青は藍より出でて藍より青し

フジキフジコ

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三代目の結婚

1.若松の悩み

「なあ、高谷、なんとかならんか」
「はあ…」
先代の片腕だった若松が深い溜息を吐きながら、強面に似合わない縋るような目を向けてきながら言う。
高谷は返答に困って、口ごもった。

「男前すぎて結婚には向かんのかのう、三代目は。今のところ関東は落ちついてるし組も安泰、あとは三代目が身を固めてくれれば言うことはないんだが」
このところ顔を合わせば若松の口をつく愚痴を、高谷は黙って聞くことしか出来ない。

「今年になって断った見合い話が3回だ。ヤクザの組長のところに嫁に来てやるって言う奇特なお嬢サンを3人も袖にしたんだぜ、あの人は」
「…そのうち縁が回ってくるでしょう」
そろそろ席を立ちたい高谷が苦し紛れに言うと、若松はじっと高谷の顔を見た。
「なにか?」
「ひょっとして三代目なあ、あっちの方、弱いんじゃねえか」
「は?」
「女遊びも全然しねえっていうしなあ」
「弱いって、その、不能…とか?」
「高谷、おまえ、それとなくな、傷つけんように聞いてみてくれや」
「いえ、それはないです」
「なんだおまえ、いやにきっぱり言うじゃねえか」
「え…と、それは、その…。すいません、3時に迎えに来るように言われてるんで、自分はこれで…」

なんとか口実を作って逃げ出した高谷は、桐生の屋敷を出て綾瀬がいる新宿の事務所に向かった。
迎えに来いとは言われてないが、口実を本当にしておいて損はない。
ハンドルを握りながら、深いため息が漏れる。
若松には同情するが、自分のことも同情したい。
「オレになにが言えんだよ」

若松が高谷に綾瀬の結婚問題を愚痴るのは、片腕の高谷からそれとなく結婚を勧めて欲しいという魂胆があるからだ。
若松は高谷と綾瀬の関係を知らないから、そう考えるのだろうが、綾瀬が結婚しないのは、高谷にもその一因があるのかもしれない。
いや、確実にある。

「結婚、ねえ…」
考えたこともなかったが、思えばおかしな話だ。
社会のルールからはみ出しているヤクザものも、一般人と同じように当り前のように家庭を持ったりする。
綾瀬のようにひとつの組織のトップに立つ人間は後継者問題も絡んで、個人の問題では済まなくなっている。
断った見合い話の見合い相手も、一流企業の会長が愛人に生ませた娘だったり、政治家の表に出せない不良娘だったり、そこには巧妙に政略結婚の形相があった。

けれどそれはあくまで綾瀬の問題で高谷の問題ではない。
仮に綾瀬が結婚しても、自分の立場は変らないと高谷は思う。
二人の間で感情的なものがどう変化するかは、そのときになってみなければわからない。


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