青は藍より出でて藍より青し

フジキフジコ

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【番外編】月を抱く

前編

折り入って頼みたいことがある、と若松に呼ばれた。
葉月が訪ねると、わざわざ人を払って葉月を側に呼ぶ。
どんな頼みごとかと思えば、それはあまりに意外な内容だった。

「女…ですか」
「おう、女だ。そろそろ坊も、色事を覚えてもええ年頃じゃろう。葉月、おまえの知り合いのオンナで、具合のいい女はおらんか。大学には仰山、別嬪さんがおるだろう」
若松の言う「具合のいい女」というのが、どういう意味なのか頭を悩ませながら葉月は答えた。
「綾瀬の相手には年が釣り合わないでしょう」
「馬鹿やろう、最初の女は年上がいいに決まってるだろう。ああ見えて坊は奥手だからな、手取り足取り教えてくれる、床上手な女を紹介しろ」
「はあ…」
難しいことを簡単に頼まれて、葉月には断る隙もなかった。

格好だけでも取り繕うつもりで、それからしばらく桐生邸には葉月の女友達が出入りするようになった。
若松には「綾瀬が気にいった子がいたら、話をすすめますよ」と言ってあったが、綾瀬は誰にも関心を寄せないばかりか、葉月の女友達を屋敷で目にした日には、ひどく機嫌が悪かった。
とくに葉月とは、口を利こうともしなかった。

しかたなく葉月は、正攻法で綾瀬に当たった。
「綾瀬は、どんなタイプの女の子が好きなんですか」
自分でも馬鹿馬鹿しい質問だと思ったが、聞いてみると、思った通り綾瀬に冷たい目を向けられた。
「オレに女をあてがおうとしてるんなら、やめろ、うっとおしい」
「まあ確かに綾瀬なら、ガールフレンドくらいは自分で作れますよね」
厭味で言ったのではなかったが、綾瀬は葉月を睨んで「ガールフレンドなんかいらない」と言った。

その言葉が嘘ではないことを、葉月はテルから聞いて知っていた。
毎日学校まで送り迎えをしているテルは、綾瀬が女の子から告白されるところを何度も目撃しているが、綾瀬はいつもあっさり断っているという。
「それが、みんな結構、可愛い子ばっかなんすけどねえ、坊ちゃんはよほど理想が高いんだと思います」
テルは感心したようにそう言っていた。

「おまえもおまえだ、葉月。いくら若松に言われたからって、自分の女をオレに回すか、普通。それとも、女衒ぜげんの真似は趣味か」
葉月は、綾瀬が「女衒」などという言葉を知っていることに驚いた。 

「だいたい、おまえの女は、おまえの命令なら、誰とでも寝るような女なのか。もっとマシな女と付き合え」
葉月が黙っていると、綾瀬は珍しく饒舌に怒りを露にした。
「誰とでも、ってことはないでしょうけど、おそらく綾瀬くらい、かわ…」
と言って、葉月は口をつぐみ、咳ばらいをした。
うっかり「綾瀬くらい可愛かったら」と言ってしまうところだった。
口にしたら綾瀬の逆鱗に触れたことだろう。
「綾瀬くらいイケてる男子なら、女性はたいてい抱かれたいと思いますよ」
「オレは御免だ。あんな化粧臭い女にあやしてもらうくらいなら、二丁目にでも突っ立って、カラダを売った方がマシだ」

綾瀬の啖呵に、葉月は別の意味で驚いた。
「綾瀬はもしかして、男の子の方が好きなんですか」
返事をするのも面倒くさい。
綾瀬の顔が、そう言っていた。
葉月は苦笑した。

「女性は案外、いいものですよ。男とは違う柔らかい体をしていて、抱きしめると、気持ちが落ち着きます」
わざわざ顔を近づけて、小声で言う葉月に、珍しく綾瀬が動揺した素振りを見せた。
いくら大人と対等な、それ以上の明晰な頭脳を持っていても、その身体も心もまだ子供なのだと、葉月ははじめて思った。
それが嬉しくて、調子に乗りすぎた。
「綾瀬も、マスターベーションはしているでしょう。女性を抱くのは、その延長みたいなものです。そんなに構える必要はありませんよ」
そう言うと、綾瀬はキッと葉月を睨んで、机の上にあった教科書を払い落した。

「しない」
思いがけない、強い怒りだった。
「オレはそんな汚いこと、しない!」
葉月は、綾瀬の怒りの理由がわからないまま、部屋を追い出されてしまった。


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