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【番外編】好きにならずにいられない
4【完】なかよし
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待ち合わせのボーリング場に着くと、背の高いがっちりした青年と、痩せた青年の二人がいた。
後輩の「加藤君」と「四ノ宮君」だと、紺野先生が紹介してくれた。
四ノ宮君の顔に見覚えがあったので「紺野先生の部屋にあった写真に写ってましたよね」と僕が言うと、加藤君が険しい表情で「どういうこと?!紺野君、まさかシノのこと狙ってんのっ?!ダメだからね、シノはオレのなんだから!」と言いながら、四ノ宮君を抱きしめた。
「バーカ、なに言ってんだ、おまえ」
紺野先生が呆れたように言う。
そういえば、随分髪型が違うので気づかなかったけど、加藤君も映っていた。
「そういえば加藤君も映ってました」と慌てて僕が言うと、加藤君は「え、マジで?困るなあ、いくら紺野君でも、オレは遠慮しとく」
「おまえ、絞め殺すぞっ」
後輩相手のせいか、紺野先生は普段学校ではしない言葉遣いで、今まで見たことのなかったような表情を見せてくれる。
現役大学生の二人のせいか、紺野先生も佐倉さんも、同じように学生に見える。
ボーリングは2レーン借りて、5ゲームやった。
最後の方はボールが重くて持ちあがらなかったほどだ。
加藤君はストライクかスペアを決めるたびに四ノ宮君に抱きついて喜ぶ。
すごく仲がいいんだなあ、と思って二人を見ていた。
紺野先生と佐倉さんのハイタッチも息がぴったりだった。
4人はとてもいい仲間だ。
はじめて会った人たちの方が多いのに、居心地が良過ぎて、僕はこのまま時間が止まってしまえばいいのに、と思った。
ボーリングの後、ファミレスで食事をして、カラオケに行くことになって歩いているとき、ゲーセンの前に置かれたプリクラを見つけた加藤君が「一緒に撮ろう!」と四ノ宮君を連れて行った。
戻ってくると、加藤君が「ハイ、今日の記念に山田君にあげるね」と言って、撮影したプリクラのシールを1枚くれた。
「わあ、ありがとう」
見ると、顔を寄せ合った2人の回りに、花のイラストが被せてあり、下の方には文字で『らぶらぶ』と書いてあった。
今時のプリクラってすごいなあ。
感心しながらじっと眺めていると、加藤君が「紺野君たちも、撮れば?」と、紺野先生に言った。
「なっ、馬鹿なこと言うなよ」
佐倉さんが慌てたように、言う。
加藤君は佐倉さんの言葉に「なんで?」という顔をして、その顔が僕を見て「そっか、言ってないんだ」と、納得したように呟いた。
どういう意味なのかな、と考えていたら、加藤君が「じゃあ、5人で撮ろう!」と言い出し、嫌がっていた佐倉さんの腕を引いて、プリクラの方に連れて行く。
紺野先生は仕方なそうにその後に続き、四ノ宮君は紺野先生と僕に「陸がわがままばかり言って、ごめんねー」と謝った。
5人で撮った写真の回りには、星が散りばめられた。
ペンを持ってしばらく考えていた加藤君が書いたコトバは『なかよし』だった。
加藤君が切り分けて僕にくれた1枚を、宝物のよう手の中に包んで見つめているうちに、嬉しくて、胸が熱くなって、ダメだダメだと思っていたけど、僕はつい、ポロポロと涙を溢してしまった。
「す、す、すみません!ぼ、僕、嬉しくて。は、はじめてなんです」
はじめてなんです、こんなふうに、誰かと休日を一緒に過ごすこと。
家族以外でボーリングをしたのも、食事をしたのも、プリクラを撮ったことも。
