青は藍より出でて藍より青し

フジキフジコ

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狭き門より入れ

1.異国の空の下

日中にあれほど照りつけていた太陽は今はもう傾き、道路に椰子の木の影を長く描いている。
日本では南の地方でやっと桜が咲きはじめたばかりだというのに、そこはもう初夏を思わせた。

広い道路には先程から一台も車が通らない。
絵葉書のような整然とした街の夕暮れは予想以上に静かで、余所者を拒んでいるようにも感じる。
なにを見ても、風さえも、異国のものだと感じる。

そんなことを思いながら佇んでいると、目の前の家の玄関から小さな子供が飛び出して来た。
「パパ!早く」
家の中に呼びかけて、待ちきれない様子で足踏みしている。

ふと、子供は家を囲う低い垣根の前に立っている青年に目を向けて、首を傾けた。
自分の家の前に立つジャパニーズの青年。
もしかしたらパパの友達かもしれない。
髪の色はジャパニーズのパパと同じように黒い色じゃないけど、目の色が同じ。
それに、雰囲気がどこか似ている。
知らない人には近寄っちゃダメだと言われている。
でもこの人は少しも怖くない。
きっとパパの友達だからだ。

子供は庭と道路を仕切った、自分の背丈と同じくらいの垣根のところまで駆け寄って来て「パパにご用?」と聞いた。
青年は、子供を見下ろす。
4、5歳くらいの黒人の少年だった。
チリチリ頭の下の利発そうな大きな瞳が好奇心に輝いている。
ふくよかな頬や口許には愛嬌があった。
思わず、つられたように青年の口許にも微笑が浮んだ。
少年はドキドキした。
そのジャパニーズの青年はそうして笑うと、とても綺麗な人だったから。
自分の国にいるときに、彼が決してこんなふうには笑わない人間だということを少年は知らない。
「ワーオ」
感嘆を小さく声に出して呟いた。

青年は少年に向かって首を振った。
どうやら家を間違えたらしい。
立ち去ろうとしたとき、家の中から男が出てきた。
「マイケル」
「パパ!」
呼ばれて、少年が玄関に戻って走っていく。
その後姿を目で追いかけて、家の中から出てきた男を、青年は見た。
そして、目を見開いた。
見間違えるはずはなかった。
少年から話を聞くために腰を屈めていた男は、綾瀬が7年ぶりに会う高谷俊介だった。
高谷は顔を上げた瞬間に、綾瀬と同じような驚いた顔をした。

「綾瀬…」
父親の口から出た、英語のイントネーションではない人の名前に首を傾けて、少年は父親の手を握った。
それが自分のよく知ってる父親であることを確認するように。


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