青は藍より出でて藍より青し

フジキフジコ

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青は藍より出でて藍より青し

【完】卒業前夜〔3〕

「綾瀬!」
名前を呼びながら遠くから駆けよって来る下級生に、綾瀬は顔を顰めた。
「卒業、おめでとう」
息を切らして、祝辞を言ったのは佐久間篤郎だった。

どういうわけか、奇妙な出会い方をして以来、篤郎は綾瀬に懐いてしまった。
何度注意しても、二学年も下なのに綾瀬を呼び捨てにする。
理由は「高谷さんがそう呼ぶから」と、ケロッとしている。
そのせいで、篤郎は校内でもすっかり有名人になっていた。
ヤクザの跡目を呼び捨てで呼んだり、気安い声をかけたりするのは、高谷以外では篤郎だけだ。

「別にめでたいことなんかない」
「またそんなヒネくれたこと言ってる!」
制服姿で、片手に証書の入った黒い筒を持って立つ綾瀬に、篤郎は目を細めた。
「綾瀬の学ラン姿も今日で見納めかと思うと、ホント、オレは寂しいよ」
「なに言ってんだ、おまえ」
「だってオレ、性格はともかく、綾瀬のルックスはわりと好きなんだよね」
「おまえに好かれてもしょうがねえよ」
綾瀬は筒で篤郎の頭を叩いた。
「なにやってんだよ、おまえら」
高谷が二人に向かって歩みよってくる。
正門の前でじゃれている綾瀬と篤郎に、呆れたような顔をしている。
こんな光景が今日で見納めになるとは思えなかった。
春の日差しは、明日も明後日も、変わることなく永遠に続くような錯覚をさせる。


***


校門を出たところで3人は立ち止まった。
校舎を囲う塀に添って、車が5台、きちんと並んで止まっている。
ただの車ではない。全部、黒塗りの外車だった。
一番前のベンツの助手席から、葉月が降り立った。

「卒業、おめでとうございます」
葉月の言葉を合図にしたように、車からは正装した男たちが次々と降りてきて、車の横に立ち並び、綾瀬に向かって頭を下げた。
「派手な迎えだな」
そう言った高谷に、綾瀬は苦笑を浮かべて、一言「じゃあな」と言った。

「綾瀬!」
高谷は車に向かっていく綾瀬を呼び止める。
肩越しに振り返った綾瀬に、呼んでおきながら高谷にはかけるべき言葉がなにも浮ばない。
心だけが、綾瀬を引きとめる。
声にならない想いをかかえたまま、拳を強く握って高谷は思っている。
永遠の別れなんて、あるはずがない、と。
一度繋いだ関係は、命のある限り、途切れない。
会えなくても、会わなくても、きっと―。

呼び止めながら、何も言わない高谷に口許だけで微笑して、綾瀬は背中を向けた。
華奢な背中は出会ったあの日に見たときと変わらない。
他人を拒む孤高の後ろ姿。
けれど、どこかが違う。
いつまでも見ていたいような、月輪に似た美しい背中だと思った。








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