カラダの恋人

フジキフジコ

文字の大きさ
70 / 91
ヒミツの恋人【第一部】

18.脅迫

しおりを挟む
訪ねて来たのは私服姿の滝沢だった。
「滝沢か。どうかしたか?先生ちょっと今、取り込み中なんだけど…」
「先生にお話があります。見てもらいたいものも」
うちの玄関はダイニング丸見えだから、ダイニングテーブルに紺野と松浦がいるのは見えるはずなのに、滝沢は二人のことを気にもとめない。

「お邪魔させてもらってもいいですか?」
「いい、けど…」
失礼します、と礼儀正しく挨拶をして、滝沢は靴を脱いで上がってきた。
「紺野さん、こんにちは」
「今日はなんの用だ」
大人気ない紺野が、不機嫌な声で聞く。

「これを、佐倉先生と紺野さんに見てもらいたいと思いまして」
そう言いながら滝沢がにこやかに茶封筒から出したのは、オレと紺野が抱きあっている写真だった。
「なっ、なんだ、これ?!」
しかもその構図は記憶に新しい、ついさっきの出来事、ヤリ部屋で紺野に抱きついたときのものだった。
つまり、オレときたら上半身裸で、思い切り紺野に抱きついている。

「おまえ、なんで?!どうやってこれ、手に入れたんだよ?!」
「『BOB』の二人と、ちょっとした知り合いなんです。まあ、いいじゃないですか、そんなことは。それよりも、交渉しましょう、先生。先日、お願いした件、覚えてますか」
「なんだっけ」
とぼけたわけではなく、写真に動揺するあまり、滝沢の言いたいことがわからなかった。
滝沢は綺麗な顔を、ほんの少し不愉快そうに歪めて、「高井のことです」と言った。

「高井?ああ、内申を交換って、アレ?おまえ、まだそんなこと考えてたのか。高井は進学はしねえって言ってたぞ」
「そんなの本心じゃないです。先生にそんなこと言っても仕方ないので、とにかく、先生は高井に指定校推薦出来るってことを、言ってください」
「だから、そんなこと出来ねえって。おまえねえ、不正で進学するってどういうことかわかってるのか?その後の人生でずっとそのことの負い目を背負ってくことになるんだぞ」
いい加減頭に来て、オレは少々キツイ言葉で言った。
けれど滝沢は全然めげない。

「いいんですか?先生が僕の言う通りにしてくれないのなら、この写真を教育委員会に送ります。先生も、紺野さんも、教師やめないといけなくなりますよ」
最近の子供はへんに知恵がついていて、まったく、可愛くない。
しかも痛いところを的確についてくる。
とほほ、だ。

「よく撮れてはいるんだけどな」
紺野が写真を片手に持ちながら、言った。
「これってデジカメで撮ったろ。ダメだなあ。デジカメで撮った写真って言うのは法廷では証拠として使えないんだぜ」
そうなのか、知らなかった。
オレがほっとしていると、負けてない滝沢が紺野に向かって言った。
「別に裁判所に訴えると言ってるわけではありません。頭の堅い教育委員会の偉い人たちに見せるだけですよ。その写真見て、その二人が教師として相応しいかどうか、判断してもらうというだけのことです」
「偉い人に呼びつけられたら、言ってやるよ。よく見てください、コレ、合成ですよって。首から上、変えてるんですって。オジサンたちに本物と合成の区別がつくかなあ」

若干、紺野の方が優勢になったようだ。
滝沢の表情から微笑が消えて、無表情になる。
美少年のそういう顔はなかなか見ごたえがある。

「紺野さんって」
滝沢が、紺野を見ながら言った。
唇だけが、笑っている。
「そういう嘘、つけないでしょう。佐倉先生のこと、問い詰められて恋人じゃない、関係ないって、言えますか」

睨み合う、滝沢と紺野。
容貌だけは文句のつけようがない二人が対峙する様は怖いくらい絵になっていて、漲る緊張感に、部屋の温度が1、2度下がったような気がする。
オレと松浦はすっかり場外の人だ。

「滝沢」
紺野が冷ややかにオレの生徒を呼び捨てで呼ぶ。
結構、怒っているようだ。
「やっぱり、おまえ、洞察力は鋭いなあ。確かにオレは正直者だから、自分や他人に嘘をつくのは嫌いだ。とくに、好きなものを嫌いだなんて言うのは反吐が出るほど耐え難い。オレはトモを好きなこと、誰に対しても後ろめたいなんて思ってねえし、間違ったことだとも1ミリも思ってないしな」
オレは呆れた。
なにも生徒に向かってそんなことを宣言する必要はないと思う。
だけど。
ほんの少し、胸がすくような快感を感じた。
誰に対しても後ろめたいなんて思ってない。
間違ったことだとも、思ってない。
紺野のその言葉に、数日間わだかまっていたことから解放されたような気がして。
オレは自分自身の気持ちを探しながら、本当は、紺野の気持ちを探っていたのかもしれない。

紺野の言葉に、滝沢は勝ち誇ったような得意そうな表情をした。
でも滝沢、喜ぶのは早いと思うぞ。
負けず嫌いの紺野はたとえ口喧嘩だって勝算のない喧嘩は吹っかけない。

「だけどなあ、物事には優先順位ってモンがあるんだよ。わかる?大切なもの、傷つけたくないものを守るためなら、大抵のことは出来る。どんな卑怯なことでも、ポリシーに反することでも、だ。嘘をつくくらい、なんでもねーよ。残念だったな、バーカ」
教師にあるまじきレベルの低い暴言を吐いて、紺野は手に持っていた写真を破いた。
「どーせなら、部屋に飾れるようなもっといい写真持って来いよ」
アホ抜けせ!誰が飾るか、んなモン!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...