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朱に交われば赤くなる
3.誘拐
ギャラリーを出た綾瀬と葉月は都心の高級ホテルに向かっていた。
これから清竜会にとって大切な取引がある。
「綾瀬。わかってると思いますが、迷いは禁物です」
「………」
綾瀬は無言で、スモークガラスの向こうの暮れはじめた街並を眺めていた。
人差し指で自分の唇に触れる。
深く、考え事に沈んでいる証拠だった。
「どうして高谷さんを連れてこなかったんですか」
「あいつは神戸だろ」
「有島製薬の買収計画は清竜会が2年かかって進めてきた計画です。かかった費用も半端じゃない。ここで専務の井上を落せば、清竜会は有島製薬の株の半分を所有することが出来る」
「……落すさ」
「けど高谷さんには知られたくなかった。彼の留守中にこの商談の日取りをすすめたのは、有島君のせいですね」
「おまえ、喋りすぎだ」
確かに、3年前、綾瀬を描きたいと言って桐生の家に居候して以来、なにかと理由をつけては桐生邸に出入りするようになった優吾は、高谷とは気が合うようで個人的にも親しい付き合いをしているようだった。
その優吾の父親の会社の一つを乗っ取ろうというのだ。
高谷の留守は、あるいは都合が良かったかもしれない。
「拘ってるのは綾瀬の方だとオレは思います。高谷さんは、きっとあなたと同じことをする」
葉月の言うとおり、今の高谷なら、情に流されて組の不利益になるようなことはしないだろう。
高谷は組に入って変わった。
変ったと、みんなが口を揃えて言う。
近くにいすぎて綾瀬にはよくわからない。
高谷が清竜会に来てまだ1年そこそこしか立たないが、そのたった1年で、誰もが一目置く存在にまでなっている。
今の高谷なら、顔色も変えずに優吾の父親の会社の乗っ取りに賛成するだろう。
そんな高谷を見たくないと思っているのは自分かもしれないと、綾瀬は自分の中の矛盾を笑う。
高谷が変わったとしたら、それは自分のせいじゃないか、と。
自分が高谷をこの世界に引きずり込んだ。
自分さえ高谷に関わらなかったら、高谷はこんな世界とは無縁の世界を生きただろう。
後ろめたいわけじゃない。
高谷が変ったとしても、自分はそれを肯定すべきなのだ。
変らないことを、望んではいけない。
***
綾瀬の乗った車はホテルの正面玄関ではなく、地下駐車場に向かった。
車には綾瀬のほかに葉月と、運転している結城の3人が乗っていた。
駐車スペースに車を止め、エレベーターに向かい歩いていると、不意にコンクリートの柱の影から覆面姿の男達が飛び出してきた。
「なんだっ!おまえら!」
咄嗟に綾瀬を庇うように前に立った結城は、その動作のせいで懐の拳銃を抜くタイミングが一瞬遅れた。
渇いた銃声が響いた。
覆面男が撃った拳銃の弾は結城の脇腹を直撃した。
「綾瀬!」
葉月は綾瀬を腕に囲うように庇う。
そのときには、5人の覆面姿の男達に取り囲まれていた。
男達は手に鉄パイプを持っていた。
腹部を撃たれた結城が、地面に倒れる。
その手にあった拳銃が床に落ちた。
それに気を取られた瞬間、葉月の右肩に鉄パイプが強打した。
葉月の片膝が地面についた。
それでも葉月の左手は綾瀬のコートの端をつかんでいる。
今度はその左手首に鉄パイプが振り下ろされた。
パイプの先がこめかみを掠め、血が流れる。
流れる血に左目の視界が奪われた。
葉月から、綾瀬が引きはがされる。
覆面の男は綾瀬の口を布で塞いだ。
気を失った綾瀬の身体を担いで、男達が走り去る。
「綾瀬!」
綾瀬の身体から、コートがスローモーションのように落ちて、地面に蹲る葉月の、右目の視界をも塞いだ。
