青は藍より出でて藍より青し

フジキフジコ

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朱に交われば赤くなる

9.マンション

篤郎が綾瀬に追い立てられるように帰ったあと、綾瀬は高谷に聞いた。
「マンション、決まったのか」
少し前、高谷は桐生の家を出るので住むところを用意して欲しいと、葉月に相談を持ちかけていた。
綾瀬は葉月の口からそれを聞いていた。

「ああ。もう手続きもすんだし、適当に家具も入れてもらった。いますぐ寝泊り出来る」
どこか怒ったような顔でグラスを傾ける綾瀬を、高谷は余裕の表情で見つめて、「見に来るか?」と誘った。

高谷の部屋は中層マンションの一室だった。
部屋の中は広過ぎず、狭過ぎることもない。
リビングの他には寝室タイプの洋間とキッチンしかないが、二十歳の青年の一人暮らしには不足はない。
誰が選んだのかいやに洒落たモスグリーンのカーテンを開けて、綾瀬は窓の外を見た。
景観の良さを確認するためではない。
向かい合うビルがないかどうか。
下から、上からの侵入は可能かどうか。
この部屋が安全か、どうか。
葉月が探したのなら、間違いはないはずだった。
けれど、彼らの住む世界に完全な安全などはない。
狙われたら最後、どこまでも命を奪うことに固執し追ってくる敵はいる。

「なんで、部屋なんか借りたんだ」
桐生の屋敷の警備は固い。
完全な安全はなくても、完全に近い状態でいられる。
それを手放してまで出ていく理由が綾瀬にはわからない。
自分の側に四六時中いることが窮屈なのだろうかと、綾瀬が考えているとは高谷は思ってもいないだろう。
「プライヴァシーの確保、ってやつかな」
「なんだそりゃ」

高谷は綾瀬の側まで歩み寄って、その背後に立った。
綾瀬の身体を挟むように、綾瀬が開いたカーテンを締める。
締めた手はそのまま、綾瀬の身体を柔かく包んだ。
「あの家でおまえを抱くのは気が引けんだよ」
言った方も言われた方も照れている。
こんな甘やかな雰囲気は、二人とも苦手だった。

綾瀬は高谷の腕に囲まれたまま、俯いた。
「…バカが」
「だいいち、親父さんに見られたら殺される」
クスクスと笑う綾瀬の首の後ろに口付ける。
そして薄いシャツの上から背中に。
身体の線を辿るように高谷の手は綾瀬の脇から腰を撫でる。
綾瀬はカーテンにしがみついて、その感覚に堪えた。
高谷の指は綾瀬のシャツのボタンをはずしていく。
ズボンの前を緩める。
弛んだ衣服の中に手を侵入させて素肌に触れる。
下肢に手を伸ばすと綾瀬のそれは高谷の手練にちゃんと反応している。
それでも小刻みに震えているのが快楽を堪えるためだけでなく、まだ恐怖のせいもあることを高谷はわかっている。

「…くっ」
「早く…慣れろ」
「なんに…慣れんだよっ」
「オレに抱かれることに。おまえの身体が慣れるまで、毎日抱いてやる」
「…ばっ」
崩れるように二人は床の上に重なった。
高谷の指はしっかり綾瀬の指に絡まっている。
その手を自分の唇に押しつけた。
「…高谷」
「オレのものだ」
見たことのないような、高谷の熱い眼差しに綾瀬は息を飲む。
怒っているような激しさだった。
それは多分高谷が綾瀬に見せた、最初で最後のむきだしの独占欲だった。

「違う。おまえが、オレのもんだろ。高谷」
そう、ずっと前から。
そしてこれから先も。
おまえはオレのものだ。
「オレのものだ…」
甘い言葉を囁きながら、それが嘘ではないことを身体で確かめあった。
世界に二人しかいない夜を、二人で楽しんだ。


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