青は藍より出でて藍より青し

フジキフジコ

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三代目の結婚

5.浦部繭子

「本当に行くの?」
車の中で、篤郎が困惑気に聞く。
「綾瀬らしくないよね。いつもならこんな手間のかかることしないのに。それとも…」
そう言ってしばらく黙りこむ。
その先を言っていいのか悩んでるふうに。
「それとも少しは、その気があるの」
「……その気って?」

後部座席で面白そうに綾瀬は聞く。
「あのひとと結婚する気があるのかって聞いてんのっ!」
「条件なら、悪くないな。若松が必死になって探してきた話の中では一番、いい」
「もう、ふざけないでよ。しかもなんで高谷さんが留守の間にこういうことするかなあ…」

高谷は三日前から、跡目相続の内輪揉めを仲裁するために東北に行っていた。
「高谷は関係ない」
高谷の名前に急に不機嫌になった綾瀬を訝しみながらも、二人のことはデリケートなことなので二人きりでも篤郎には反論は許されなかった。
「あるでしょ」
綾瀬に聞こえないように、文句を言うのが関の山だ。

そんな問答をしている間に、篤郎の運転していたBMWは目的の屋敷についた。
頑強な門に囲まれた大きな屋敷だ。
車が着くと中から着物姿の中年女性が出迎えた。
篤郎は運転席を降りて、後部座席のドアを開ける。

「おまえは先に戻れ。帰りはタクシーでも呼ぶから」
「そんなに」
長居するつもりなのか、とは口に出しては聞けなかった。
綾瀬は篤郎を振り返って謎の微笑を残し屋敷の中に消えた。



***



浦部繭子うらべまゆこは十九歳で、まだ短大に通う学生だ。
見合いの席では着物姿だったが、トップレスのワンピースに肩にカーディガンを羽織った姿で綾瀬の向かいに腰掛けている様子は、どこかに少女の名残を残していた。
その証拠に突然の訪問に対する困惑を表情に出して隠そうともしない。
綾瀬は口の中で笑った。

「あの、私をどうするつもりですか」
居間は、気をきかせた使用人が姿を消し、さっきから二人きりだ。
沈黙に耐え兼ねたのか、女は固い声を震わせて聞いた。

「別に、どうするつもりもないですよ。うちの番頭と、お嬢さんのお父様が、僕達の結婚を望んでる。僕としては、お嬢さんの意思を確認しておきたかっただけです」
繭子は目を見開いた。
こんなふうにストレートに聞かれるとは思ってもいなかったらしい。
けれど、返事は決まっている。
繭子に選択肢などないのだから。

「……私の気持ちなんか関係ないんでしょ。好きにすればいいわ」
「ご存知のように、うちは極道です。議員のお嬢さんの嫁ぎ先に相応しいとも思えませんが」
繭子は腰掛けたソファーの手摺にしがみついて、唇を噛んで俯いた。
「なにが言いたいの?」
「知りたいだけです。お嬢さんの事情、というやつを」
「ないわ!」
綾瀬は立ち上がった。
側に寄ると、繭子が怯えたように綾瀬を見上げる。
「極道を、なめるもんじゃない」
「きゃあ!」

繭子の細い手首を、しがみつくように掴んでいたソファーの手摺から引き剥がし、綾瀬は繭子を床の絨毯の上に張り付けた。
「やめて!やめて!」
両手首を押さえつけ、身体の上を跨ぎながら綾瀬は繭子を見下ろす。
「そうだ、与えられる運命が気に食わないなら、そうやって精一杯抵抗しろ。半端に諦めて、悲劇のヒロインぶっても惨めになるのは自分だけだ」

繭子に、綾瀬は自分自身の過去を重ねる。
もがいて、あがきながら人生を諦めていた自分を。
「自分だけが割に合わないなんて考えは捨てるんだな。抵抗することを放棄したんなら、それもおまえ自身が選択したことだ」
「うっ……」
泣きながら、繭子は顔を横に向けた。
その拍子に胸の谷間が綾瀬の目に入る。
そこに見えたものに綾瀬ははっとする。
綾瀬は繭子のワンピースの肩紐を落とし、胸を露わにした。
「いやっ!見ないで!」
綾瀬に名前はわからない。
小さな紫色の花が、白く柔らかな乳房の上にあった。


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