コートが地面に落ちて視界が開けたときには、完全に綾瀬を見失っていた。
これから清竜会にとって大切な取引がある。
「綾瀬。わかってると思いますが、迷いは禁物です」
「………」
綾瀬は無言で、スモークガラスの向こうの暮れはじめた街並を眺めていた。
人差し指で自分の唇に触れる。
深く、考え事に沈んでいる証拠だった。
「どうして高谷さんを連れてこなかったんですか」
「あいつは神戸だろ」
「有島製薬の買収計画は清竜会が2年かかって進めてきた計画です。かかった費用も半端じゃない。ここで専務の井上を落せば、清竜会は有島製薬の株の半分を所有することが出来る」
「……落すさ」
「けど高谷さんには知られたくなかった。彼の留守中にこの商談の日取りをすすめたのは、有島君のせいですね」
「おまえ、喋りすぎだ」
確かに、3年前、綾瀬を描きたいと言って桐生の家に居候して以来、なにかと理由をつけては桐生邸に出入りするようになった優吾は、高谷とは気が合うようで個人的にも親しい付き合いをしているようだった。
その優吾の父親の会社の一つを乗っ取ろうというのだ。
高谷の留守は、あるいは都合が良かったかもしれない。
「拘ってるのは綾瀬の方だとオレは思います。高谷さんは、きっとあなたと同じことをする」
葉月の言うとおり、今の高谷なら、情に流されて組の不利益になるようなことはしないだろう。
高谷は組に入って変わった。
変ったと、みんなが口を揃えて言う。
近くにいすぎて綾瀬にはよくわからない。
高谷が清竜会に来てまだ1年そこそこしか立たないが、そのたった1年で、誰もが一目置く存在にまでなっている。
今の高谷なら、顔色も変えずに優吾の父親の会社の乗っ取りに賛成するだろう。
そんな高谷を見たくないと思っているのは自分かもしれないと、綾瀬は自分の中の矛盾を笑う。
高谷が変わったとしたら、それは自分のせいじゃないか、と。
自分が高谷をこの世界に引きずり込んだ。
自分さえ高谷に関わらなかったら、高谷はこんな世界とは無縁の世界を生きただろう。
後ろめたいわけじゃない。
高谷が変ったとしても、自分はそれを肯定すべきなのだ。
変らないことを、望んではいけない。
***
綾瀬の乗った車はホテルの正面玄関ではなく、地下駐車場に向かった。
車には綾瀬のほかに葉月と、運転している結城の3人が乗っていた。
駐車スペースに車を止め、エレベーターに向かい歩いていると、不意にコンクリートの柱の影から覆面姿の男達が飛び出してきた。
「なんだっ!おまえら!」
咄嗟に綾瀬を庇うように前に立った結城は、その動作のせいで懐の拳銃を抜くタイミングが一瞬遅れた。
渇いた銃声が響いた。
覆面男が撃った拳銃の弾は結城の脇腹を直撃した。
「綾瀬!」
葉月は綾瀬を腕に囲うように庇う。
そのときには、5人の覆面姿の男達に取り囲まれていた。
男達は手に鉄パイプを持っていた。
腹部を撃たれた結城が、地面に倒れる。
その手にあった拳銃が床に落ちた。
それに気を取られた瞬間、葉月の右肩に鉄パイプが強打した。
葉月の片膝が地面についた。
それでも葉月の左手は綾瀬のコートの端をつかんでいる。
今度はその左手首に鉄パイプが振り下ろされた。
パイプの先がこめかみを掠め、血が流れる。
流れる血に左目の視界が奪われた。
葉月から、綾瀬が引きはがされる。
覆面の男は綾瀬の口を布で塞いだ。
気を失った綾瀬の身体を担いで、男達が走り去る。
「綾瀬!」
綾瀬の身体から、コートがスローモーションのように落ちて、地面に蹲る葉月の、右目の視界をも塞いだ。
コートが地面に落ちて視界が開けたときには、完全に綾瀬を見失っていた。
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