青は藍より出でて藍より青し

フジキフジコ

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青は藍より出でて藍より青し

それぞれの春〔1〕

校内には春の陽気と共に浮き足だったムードが充満していた。
新入生の騒がしい声、グランドを響き渡る部活動のかけ声。
まるで胸クソの悪い、安い青春ドラマみたいだと思いながら綾瀬は芝生の上で現実から目を反らすために、瞳を閉じた。
けれどこの一瞬が思い出したら恥ずかしくなるくらい甘やかされた時間だったと思い知る日がいつか来る。
綾瀬が自由でいられるのは、この学校にいる間だけだ。
それも今年が最後の一年だった。

***


「綾瀬」
真上から声をかけられて目を開けると、高谷が側に屈んで顔を覗き込んでる。
去年から伸ばしはじめた髪はもう肩にかかるくらい長い。
片耳だけに空けたピアスが陽に当たって光った。
いくら軟派で派手な格好をしても高谷は、芯の部分に硬さがある。
意思の強そうな、凄みのある瞳のせいだろうか。
多分外見だけなら自分よりはるかに極道にお似合いだと思って綾瀬は唇の端で笑う。

「こんなとこで寝てんなよ」
「面談、終ったのか」
「まあね」
「で、どうすんだ」
3年に進級した彼らには進路の選択という難題があった。
けれど綾瀬には関係のない話だ。
綾瀬の前には今も、いつでも道は一本しかない。

「決めたのか、進学」
「進学はしない」
高谷も、綾瀬の横に腰を下ろした。
調度グランドの上で、視界には陸上部が走ったり跳んだりしているのが見える。
スポーツ入学が多いこの学校からは、大学も推薦で行く者が多い。
怪我でリタイヤしていなければ高谷も確実にその道で大学に行くことが出来ただろう。

「就職する。早く働きたいんだ、オレ」
姉の朋子は結局、務めていた都立病院をやめた。
しばらくは落ちこんで部屋にこもりきりだったが、最近になってやっと近所の小さな産婦人科で働きはじめた。
けれど、以前のように姉を頼る気持ちは高谷にはなかった。
今は自分が働いて、早く楽にしてやりたいと思っている。

「進学しろ。おまえ一人の面倒くらい組で見てやる」
綾瀬のその言葉には苦笑しただけで、高谷は聞いた。
「おまえはどうするんだ」
綾瀬は手に触れた芝をむしって、上にかざし風に飛ばせる。
春風に乗って、思いのほか高く舞い上がった。

「どうするって、卒業したら極道だ。他にあるか」
高校を卒業したら、母方の実家の籍から抜けて桐生の籍に戻る。
それはかねてからの約束だった。
綾瀬にとってのそれはただ名前が変わるというだけの意味ではない。
風に靡く草の切れ端を目で追いながら堂々巡りの思考にまたはまる。

どうして逃げないんだろう。
逃げてしまえばいい。
どこへでも好きなところへ。
けれど今更逃げるには、自分はもう骨の髄まで組織と係わっている。
他人を支配する方法、蹴落とす方法、脅して従わせる方法を知らず知らずのうちに学ばされ、それはもう身について、堅気の人間として生きていけなくなっている。
醸し出すものも考え方も、他人とは違う。
逃げ出してチンピラになるか残ってチンピラのボスになるか、選べる道はそんなところだろう。


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