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【第一部】戦士誕生
10.愛してはいけない
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涼がはじめて終夜に自分の能力を見せたあの日、普段自分のことをほとんど話したことのなかった涼が、自白剤でも飲まされたように終夜に告げた生い立ちは、終夜を驚かせるのと同時に、それまでもやもやとして形にならなかった涼への想いを決定づけることになった。
涼と、その双子の弟の蓮は生まれながらに不思議な能力を持っていて、感情によって人を殺傷することが出来た。
憎むだけで人間を傷つけたり、殺すことさえ出来るという。
二人がまだ幼い頃、その能力によって人間を死に追いやってしまったことがあった。
とくに二人は一緒にいると互いに共鳴し合って自分たちで制御できないうちにその力を使ってしまう。
両親は双子を別々にするために別れたという。
「母親は別れるときにオレに言った。人を憎んじゃいけないと。そして、愛してもいけないって」
人を愛する気持ちと憎む気持ちはとてもよく似ているのよ。
涼、あなたは誰も憎んではいけないし、愛してもいけない。
けれど涼を引き取った父親の考え方は母親とは少し違った。
父親は涼に武道を教えた。
武道から、自己を抑制する術を学ばせ、積極的に普通の人間の中で生活させた。
「自分で考え、そして判断を誤らないことが大事だ」
彼は涼にそう教えた。
高校で涼と出会った終夜は、いつも無表情でその年頃の人間の中で一人だけ異質な涼の存在にすぐ気付いた。
過分に整いすぎた容姿は、涼を余計に他人から浮き出させたが、涼自身は他人の関心に無関心を装った。
そして自分からは誰とも関わろうとはしなかった。
終夜もまた子供の頃から自身の特殊性に気付いていた。
けれど終夜は自身の異質さを他人に悟られないように、「演技」することで身を守った。
華やかで陽気な人気者を演じ、それに成功していた終夜が、涼に付きまとうのを誰もが不思議がった。
当の涼でさえも。
「おまえのこと、なんか気になんだよ」
どうして自分に構う、と煩わしそうに涼に聞かれたときそう答えて慌てた。
まるで女の子に言うような甘い響があった。
けれど終夜にはこの世の中に自分と同じ寂しい魂を持つ人間が存在するのなら、それが女でも男でも関係なかった。
終夜と涼は互いの秘密に触れることなく、互いの、孤独な心を理解し合えた。
ほんの短い間、二人の間には確かに友情と呼んでも間違いではない感情が存在していたはずだった。
けれど、事件が二人の関係を変えた。
傷ついた涼。
額は割れて血が流れていた。
その足元に転がる若い男たち。
夕暮れの草原に吹いていた冷たい風を、終夜は忘れることが出来ない。
「……オレが殺った。忌まわしい力で。我慢しようとした。なんでもないことだ、ただの暴力だって思って。だけど、力がオレを裏切った」
なにがあったのかは涼を見れば容易に想像出来た。
終夜は涼をそこから一人で暮らしていた自分のアパートの部屋に連れて帰った。
涼を毛布に包んで残し、もう一度その場所に男たちの様態を見に戻った。
三人ともまだ息があった。
涼のために、それでよかったと思うことで終夜はかろうじて彼らを許すことが出来た。
急いで部屋に帰って、温めたミルクを涼の両手に握らせ、腰を落として下から顔を覗くように言った。
「大丈夫だ。あいつら死んでない。助かる、三人とも」
涼は目を見開いて終夜を見て、瞼を下ろしたときにはじめて涙を見せた。
そして終夜に自分のことを、その忌まわしい能力の秘密を打ち明けたのだ。
終夜も自分のことを打ち明けた。
子供の頃から、人の心が読めたこと。
感情が高ぶると、周囲にあるものが動いたり、念じるだけで石を飛ばしたりすることが出来ること。
そのせいで実の両親に疎まれ、祖父母に育てられたこと。
祖父母が亡くなって、今はひとりで、生きていること。
けれど涼は驚かなかった。
「判っていた」
と、そう言った。
その言葉は終夜の長く孤独だったそれまでの人生を変えた。
涼は、自分を、自分という存在を否定しない。
ありのままの自分を、許してくれる。
それは涼にも同じような事情があるからで、ことさらにありがたがる必要はない。
けれどそんな理屈を超えて、終夜は嬉しかった。
涼と巡り合えたことが、嬉しかった。
「涼、一人で背負い込むなよ。オレがいる。涼のこと、いつでも気にかけてる。おまえが弱ってるときは、オレが庇う。命をかけて、おまえを守るから」
ミルクを握った涼の手を握って、終夜は言った。
忠誠を誓う騎士のように。
あの日を思い出しながら、終夜は涼の肩に手を回した。
「………涼」
顔を近づけ唇を寄せていきかけて、触れる寸前にかわされた。
いつものように。
「調子、のんな」
立ち上がって部屋を出て行きながら振り返って終夜を見て微笑した涼の表情は、いつもの彼のそれだった。
