地球防衛軍!

フジキフジコ

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【第二部】戦士覚醒

4.再会

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一人で飲むのはあまり好きじゃない。
というより、終夜は一人でいることを好まない。
たとえそれが気に入らない相手でも、誰かが側にいるときは演技が出来る。
自分で作った『終夜タケル』というキャラクターを、演じている方が楽だ。
子供の頃からずっとそうしてきたし、それが、理想的な自分だから。
終夜は一人になったときの自分を、自覚したくない。

涼は違う。
本当は涼はいつだって一人になりたがっている。
その心の内に誰もいれず、自分だけを見つめる時間に安らぎを感じている。
だからオレたちは理解しあえないのだろうか。
こんなふうに弱気になるもの、一人だからだ。
たとえ九郎でも側にいれば、強くてタフなヒーローでいられるのに。
「全然、平気だぜ。いつか絶対に涼を手にいれてやる」
そう言って笑い飛ばせば、そんな気にもなれるというものだ。

やっぱり街になんか下りてくるんじゃなかった、終夜がそう後悔しはじめたとき隣に人が座った。
カウンターの席はどこも空いている。
わざわざ隣に座ったのには理由があるはずだ。
終夜には、それが誰か、横を向かなくてもわかった。
この気配には覚えがある。

妃咲蓮。
それでも横を向き、蓮のその姿を目にしたとき、やはり驚かずにはいられなかった。
あまりに涼に似ているから。
その金色の髪の色が漆黒なら、自分でさえ見分けがつくかどうか自信がない。

「……蓮」
蓮は終夜を見て、柔らかく微笑した。
「あなたの気を感じた」
「敵の前にのこのこ現われるなよ。オレは涼とは違う。手加減はしないぜ」
「でも無抵抗の人間に手出しはできない。正義を名乗るならそういうものでしょう」
「正義なんかクソくらえだ」
おかしそうに蓮が笑う。
「なんで涼が、あなたと一緒にいるのかわかる気がする。あなたは涼とは正反対だ」
「それはおまえだろ。顔は同じでも中身は白と黒ほど違うんじゃねえのか」

涼と同じ顔が、終夜の言葉に傷ついたように哀しげに伏せられる。
口許だけに笑みを浮かべて、ゆっくり顔をあげて終夜を見つめる瞳の色も、涼と同じ鳶色。
ついさっき、この瞳の持ち主に拒絶された。
同じ瞳に今また自分が写っていることを、終夜は不思議に思う。

「それが出来るなら、僕は、涼になりたかった」
「蓮…」
蓮はたった今自分が口にした言葉を後悔してるように、すぐにまた目を伏せる。

「あなたなら、今の世界の矛盾がわかるでしょう。大気を汚染し、環境を破壊しながら人間はどこまでも自己欲だけを優先する。そのためには戦争して人も殺す。法なんてモラルを失った人間の前ではなんの役にも立たない。このままでは地球は身勝手な人間に壊されてしまう」
「だからおまえたちが壊すのか」
「地球の未来のために」

終夜と蓮の前に、注文もしていないカクテルが置かれた。
けれど終夜はそれを不思議には思わない。
「よく言うぜ。おまえたちのやってることはそんなご立派なことじゃねえだろ。犯罪者を生み出してるだけじゃねえか。人の心を操ってな。それで傷ついた無実の人間はどうなんだよ」
「正しい支配者が、正しい世界に導かなければいけないんです。人類を目覚めさせるためには、犠牲が必要だ」
「それが許せないって言ってんだろ、涼は。それになんだよ、支配って。オレは、いくら今の世界にムカついてたって、誰にも支配されたくなんかないね。自由でいたい」
「自由?今の世界が本当に自由って言えますか。あなたならわかるはずだ。この世界が、どれだけ僕たちを迫害しているか!」
そう言って取り乱した蓮に、終夜は驚いた。

「あなたは子供の頃、同じ年ごろの子供たちから石を投げられた経験はないんですね。僕と涼は毎日そんな目にあっていた。化物と、呼ばれて」

突然、終夜の脳裏に、まるで自分の目で見た光景のようにリアルな映像が浮ぶ。
石を投げつけられている幼い双子は、一人が一人を庇うように身体ごと抱いている。
顔を上げて攻撃者を睨んだ瞳からは額から流れた血が滲み、それはそのまま顎まで伝い落ちて、まるで血の涙のような跡を残している。
けれどその瞳は怒りよりも悲しい諦めの色があった。
それは、涼だ。
蓮を庇って一人で、小さな身体を傷つけている。
けれど蓮は、涼の身体の下で、涼よりも深く心を傷めたに違いない。
そして涼よりも強く激しく、彼らを憎んだ。
終夜にはそれがまるで自分の感情のようにわかる。
蓮の感情に同調しないように、終夜は首を振った。

「…蓮、おまえは世界に復讐がしたいのか」
自分を受けいれることを拒んだ偏狭なこの世界に。
「違う!」
終夜の腕をぎゅっとつかんで、蓮は終夜の顔を覗きこんだ。
なにかを必死に訴えかけるような眼差し。
一瞬にして、心を鷲掴みする。
ワカルハズダ。
その怒り。悲しみ。憎しみ。
こんな世界、破滅させたっていいというほどの…。

「やめ…ろっ!」
真近に迫る視線を、終夜は反らせなかった。
刹那、グラっと世界が傾くような激しい眩暈を感じた。
終夜は必死に意識を保った。
油断はしていなかったつもりだったが、蓮の能力を侮った。

「蓮!」
終夜は額を押さえて、椅子に座る蓮の腕に縋りつく。
微笑した蓮が近付いてきて、身体を抱き寄せられた気がしたが、そのときにはもう、終夜の意識は朦朧としていた。



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