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青は藍より出でて藍より青し
噂の多い男〔3〕
自分の身になにが起こったのかわからない高谷が釈然としないまま屋敷の門をくぐると、門前に黒塗りのベンツが横つけされていた。
車体に凭れかかるように腕を組んで葉月が立っている。
そうしているとスタイルの良さが際立って、ますますヤクザには見えない。
葉月は人好きのする笑顔で、高谷に言った。
「送ります」
「ベ、ベンツでか」
「まずいですか」
送ってなんかいらないと突っぱねてやろうと思ったが、乗ってみたいという好奇心に負けて高谷は車中の人になった。
「あんた、あいつの家庭教師なんだろ。運転手までやらされてんの」
「家庭教師?綾瀬が言ったんですか」
葉月はクスクス笑いながら聞いてくる。
「違うのか」
「オレが彼に教えられることなんか、ありませんよ。お坊ちゃんの世話係りのようなものです。まあ、運転手というのもあながち間違いではないですね。この車で学校の送り迎えもしてますから」
「見たことないな」
「最近は来なくていいと言われてたんです。きっとあなたを連れてくるきっかけを待っていたんでしょう」
次から次に驚くことばかり聞かされて、高谷はもはや言葉を失ったように、葉月のそのセリフにはこめかみを押さえただけだった。
今はそれよりも気になったことがあった。
「なあ、青竜会の会長って、確か桐生捷三って名前だろ。なんで息子なのにあいつは名前が違うんだ」
日本でも数本の指に入る広域暴力団のトップに立つ桐生捷三。
その名前は高谷のような一般人でも知っている。
「綾瀬は母方の姓です」
「母方の?あいつのおふくろさんは」
「離縁して、離れて暮らしてます。今はもう再婚なさって別の家庭がありますが、離縁したとき母方の実家の籍に入って現在もそのままなんです」
そう聞いても高谷は表情を変えない。
誰にでも家庭の事情のひとつやふたつはある。
高谷にも両親がいない。
片親だからといって同情するほどのことではない。
けれど、すでに別の家庭を持つ母親の姓を名乗るということにはその意味を考えた。
「もしかして、継ぎたくないってことか」
「誰でも迷いますよ、彼の立場なら」
「けど、ヤクザの跡目っていうのは血縁関係よりむしろ実力重視なんじゃないのか。子供が継いだって話はあんまり聞かないじゃないか。だいたい、ヤクザっていうのは盃一つで親や兄弟になれるもんなんだろ」
「そうですね、血筋はたいして問題にならないです。必ず子供が継ぐというわけではありません。けど綾瀬の場合は会長の息子だからというより、器量を買われている。あの人は実力で組織のトップに立てる人です」
「あ、そう」
だからなんだと言ってやりたかった。
組織のトップといっても、所詮、ヤクザじゃないかと高谷は思う。
だいたい器量なんてそんな言葉を使うこと自体が、どんなに垢抜けた容姿をしていても葉月もやっぱりそういった裏社会の人間だと思う。
「私たちは人を見る目で生死が決まりますからね」
悪戯を企んでるように、目を細めて葉月が言った。
高谷は嫌そうにその視線を受けとめる。
「残念だったな、あいつにその『人を見る目』っていうのがなくて」
「いいえ、彼の目は本物ですよ」
自分の主人を自慢するように答えて「着きました」と言う。
車を降りるとき「また来てやってください」と葉月は言った。
砂塵を上げて去っていくベンツのテールランプを見ていて、そういえば葉月に家の場所を言ってないことに思い当たる。
あいつ。
ホストクラブの人気ホストのような顔をして、綾瀬よりよほど油断できない。
とんでもないものに目をつけられたという気がして、高谷は頭を抱えた。
車体に凭れかかるように腕を組んで葉月が立っている。
そうしているとスタイルの良さが際立って、ますますヤクザには見えない。
葉月は人好きのする笑顔で、高谷に言った。
「送ります」
「ベ、ベンツでか」
「まずいですか」
送ってなんかいらないと突っぱねてやろうと思ったが、乗ってみたいという好奇心に負けて高谷は車中の人になった。
「あんた、あいつの家庭教師なんだろ。運転手までやらされてんの」
「家庭教師?綾瀬が言ったんですか」
葉月はクスクス笑いながら聞いてくる。
「違うのか」
「オレが彼に教えられることなんか、ありませんよ。お坊ちゃんの世話係りのようなものです。まあ、運転手というのもあながち間違いではないですね。この車で学校の送り迎えもしてますから」
「見たことないな」
「最近は来なくていいと言われてたんです。きっとあなたを連れてくるきっかけを待っていたんでしょう」
次から次に驚くことばかり聞かされて、高谷はもはや言葉を失ったように、葉月のそのセリフにはこめかみを押さえただけだった。
今はそれよりも気になったことがあった。
「なあ、青竜会の会長って、確か桐生捷三って名前だろ。なんで息子なのにあいつは名前が違うんだ」
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その名前は高谷のような一般人でも知っている。
「綾瀬は母方の姓です」
「母方の?あいつのおふくろさんは」
「離縁して、離れて暮らしてます。今はもう再婚なさって別の家庭がありますが、離縁したとき母方の実家の籍に入って現在もそのままなんです」
そう聞いても高谷は表情を変えない。
誰にでも家庭の事情のひとつやふたつはある。
高谷にも両親がいない。
片親だからといって同情するほどのことではない。
けれど、すでに別の家庭を持つ母親の姓を名乗るということにはその意味を考えた。
「もしかして、継ぎたくないってことか」
「誰でも迷いますよ、彼の立場なら」
「けど、ヤクザの跡目っていうのは血縁関係よりむしろ実力重視なんじゃないのか。子供が継いだって話はあんまり聞かないじゃないか。だいたい、ヤクザっていうのは盃一つで親や兄弟になれるもんなんだろ」
「そうですね、血筋はたいして問題にならないです。必ず子供が継ぐというわけではありません。けど綾瀬の場合は会長の息子だからというより、器量を買われている。あの人は実力で組織のトップに立てる人です」
「あ、そう」
だからなんだと言ってやりたかった。
組織のトップといっても、所詮、ヤクザじゃないかと高谷は思う。
だいたい器量なんてそんな言葉を使うこと自体が、どんなに垢抜けた容姿をしていても葉月もやっぱりそういった裏社会の人間だと思う。
「私たちは人を見る目で生死が決まりますからね」
悪戯を企んでるように、目を細めて葉月が言った。
高谷は嫌そうにその視線を受けとめる。
「残念だったな、あいつにその『人を見る目』っていうのがなくて」
「いいえ、彼の目は本物ですよ」
自分の主人を自慢するように答えて「着きました」と言う。
車を降りるとき「また来てやってください」と葉月は言った。
砂塵を上げて去っていくベンツのテールランプを見ていて、そういえば葉月に家の場所を言ってないことに思い当たる。
あいつ。
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とんでもないものに目をつけられたという気がして、高谷は頭を抱えた。
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