涼が立ち直ったことを知って終夜はほっとする。
けれどまた腕の中から擦り抜けた。
人を愛することを自身に禁じている涼。
いつか涼を自分の腕に囲える日は来るのだろうか。
涼と、その双子の弟の蓮は生まれながらに不思議な能力を持っていて、感情によって人を殺傷することが出来た。
憎むだけで人間を傷つけたり、殺すことさえ出来るという。
二人がまだ幼い頃、その能力によって人間を死に追いやってしまったことがあった。
とくに二人は一緒にいると互いに共鳴し合って自分たちで制御できないうちにその力を使ってしまう。
両親は双子を別々にするために別れたという。
「母親は別れるときにオレに言った。人を憎んじゃいけないと。そして、愛してもいけないって」
人を愛する気持ちと憎む気持ちはとてもよく似ているのよ。
涼、あなたは誰も憎んではいけないし、愛してもいけない。
けれど涼を引き取った父親の考え方は母親とは少し違った。
父親は涼に武道を教えた。
武道から、自己を抑制する術を学ばせ、積極的に普通の人間の中で生活させた。
「自分で考え、そして判断を誤らないことが大事だ」
彼は涼にそう教えた。
高校で涼と出会った終夜は、いつも無表情でその年頃の人間の中で一人だけ異質な涼の存在にすぐ気付いた。
過分に整いすぎた容姿は、涼を余計に他人から浮き出させたが、涼自身は他人の関心に無関心を装った。
そして自分からは誰とも関わろうとはしなかった。
終夜もまた子供の頃から自身の特殊性に気付いていた。
けれど終夜は自身の異質さを他人に悟られないように、「演技」することで身を守った。
華やかで陽気な人気者を演じ、それに成功していた終夜が、涼に付きまとうのを誰もが不思議がった。
当の涼でさえも。
「おまえのこと、なんか気になんだよ」
どうして自分に構う、と煩わしそうに涼に聞かれたときそう答えて慌てた。
まるで女の子に言うような甘い響があった。
けれど終夜にはこの世の中に自分と同じ寂しい魂を持つ人間が存在するのなら、それが女でも男でも関係なかった。
終夜と涼は互いの秘密に触れることなく、互いの、孤独な心を理解し合えた。
ほんの短い間、二人の間には確かに友情と呼んでも間違いではない感情が存在していたはずだった。
けれど、事件が二人の関係を変えた。
傷ついた涼。
額は割れて血が流れていた。
その足元に転がる若い男たち。
夕暮れの草原に吹いていた冷たい風を、終夜は忘れることが出来ない。
「……オレが殺った。忌まわしい力で。我慢しようとした。なんでもないことだ、ただの暴力だって思って。だけど、力がオレを裏切った」
なにがあったのかは涼を見れば容易に想像出来た。
終夜は涼をそこから一人で暮らしていた自分のアパートの部屋に連れて帰った。
涼を毛布に包んで残し、もう一度その場所に男たちの様態を見に戻った。
三人ともまだ息があった。
涼のために、それでよかったと思うことで終夜はかろうじて彼らを許すことが出来た。
急いで部屋に帰って、温めたミルクを涼の両手に握らせ、腰を落として下から顔を覗くように言った。
「大丈夫だ。あいつら死んでない。助かる、三人とも」
涼は目を見開いて終夜を見て、瞼を下ろしたときにはじめて涙を見せた。
そして終夜に自分のことを、その忌まわしい能力の秘密を打ち明けたのだ。
終夜も自分のことを打ち明けた。
子供の頃から、人の心が読めたこと。
感情が高ぶると、周囲にあるものが動いたり、念じるだけで石を飛ばしたりすることが出来ること。
そのせいで実の両親に疎まれ、祖父母に育てられたこと。
祖父母が亡くなって、今はひとりで、生きていること。
けれど涼は驚かなかった。
「判っていた」
と、そう言った。
その言葉は終夜の長く孤独だったそれまでの人生を変えた。
涼は、自分を、自分という存在を否定しない。
ありのままの自分を、許してくれる。
それは涼にも同じような事情があるからで、ことさらにありがたがる必要はない。
けれどそんな理屈を超えて、終夜は嬉しかった。
涼と巡り合えたことが、嬉しかった。
「涼、一人で背負い込むなよ。オレがいる。涼のこと、いつでも気にかけてる。おまえが弱ってるときは、オレが庇う。命をかけて、おまえを守るから」
ミルクを握った涼の手を握って、終夜は言った。
忠誠を誓う騎士のように。
あの日を思い出しながら、終夜は涼の肩に手を回した。
「………涼」
顔を近づけ唇を寄せていきかけて、触れる寸前にかわされた。
いつものように。
「調子、のんな」
立ち上がって部屋を出て行きながら振り返って終夜を見て微笑した涼の表情は、いつもの彼のそれだった。
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けれどまた腕の中から擦り抜けた。
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