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青は藍より出でて藍より青し
同類の男〔3〕
保科誠一が黒い交際のスキャンダルを発端に、収賄疑惑で逮捕されたのは、それからしばらくしてからだった。
その翌日、真琴が睡眠薬を飲んで手首を切ったという。
幸い発見が早かったせいで命に別状はなかった。
父親の命令で綾瀬が病院を見舞うと、真琴は豪勢な個室で一人、手首に白い包帯を巻きベッドに横になっていた。
「真琴」
横になったまま、真琴は顔を綾瀬の方に向けかすかに微笑した。
「親父の尻拭いか。見上げたもんだな」
綾瀬は何かに対して理不尽な怒りを覚えた。
自分よりはるかに賢い選択をしていたように見えた真琴が、死を選んだことに憤りを感じていた。
「ヤクザの金なんかアテにするからこんな目に合うんだ」
綾瀬の眦の少しあがった目を見ながら、真琴は苦笑する。
「僕の父は出世のために母と僕を捨てたんです。政界に入るために、政治家の娘と結婚したかった。若い頃からの、父の夢だったそうです。夢って、なんだったんだろう。まさか賄賂と汚職に塗れて地位と財産を得ることじゃなかったはずだ。人は権力を握ると変わってしまう。あんな父でも、昔は優しい人でした」
恨みごとを穏やかな声で話す真琴からは、今はもうなんの痛みも感じ取れない。
「結局、父は自分の夢に溺れたんです。僕は、父の夢の犠牲になった母の、復讐をしたかったのかもしれません」
綾瀬は目が眩んだ。
このベッドに寝ているのは自分なのではないか。
自分自身にかける言葉がないように、綾瀬には真琴にかけてやれる言葉がなかった。
「おととい、綾瀬さんを見かけましたよ」
「おととい?」
「背の高い人と一緒にいました」
高谷のことだった。
「正直言って驚いたな。あなたが、あんなふうに笑える人だとは思っていなかった」
ネオンの灯り始めたばかりの夕暮れのセンター街を綾瀬と連れの男は制服に鞄を持ったまま並んで歩いていた。
人混みの中で必然的に肩を寄せ合うように、そして喧騒の中で声を伝えるために互いの耳元で言葉を交わす。
高校生にしてはどちらも落ち着き過ぎるくらいで、はしゃいだ感じはなかった。
けれど真琴にはわかった。
彼が、綾瀬の耳に囁くように何事かを言ったとき、綾瀬が浅く笑んだのが。
互いに目を覗きあい、言葉ではなく視線と指先で行く道を決め、目的のない歩みを続ける二人を遠くから見た時、唐突に真琴は自分を孤独だと感じた。
「…あなたは一人じゃ、なかったんですね」
綾瀬のことは会うより前に知っていた。
噂に名高い若く美しい極道の跡目。
調べれば調べるほど、彼と自分の共通点を見つけて、真琴は勝手に綾瀬に共鳴した。
隠し撮りさせた写真の中の暗くて冷たい瞳が、自分と同じだと思った。
「父はもう、政界に戻れないかもしれない。そうなると僕のゆく道も変わる。けれど、だからこそ、その道をすすんでみようと今は思います」
自殺未遂の原因は話さなかった。
綾瀬も聞きたくなかった。
わかるからだ。
生き場所のない心が衝動的に安らぎを求めるように、死に誘惑される気持ちが。
死だけが自分を解き放ってくれる。
そこまで自分を、自分たちを追いつめるものの正体は本当はなんなのだろう。
病室を出て行きかけて、綾瀬はドアに手をかけたまま振り返らずに言った。
「…真琴、オレも一人で生きている」
真琴は病室の窓から、綾瀬の後ろ姿を眺める。
門のところで、おととい綾瀬と一緒にいた男が待っているのが見えた。
二人は合流してごく自然に肩を並べて歩いていく。
待つ人がいても、自分は一人だと言った綾瀬の心の中を思う。
はじめから、失うことを知っている、そういう意味なのか。
真琴は綾瀬の孤独に触れてみたいと思う。
その翌日、真琴が睡眠薬を飲んで手首を切ったという。
幸い発見が早かったせいで命に別状はなかった。
父親の命令で綾瀬が病院を見舞うと、真琴は豪勢な個室で一人、手首に白い包帯を巻きベッドに横になっていた。
「真琴」
横になったまま、真琴は顔を綾瀬の方に向けかすかに微笑した。
「親父の尻拭いか。見上げたもんだな」
綾瀬は何かに対して理不尽な怒りを覚えた。
自分よりはるかに賢い選択をしていたように見えた真琴が、死を選んだことに憤りを感じていた。
「ヤクザの金なんかアテにするからこんな目に合うんだ」
綾瀬の眦の少しあがった目を見ながら、真琴は苦笑する。
「僕の父は出世のために母と僕を捨てたんです。政界に入るために、政治家の娘と結婚したかった。若い頃からの、父の夢だったそうです。夢って、なんだったんだろう。まさか賄賂と汚職に塗れて地位と財産を得ることじゃなかったはずだ。人は権力を握ると変わってしまう。あんな父でも、昔は優しい人でした」
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「結局、父は自分の夢に溺れたんです。僕は、父の夢の犠牲になった母の、復讐をしたかったのかもしれません」
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「…あなたは一人じゃ、なかったんですね」
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「父はもう、政界に戻れないかもしれない。そうなると僕のゆく道も変わる。けれど、だからこそ、その道をすすんでみようと今は思います」
自殺未遂の原因は話さなかった。
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わかるからだ。
生き場所のない心が衝動的に安らぎを求めるように、死に誘惑される気持ちが。
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そこまで自分を、自分たちを追いつめるものの正体は本当はなんなのだろう。
病室を出て行きかけて、綾瀬はドアに手をかけたまま振り返らずに言った。
「…真琴、オレも一人で生きている」
真琴は病室の窓から、綾瀬の後ろ姿を眺める。
門のところで、おととい綾瀬と一緒にいた男が待っているのが見えた。
二人は合流してごく自然に肩を並べて歩いていく。
待つ人がいても、自分は一人だと言った綾瀬の心の中を思う。
はじめから、失うことを知っている、そういう意味なのか。
真琴は綾瀬の孤独に触れてみたいと思う。
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