青は藍より出でて藍より青し

フジキフジコ

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三代目の結婚

9【完】密かな愛

高谷が控え室に入ると、綾瀬は袴の帯を抜いたところだった。
「どういうことだよ」
式場での綾瀬の態度に高谷はなにかを感じていた。
「駆落ちしたんだろ。聞いてなかったのか」
「おまえ、知ってたろ」
「さあ、なんのことだろうなあ」
綾瀬は惚けてそう言うと羽織りを脱いで、入口に立つ高谷に放り投げた。
「何度着ても窮屈だ」
「綾瀬。言えよ、本当のこと」

高谷の顔を見た綾瀬は、口元に押さえた笑みを浮かべていた。
滅多にこんなに満足そうに笑う綾瀬は見たことがない。
「一年前、チンピラに拉致されたって言っただろ?本当は拉致なんかじゃなかった。女は家出して恋人の元にいったんだ」
「じゃあ、二人は」
「幼馴染で恋人同士だった。刺青まで入れて覚悟を見せても、浦部に連れ戻されたらしい」
高谷にも段々話が見えてきた。

「けど、おまえ、なんで女を拉致したチンピラが女の恋人だってわかったんだ」
「胸の刺青、紫色の小さな花だったんだよ。珍しいだろ。調べたら、スミレだってことがわかった。ご丁寧に花言葉なんてのが載ってて、わかったんだよ」
「花言葉?なんだそれ」
「密かな愛」
高谷は目を白黒させて、綾瀬を見た。

「はじめから一緒になれるとは思ってなかったんだよ。それでも、密かに愛しつづける準備だけはあった。心が他の男にある女をもらっても、仕方ない」
綾瀬はきっと女の胸の刺青の意味を知った瞬間に、この計画を企んだに違いない。
はじめから結婚する気なんてなかったくせに、ぬけぬけとそんなことを言う。

「で、おまえが煽ったんだな」
「これに懲りてしばらく若松も大人しくなるだろ。あん?」
「おまえ…!」
高谷は綾瀬の手首を握って、自分の方に引き寄せた。
綾瀬との距離は腕に抱けるほどに縮まったが、高谷の表情は怒っている。
片手に持っていた綾瀬の羽織りを床に投げ捨てて、高谷は白い襦袢ごしに綾瀬の腰を引き寄せた。
「オレがどんな気持ちだったと思う?」
「どんな気持ちだったんだ?」
高谷は答えられない。

「それはそうと高谷、おまえ東北では相馬に気に入られて随分いい思いをしたそうじゃないか。東北の女はどうだった?」
誰だ、綾瀬に喋ったのは。
高谷は口の中で唸った。
知られているとは思ってもいなかった。

高谷の内心の焦りを笑うように、綾瀬は瞳を細めて言う。
「うろたえるなよ。高谷、覚えておけ。オレはおまえが何人女を抱いても、そんなことは構わない。したいなら結婚だってすればいい。どうせ、おまえは、オレを失えないんだから」
高谷は呆気に取られたように綾瀬を見下ろして、しばらくその憎らしいほど勝ち誇った綺麗な顔を眺め、そして笑い出した。
「ふん、お互いさまだ」









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