チェリークール

フジキフジコ

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【番外編】BabyBabyBaby!

2.覚の見解

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青山覚は、抱っこ紐で吊るされた赤ん坊を胸にぶら下げている晶を見て、驚きのあまり、大きく口を開けて目まで見開いた。
「いつ、産んだの?」
「バカ!」
覚は思わず言ってしまった自分の発言に赤面した。

青山メンタルクリニックの受付の二人の女の子が、「可愛い!」と奇声をあげて、晶から奪いとるように赤ん坊を別室に連れていったので、晶は覚にのんびり事情を説明した。

「へえ、生後11ケ月、ってことは、確かに1年8ケ月前に出来た子供ってことになるね。ん?その頃、君たちまだ、結婚してないじゃん」
「結婚してなくても、付き合ってはいたんだよ!これが浮気じゃなくて、なんなんだ!?」
「君ねえ、どの口で、雅治の浮気を責められるわけ?」
呆れたように言われて、晶は一瞬、黙る。

「別に、責めてるわけじゃねえし。ただ、本当に雅治の子供だったら、どうすんだよ」
「まだ、決まったわけじゃないから、そのことはあんまり考えないほうがいいと思うよ。それより、昨日は大丈夫だったの?赤ちゃんの面倒、ちゃんとみれた?」
「慎太郎が手伝ってくれて、なんとかな。あと、これがあってさ」
言いながら、晶がやけに大きなバッグから、紙の束を出して覚に渡した。

「なに、これ」
「ハルが入っていた籠の中に入ってたんだ。取説、みたいだな」
「ハル?取説?」

覚が受け取ったのは、10枚ほどの紙の束で、右上がホッチキスで留められていた。
パラパラめくると、ミルクの時間や離乳食の作り方、お風呂の入れ方、グズったときのあやし方などが、ご丁寧に手描きのイラスト入りで書かれていて、まさにそれは「赤ん坊の扱い方マニュアル」だった。

「すごいね。これを読む限り、この子の母親がちゃんと愛情を持って育てていることはわかる。きっと、どうしようもない理由があって、置いていったんじゃないかな」
「かもな。だけど、こっちはほんとに迷惑だぜ。ハルはまだ歩くことは出来ないけど、すげえスピードでハイハイするんだ。起きてる間は一秒も目が離せないし、寝たら寝たで、いつ起きるかわかんなくて、こっちは熟睡もできねえし、慎太郎に泊まっていけって言ったら、あいつ、雅治が急に帰って来たら殺されるとか言って、夜は逃げるように帰っちゃうし」
「ああ、ハルって赤ちゃんの名前?可愛い名前だね」
「名前は、な。だけど、泣きだしたら悪魔みたいになるぞ。オレ、赤ん坊がこんなに手がかかる生き物だなんて、知らなかった」

晶がそう言った途端、別室から赤ん坊の泣き声が聞こえてきて、晶は、「はあ~、またか」とため息を吐いた。

「晶さーん、ごめんなさい。赤ちゃん、泣いちゃいました」
「麻由美ちゃん、ありがとう。多分、オムツだと思うから、もらう」
晶が、ハルを受け取ろうと腕を伸ばすと、ハルも泣きながら晶に向かって小さな手を伸ばした。

「あら、やっばりママがいいのね」
麻由美ちゃんの冗談に、晶は引きつった笑顔を返しながら、ハルを受け取った。

晶はバッグから、小さなブランケットを出してソファの上に敷いて、ハルを寝かせて、紙おむつを外した。
赤ちゃん専用お尻拭きウェットティッシュで、丁寧に股間を拭く。
気持ちがいいのか、ハルは泣きやんで、足をぴょんぴょん動かしている。

「こら、ハル、じっとしてろよ。オムツがはめられないだろ~」
「へえ、男の子だったんだ。可愛いオチンチン。ポークピッツみたい」
覚がハルの股間を興味深そうに覗きこんで、言った。

「ほんと、可愛いモンだよな。こんなに可愛いものが、20年たったら、あんなグロいものになるなんて、信じられないよなあ~」
「なんで僕のこと見ながら、それ、言うの。別に、僕のだけがグロいわけじゃないよね。晶だって、同じだよね」
覚は憤慨したように言ったあと、ふと、いやらしい表情になって続けた。
「でも、晶のは、今でもちょっと可愛いいけどね。サイズ感も、口に含むのに調度いいし」
いつもなら、赤面して、エロい雰囲氣になりそうな場面だったが、晶は目を吊り上げて怒った。
「おまえ、こんな無垢な生き物を目の前にして、よくそんなこと言えるな!心が腐ってる。大人って汚い」
「…………」
覚は絶句した。




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