カラダの恋人

【番外編】卒業旅行

2.ハプニング

「なんだって？！そんなハズねーだろっ！」

渋滞のせいで、旅館についたときにはすでに日が暮れていた。
はじめての長距離運転に疲れきっていたオレは、疲れも一気にぶっとぶくらい驚いてフロントで叫んだ。
「よく確認してください。もう一度」

旅館とは言っても、フロントはホテル並で、カウンターの向こうにはきちんと制服に身を包んだ従業員が真剣な面持ちで、パソコン画面を睨んでいる。

「紺野様、ですよね？男性４名様のご宿泊ということで、和室一部屋でご用意させていただいております」
「や、だから、してませんって。男性二人で一部屋で申し込みしてるんです。あとの二人は連れじゃないんです。知らない人です、この人たち。でもまあ、ミスはミスとして仕方ないんで、早速二人部屋に変更してください。和室でも洋室でも、この際こっちの二人は布団部屋でもいいですから」

従業員は眉間に皺を寄せて、心から申し訳なさそうな表情を見せつける。
「大変申し訳ありませんが本日は修学旅行生がおりまして、生憎の天候にもかかわらず、幸いにも満室でございまして…」

その証言を裏付けるように、オレたちの後ろをジャージ姿の小学生のガキどもが奇声を上げながら通り過ぎた。

「……ああいうのがウジャウジャいるってことっすか？」
「はい。お子様はお元気ですね。ですが、ご安心ください。修学旅行生の入浴時間はまもなく終わりますので、そのあとでしたらごゆっくりご入浴していただけますし、お部屋の方は別棟になってますので」

オレはこめかみを押さえた。
踏んだり蹴ったりとはこのことだ。
「紺野、もういいから。早く部屋行こう」
後ろでトモが欠伸をしながら言う。

「あ～あ、オレもシノと二人部屋が良かったなあ」
それはこっちのセリフだっ。
加藤、てめえ、後で殺す。

「陸、しょうがないじゃん。ごめんね、紺野君、なんかオレの従兄弟、間違えたのかなあ」
四ノ宮に謝られたら、これ以上ごねることも出来ない。
オレは諦めて、フロントマンから部屋の鍵を受け取った。

部屋は案外悪くなかった。
広い和室で、障子を開けると濡れ縁の窓からは海が見えた。
ただし、今は窓を叩く雨に視界を塞がれて、灰色の空と灰色の海がやっと見える、というくらいだ。

お茶を飲んで一休みすると、トモが風呂に行くという。
もちろんオレも一緒に行く。
「シノ、オレたちも行こうよ」
加藤が四ノ宮に向かって言った。
オレは振り返ってギロッと四ノ宮を睨んだ。

「えーと、オレたちはもう少ししてから行くから、紺野君たち、先どーぞ」
「ええ、なんでだよ。オレも早く風呂入りてえよ。お腹空いたしさあ」
「いいから、陸。ゲーセン行こう」
風呂だゲーセンだと揉めている加藤と四ノ宮を部屋に残し、オレとトモは風呂に向かった。

これでやっと二人きりになれる。
オレはこの旅ではじめて楽しい気分になった。