせい。本当はわかってるの。紗香さんは素敵な人よ。でもイヤなの。わたし、最近、ずっと自分のことが嫌い」
香穂は、ありすを慰めるように、ありすの頭を撫でた。
「ありすが無事で、本当に良かった。幸い、今回は誰も死ななかったけど、もしありすがもう少し酷い怪我でもしてたら三代目は享和会を許さない。手打ちどころか戦争になるわ」
「そうかしら。わたしは綾瀬にそんなに大切にされてないわ。綾瀬はパパに頼まれてわたしを養女にしただけよ」
ありすは顔を伏せたまま、拗ねたように言う。
「二度目、だそうよ。三代目が、あんなふうに我を忘れて怒ったのは」
「二度目?」
顔をあげたありすに、香穂は説明した。
「昔ね、高谷さんが撃たれて大怪我をしたことがあったんですって。三代目は自分の手で報復して、何年も刑務所に入ったとか。そのときのことを覚えている組員は、また三代目が無茶をするんじゃないかって心配してる。誰が見ても、三代目はありすを大切にしてるわ」
「そうだとしても、わたしは綾瀬にとって一番じゃないし、籠の中の小鳥を愛でるようなものよ」
香穂は、わざとらしいため息を吐いた。
「呆れた。ありすは近くにいすぎて、三代目のことが見えないのね」
年上らしい優しい目をしてありすを見ながら言葉を続けた。
「それに、自分のことも。不思議だけど、ありすは三代目によく似ているのよ。血は繋がってないのに、まるでなにかを受け継いでいるみたい。あなたは、鑑賞用の綺麗なだけの小鳥じゃないわ。お願い、ありす。争いをやめさせて。このままじゃ、三代目はまた塀の中よ」
香穂の言葉にありすは身震いした。
戦争も、綾瀬と離れることも、望まない。
「そんなことさせない。わたし、やってみる」
***
ありすは、享和会系の会社組織の財務状況を徹底的に調べた。
ヤクザの経営する会社など、調べればいくらでもボロがでる。
資料を揃えて、国税庁に告発すると脅す方法もあったが、ありすはそうしなかった。
業績の悪い企業の売却プランや、同業他社のM&Aの勧め、粉飾決算の疑いのある企業などをリストアップした。
ありすが作ったレポートは、享和会にとっては大きな利益をもたらすものになる。
ありすはそれを綾瀬に渡した。
綾瀬は目を見張った。
「おまえが一人で作ったのか」
「まさか。香穂さんの大学の経済学者の前田教授に手伝ってもらったわ。教授はわたしに経済学の素質があるって言ってくれて、前から弟子にしたがってたの。でも、今回のこれは名前は出さないで欲しいって。当然よね」
「だが、表に出るはずのない裏帳簿が混ざっているぞ」
「あっ!それはよけておいて。ハッカーのお友達に頼んだのよ」
「お友達?」
綾瀬はきつい目でありすを睨んだあと、諦めたようにため息を吐いた。
ありすの数学知識は既に大学レベルに達していて、高校に通いながら、複数の大学院の研究室に出入りしている。
ありすの興味は数式を解析するだけではなく、生きた経済学に向いていた。
そしてコンピュータースキルも高かった。
「お願い、綾瀬。それを有意義に使って」
「組のことに口を出すなと言ったはずだ」
綾瀬は怒って、それからしばらくありすと口を聞こうとしなかった。
だか、三ヶ月後。
青竜会と享和会は長年の因縁を納め、和解した。
ありすは自分の努力が実を結んだと内心有頂天になったが、篤郎から、手打ちにあたって、綾瀬がありすのレポートを使わなかったと聞いてがっかりした。
ただし、綾瀬はちゃっかり青龍会のシノギ、主に株取引に利用して、かなりの利益を得ていた。
「ありすレポート」と呼んで満更でもない様子だったとこっそりありすに教えた。
NEXT→連理の枝【シリーズ完】
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話
ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生
Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158
ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/
fujossy https://fujossy.jp/books/31185