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三代目の結婚
8.結婚式
「本当にこれでいいの?」
心配そうに言う篤郎に、高谷は天を仰いで言った。
「綾瀬が決めたんだ、しょうがねえだろ。いつまでも一人でいるわけにもいかない。綾瀬の立場なら」
「でも、この結婚で幸せになれる人がいるのかなあ」
少なくとも高谷の知る限り一人はいる。
さっき廊下で会ったとき、若松の目はもう嬉し涙で潤んでいた。
「綾瀬の花婿姿を見る日が来るなんて…」
深いため息を吐きながら、篤郎が控え室のドアを開いた。
高谷と篤郎の目には正面の姿見に写る綾瀬の白い羽織り袴姿が飛び込んできた。
「何度見ても、ああいう格好だけは癪に障るくらい似合うよね」
高谷にだけ聞こえるように、篤郎が小声で言う。
高谷は篤郎の言葉に同意するように、眩しそうに目を細めて綾瀬を見た。
「綾瀬」
けれど呼ばれて振り返った綾瀬の眼差しの中には、高谷が期待するようなものはなかった。
綾瀬はすっかり腹を決めて、いっそ清々しいようなすっきりした表情をしていた。
この瞬間まで、綾瀬の冗談だと思っていた自分の呑気さに、高谷は呆れる。
「なんだよ、なんか言いたそうなツラだな」
高谷の側に歩いてきた綾瀬は、おかしそうに目を細めて挑発するように言う。
「言ってみろよ」
「オレがやめろって言ったらやめるのか」
綾瀬は目を丸くして、それから遠慮なく笑った。
「ばかやろう!笑うか、普通!」
「おまえこそバカだ。今更やめられるか。そういうことはもっと早く言えよ。思っていたんならな」
人が綾瀬を呼びにきて、話を出来たのはそれだけだった。
***
神棚の前で神主と巫女が畏まる。
綾瀬は一番前の中央に腰掛けている。
花嫁の椅子はまだ空いていた。
左側に花嫁の親族席、右側には清竜会の幹部が並んだ。
高谷も一番後ろに座る。
花嫁は後方の入口から父親と入場してくる手はずになっている。
しかしあまりに遅かった。
誰もがチラチラと袖口の腕時計を覗きはじめる。
高谷も懸念に思いはじめたが、綾瀬はいたって落ちついた様子でじっと座っている。
そのとき入口のドアが軋んだ音を立てながら開き、誰もが安堵の気持ちで振り返った。
しかし、そこに立っていたのは代議士の浦部一人だった。
「浦部先生…」
思わず若松が立ち上がりニ三歩歩みよると、浦部はフラフラと綾瀬の側まで歩いてそのまま土下座した。
「申し訳ない…」
綾瀬側の席の列席者が気色ばんで立ち上がる。
「どういうことだ!」
「む、娘は…に、逃げよった。男と、か、か、駆落ちし…」
泣きながら叫ぶ浦部に、清竜会の幹部たちは一斉に怒鳴った。
「ふざけんなっ!縄で縛ってでも連れてこいやっ!」
ヤクザはメンツのために生きている。
こんな恥をかかされては、黙っていられない。
「やめろ」
凛と声を張りあげて綾瀬がそう言うと、一瞬にしてざわついていた式場に静寂が戻る。
綾瀬は冷めた視線で自分の足元に蹲る浦部を見下ろして言った。
「茶番は終わりだ」
袴の裾を払って、綾瀬が式場を出て行くと、親代わりの席に座っていた若松は頭を抱えて項垂れた。
心配そうに言う篤郎に、高谷は天を仰いで言った。
「綾瀬が決めたんだ、しょうがねえだろ。いつまでも一人でいるわけにもいかない。綾瀬の立場なら」
「でも、この結婚で幸せになれる人がいるのかなあ」
少なくとも高谷の知る限り一人はいる。
さっき廊下で会ったとき、若松の目はもう嬉し涙で潤んでいた。
「綾瀬の花婿姿を見る日が来るなんて…」
深いため息を吐きながら、篤郎が控え室のドアを開いた。
高谷と篤郎の目には正面の姿見に写る綾瀬の白い羽織り袴姿が飛び込んできた。
「何度見ても、ああいう格好だけは癪に障るくらい似合うよね」
高谷にだけ聞こえるように、篤郎が小声で言う。
高谷は篤郎の言葉に同意するように、眩しそうに目を細めて綾瀬を見た。
「綾瀬」
けれど呼ばれて振り返った綾瀬の眼差しの中には、高谷が期待するようなものはなかった。
綾瀬はすっかり腹を決めて、いっそ清々しいようなすっきりした表情をしていた。
この瞬間まで、綾瀬の冗談だと思っていた自分の呑気さに、高谷は呆れる。
「なんだよ、なんか言いたそうなツラだな」
高谷の側に歩いてきた綾瀬は、おかしそうに目を細めて挑発するように言う。
「言ってみろよ」
「オレがやめろって言ったらやめるのか」
綾瀬は目を丸くして、それから遠慮なく笑った。
「ばかやろう!笑うか、普通!」
「おまえこそバカだ。今更やめられるか。そういうことはもっと早く言えよ。思っていたんならな」
人が綾瀬を呼びにきて、話を出来たのはそれだけだった。
***
神棚の前で神主と巫女が畏まる。
綾瀬は一番前の中央に腰掛けている。
花嫁の椅子はまだ空いていた。
左側に花嫁の親族席、右側には清竜会の幹部が並んだ。
高谷も一番後ろに座る。
花嫁は後方の入口から父親と入場してくる手はずになっている。
しかしあまりに遅かった。
誰もがチラチラと袖口の腕時計を覗きはじめる。
高谷も懸念に思いはじめたが、綾瀬はいたって落ちついた様子でじっと座っている。
そのとき入口のドアが軋んだ音を立てながら開き、誰もが安堵の気持ちで振り返った。
しかし、そこに立っていたのは代議士の浦部一人だった。
「浦部先生…」
思わず若松が立ち上がりニ三歩歩みよると、浦部はフラフラと綾瀬の側まで歩いてそのまま土下座した。
「申し訳ない…」
綾瀬側の席の列席者が気色ばんで立ち上がる。
「どういうことだ!」
「む、娘は…に、逃げよった。男と、か、か、駆落ちし…」
泣きながら叫ぶ浦部に、清竜会の幹部たちは一斉に怒鳴った。
「ふざけんなっ!縄で縛ってでも連れてこいやっ!」
ヤクザはメンツのために生きている。
こんな恥をかかされては、黙っていられない。
「やめろ」
凛と声を張りあげて綾瀬がそう言うと、一瞬にしてざわついていた式場に静寂が戻る。
綾瀬は冷めた視線で自分の足元に蹲る浦部を見下ろして言った。
「茶番は終わりだ」
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