58 / 99
三代目の結婚
1.若松の悩み
「なあ、高谷、なんとかならんか」
「はあ…」
先代の片腕だった若松が深い溜息を吐きながら、強面に似合わない縋るような目を向けてきながら言う。
高谷は返答に困って、口ごもった。
「男前すぎて結婚には向かんのかのう、三代目は。今のところ関東は落ちついてるし組も安泰、あとは三代目が身を固めてくれれば言うことはないんだが」
このところ顔を合わせば若松の口をつく愚痴を、高谷は黙って聞くことしか出来ない。
「今年になって断った見合い話が3回だ。ヤクザの組長のところに嫁に来てやるって言う奇特なお嬢サンを3人も袖にしたんだぜ、あの人は」
「…そのうち縁が回ってくるでしょう」
そろそろ席を立ちたい高谷が苦し紛れに言うと、若松はじっと高谷の顔を見た。
「なにか?」
「ひょっとして三代目なあ、あっちの方、弱いんじゃねえか」
「は?」
「女遊びも全然しねえっていうしなあ」
「弱いって、その、不能…とか?」
「高谷、おまえ、それとなくな、傷つけんように聞いてみてくれや」
「いえ、それはないです」
「なんだおまえ、いやにきっぱり言うじゃねえか」
「え…と、それは、その…。すいません、3時に迎えに来るように言われてるんで、自分はこれで…」
なんとか口実を作って逃げ出した高谷は、桐生の屋敷を出て綾瀬がいる新宿の事務所に向かった。
迎えに来いとは言われてないが、口実を本当にしておいて損はない。
ハンドルを握りながら、深いため息が漏れる。
若松には同情するが、自分のことも同情したい。
「オレになにが言えんだよ」
若松が高谷に綾瀬の結婚問題を愚痴るのは、片腕の高谷からそれとなく結婚を勧めて欲しいという魂胆があるからだ。
若松は高谷と綾瀬の関係を知らないから、そう考えるのだろうが、綾瀬が結婚しないのは、高谷にもその一因があるのかもしれない。
いや、確実にある。
「結婚、ねえ…」
考えたこともなかったが、思えばおかしな話だ。
社会のルールからはみ出しているヤクザものも、一般人と同じように当り前のように家庭を持ったりする。
綾瀬のようにひとつの組織のトップに立つ人間は後継者問題も絡んで、個人の問題では済まなくなっている。
断った見合い話の見合い相手も、一流企業の会長が愛人に生ませた娘だったり、政治家の表に出せない不良娘だったり、そこには巧妙に政略結婚の形相があった。
けれどそれはあくまで綾瀬の問題で高谷の問題ではない。
仮に綾瀬が結婚しても、自分の立場は変らないと高谷は思う。
二人の間で感情的なものがどう変化するかは、そのときになってみなければわからない。
「はあ…」
先代の片腕だった若松が深い溜息を吐きながら、強面に似合わない縋るような目を向けてきながら言う。
高谷は返答に困って、口ごもった。
「男前すぎて結婚には向かんのかのう、三代目は。今のところ関東は落ちついてるし組も安泰、あとは三代目が身を固めてくれれば言うことはないんだが」
このところ顔を合わせば若松の口をつく愚痴を、高谷は黙って聞くことしか出来ない。
「今年になって断った見合い話が3回だ。ヤクザの組長のところに嫁に来てやるって言う奇特なお嬢サンを3人も袖にしたんだぜ、あの人は」
「…そのうち縁が回ってくるでしょう」
そろそろ席を立ちたい高谷が苦し紛れに言うと、若松はじっと高谷の顔を見た。
「なにか?」
「ひょっとして三代目なあ、あっちの方、弱いんじゃねえか」
「は?」
「女遊びも全然しねえっていうしなあ」
「弱いって、その、不能…とか?」
「高谷、おまえ、それとなくな、傷つけんように聞いてみてくれや」
「いえ、それはないです」
「なんだおまえ、いやにきっぱり言うじゃねえか」
「え…と、それは、その…。すいません、3時に迎えに来るように言われてるんで、自分はこれで…」
なんとか口実を作って逃げ出した高谷は、桐生の屋敷を出て綾瀬がいる新宿の事務所に向かった。
迎えに来いとは言われてないが、口実を本当にしておいて損はない。
ハンドルを握りながら、深いため息が漏れる。
若松には同情するが、自分のことも同情したい。
「オレになにが言えんだよ」
若松が高谷に綾瀬の結婚問題を愚痴るのは、片腕の高谷からそれとなく結婚を勧めて欲しいという魂胆があるからだ。
若松は高谷と綾瀬の関係を知らないから、そう考えるのだろうが、綾瀬が結婚しないのは、高谷にもその一因があるのかもしれない。
いや、確実にある。
「結婚、ねえ…」
考えたこともなかったが、思えばおかしな話だ。
社会のルールからはみ出しているヤクザものも、一般人と同じように当り前のように家庭を持ったりする。
綾瀬のようにひとつの組織のトップに立つ人間は後継者問題も絡んで、個人の問題では済まなくなっている。
断った見合い話の見合い相手も、一流企業の会長が愛人に生ませた娘だったり、政治家の表に出せない不良娘だったり、そこには巧妙に政略結婚の形相があった。
けれどそれはあくまで綾瀬の問題で高谷の問題ではない。
仮に綾瀬が結婚しても、自分の立場は変らないと高谷は思う。
二人の間で感情的なものがどう変化するかは、そのときになってみなければわからない。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話
ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生
Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158
ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/
fujossy https://fujossy.jp/books/31185