大好きな、憧れている紺野先生と一緒にいられることも嬉しいけど、佐倉さんも、加藤君も四ノ宮君も、みんな良い人で、こんな僕に優しくしてくれて。
みんなは、人通りの多い街の中で突然泣き出した僕を、人の目から守るように囲ってくれて、拙い僕の言葉を聞いてくれた。
「オレ、山田先生のこと、好きですよ。っていうか、尊敬してます」
紺野先生がそんなふうに慰めてくれた。
「慰めてるわけじゃなくてですねえ、山田先生、次の日の授業の予習を、必ず教室でリハーサルしているでしょ?どういう風に説明するのが一番わかりやすいか、何時間もノートに書き込みながらしてるの、オレは知ってます。そういう努力って、わかるヤツにはわかると思うんですよね。きっと、いますよ、オレ以外にも山田先生のこと、尊敬してる人」
「オレも、紺野に前から山田先生のうわさ聞いて、すごいなって思ってましたよ。そういうことって、出来そうで出来ないんですよね。毎日毎日、何かに追われちゃって。オレも、同じ教師として尊敬してます」
佐倉さんまで、そんなことを言ってくれた。
なぜか学生の加藤君まで「はい、僕も僕も!山田君のことリスペクトしてます!」と手を上げて言う。
四ノ宮君は「陸、やめろってば。恥ずかしいから」と必死で加藤君に言っている。
「シノのこともリスペクトしてます。つーか、大好きです!シノのことが大好きな自分のことも大好きです!」
加藤君に抱きつかれた四ノ宮君が、「ぎゃあ!」と叫んで、僕は泣きながら笑ってしまった。
紺野先生も、佐倉さんも、笑っていた。
紺野先生に出会って、紺野先生のことを好きだと思いはじめてから、僕の心の中には今までになかった、なにか温かい気持ちが生まれた。
人を「大好き」だと思う気持ちは、とても素敵だ。
だから、この人達はこんなに素敵なんだ。
加藤君の言っていることは間違いじゃない。
誰かを「好き」になると、誰かを好きな自分のことも好きになれる気がした。
僕は、みんなが大好きな自分を、はじめて好きになれると確信した。
END
NEXT➡ヒミツの恋人第二部
後輩の「加藤君」と「四ノ宮君」だと、紺野先生が紹介してくれた。
四ノ宮君の顔に見覚えがあったので「紺野先生の部屋にあった写真に写ってましたよね」と僕が言うと、加藤君が険しい表情で「どういうこと?!紺野君、まさかシノのこと狙ってんのっ?!ダメだからね、シノはオレのなんだから!」と言いながら、四ノ宮君を抱きしめた。
「バーカ、なに言ってんだ、おまえ」
紺野先生が呆れたように言う。
そういえば、随分髪型が違うので気づかなかったけど、加藤君も映っていた。
「そういえば加藤君も映ってました」と慌てて僕が言うと、加藤君は「え、マジで?困るなあ、いくら紺野君でも、オレは遠慮しとく」
「おまえ、絞め殺すぞっ」
後輩相手のせいか、紺野先生は普段学校ではしない言葉遣いで、今まで見たことのなかったような表情を見せてくれる。
現役大学生の二人のせいか、紺野先生も佐倉さんも、同じように学生に見える。
ボーリングは2レーン借りて、5ゲームやった。
最後の方はボールが重くて持ちあがらなかったほどだ。
加藤君はストライクかスペアを決めるたびに四ノ宮君に抱きついて喜ぶ。
すごく仲がいいんだなあ、と思って二人を見ていた。
紺野先生と佐倉さんのハイタッチも息がぴったりだった。
4人はとてもいい仲間だ。
はじめて会った人たちの方が多いのに、居心地が良過ぎて、僕はこのまま時間が止まってしまえばいいのに、と思った。
ボーリングの後、ファミレスで食事をして、カラオケに行くことになって歩いているとき、ゲーセンの前に置かれたプリクラを見つけた加藤君が「一緒に撮ろう!」と四ノ宮君を連れて行った。
