青は藍より出でて藍より青し

フジキフジコ

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三代目の結婚

3.見合い

そのホテルに高谷を呼び出したのは若松だった。
関西から来た、親交のある組の組長と一緒にいるから迎えに来てくれ、と言われたのだ。

ところが待ち合わせのロビーには若松の姿がない。
探していると携帯電話が鳴った。
携帯の液晶には若松の名前が表示されている。
「はい」
高谷が出ると、電話の向こうの若松は豪快に笑っていた。

『もうすぐそっちに三代目が行くからな、いいか、今日は絶対に逃がすなよ』
「どういうことです?」
『見合いだよ。相手は代議士の末娘だ』
嬉々として語る若松に見えないのをいいことに、高谷は表情を引き攣らせこめかみを押さえた。
「…それで自分に三代目を見張れと?」
『あとは任せた。高谷、頼んだぞ』
「ちょ…頼んだって…」

電話の最中に、ホテルの入り口の回転ドアを潜って入ってきた綾瀬と目が合ってしまった。
こうなったら今更隠れることも出来ない。
取りあえず若松にはまだ聞いておきたいことがあった。

「三代目にはなんて言ったんです?」
『なーに、車の中で吉田がうまく説明してるだろうよ。おまえが待ってることも言ってあるからな』
なるほど、高谷は自分の知らないところですっかり共犯にされていたらしい。
その証拠に、高谷と目を合わせた綾瀬の表情は、わかりやすく憤りをあらわにしている。

綾瀬は真っ直ぐ高谷の方に向かって歩いて来た。
漆黒のカシミアのコートを袖を通さず肩にかけている。
見合いだと本人は知らなかったはずだが、中に来ているスーツは艶やかなアルマーニだ。
綾瀬はアルマーニのスーツはいかにも極道という感じがする、と言って好まない。
高谷の目にはそれを来た綾瀬は極道というよりはどちらかといえばタレントなどの類いの業界人のように見える。
小さく整った顔に似合っているし、華やかで品もある。
そんな場合ではないのに、うっかり見惚れてしまった。

しかし、そう思うのは高谷が同じ世界にいるせいなのか、一般人にはやはりなにかしらの威圧感を与えるようで、周りの人間はそれとなく道を譲るように避けている。
本人は周囲の視線などは気にもかけず、相変わらずキツイ目をしながら高谷に近付いてくる。

「仕事熱心なことだな。見合いの段取りまでしてくれるのか」
思ったとおり、綾瀬はこの件に高谷が噛んでいると誤解している。
しかし、この状況なら仕方ない。
高谷は覚悟を決めた。
「年貢の納め時ってやつだ。いい加減、諦めろ」
ホテルのロビーに乾いた音が響いた。
綾瀬が高谷の顔を張った音だ。
一瞬はっとなって歩みを止めた通行人やホテルマンはすぐにまた何も見なかったかのように動き出す。
綾瀬はフロントで部屋を取ると、キーを高谷に渡した。
「付き添いは必要ない。部屋で待ってろ」

その頃になって、吉田が入ってきた。
着物姿の若い女と、その母親らしい落ちついた感じの年配の婦人と一緒だ。
綾瀬と高谷に気付いた吉田が二人に会釈すると、綾瀬の見合い相手らしき女が軽く頭を下げた。
飛び抜けて美人とは言えないが、そこそこに可愛い気のある顔立ちをしている。
綾瀬は高谷をその場に残し、三人に歩み寄った。

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