戻ってくると、加藤君が「ハイ、今日の記念に山田君にあげるね」と言って、撮影したプリクラのシールを1枚くれた。
「わあ、ありがとう」
見ると、顔を寄せ合った2人の回りに、花のイラストが被せてあり、下の方には文字で『らぶらぶ』と書いてあった。
今時のプリクラってすごいなあ。
感心しながらじっと眺めていると、加藤君が「紺野君たちも、撮れば?」と、紺野先生に言った。
「なっ、馬鹿なこと言うなよ」
佐倉さんが慌てたように、言う。
加藤君は佐倉さんの言葉に「なんで?」という顔をして、その顔が僕を見て「そっか、言ってないんだ」と、納得したように呟いた。
どういう意味なのかな、と考えていたら、加藤君が「じゃあ、5人で撮ろう!」と言い出し、嫌がっていた佐倉さんの腕を引いて、プリクラの方に連れて行く。
紺野先生は仕方なそうにその後に続き、四ノ宮君は紺野先生と僕に「陸がわがままばかり言って、ごめんねー」と謝った。
5人で撮った写真の回りには、星が散りばめられた。
ペンを持ってしばらく考えていた加藤君が書いたコトバは『なかよし』だった。
加藤君が切り分けて僕にくれた1枚を、宝物のよう手の中に包んで見つめているうちに、嬉しくて、胸が熱くなって、ダメだダメだと思っていたけど、僕はつい、ポロポロと涙を溢してしまった。
「す、す、すみません!ぼ、僕、嬉しくて。は、はじめてなんです」
はじめてなんです、こんなふうに、誰かと休日を一緒に過ごすこと。
家族以外でボーリングをしたのも、食事をしたのも、プリクラを撮ったことも。
大好きな、憧れている紺野先生と一緒にいられることも嬉しいけど、佐倉さんも、加藤君も四ノ宮君も、みんな良い人で、こんな僕に優しくしてくれて。
みんなは、人通りの多い街の中で突然泣き出した僕を、人の目から守るように囲ってくれて、拙い僕の言葉を聞いてくれた。
「オレ、山田先生のこと、好きですよ。っていうか、尊敬してます」
紺野先生がそんなふうに慰めてくれた。
「慰めてるわけじゃなくてですねえ、山田先生、次の日の授業の予習を、必ず教室でリハーサルしているでしょ?どういう風に説明するのが一番わかりやすいか、何時間もノートに書き込みながらしてるの、オレは知ってます。そういう努力って、わかるヤツにはわかると思うんですよね。きっと、いますよ、オレ以外にも山田先生のこと、尊敬してる人」
「オレも、紺野に前から山田先生のうわさ聞いて、すごいなって思ってましたよ。そういうことって、出来そうで出来ないんですよね。毎日毎日、何かに追われちゃって。オレも、同じ教師として尊敬してます」
佐倉さんまで、そんなことを言ってくれた。
なぜか学生の加藤君まで「はい、僕も僕も!山田君のことリスペクトしてます!」と手を上げて言う。
四ノ宮君は「陸、やめろってば。恥ずかしいから」と必死で加藤君に言っている。
「シノのこともリスペクトしてます。つーか、大好きです!シノのことが大好きな自分のことも大好きです!」
加藤君に抱きつかれた四ノ宮君が、「ぎゃあ!」と叫んで、僕は泣きながら笑ってしまった。
紺野先生も、佐倉さんも、笑っていた。
紺野先生に出会って、紺野先生のことを好きだと思いはじめてから、僕の心の中には今までになかった、なにか温かい気持ちが生まれた。
人を「大好き」だと思う気持ちは、とても素敵だ。
だから、この人達はこんなに素敵なんだ。
加藤君の言っていることは間違いじゃない。
誰かを「好き」になると、誰かを好きな自分のことも好きになれる気がした。
僕は、みんなが大好きな自分を、はじめて好きになれると確信した。
END
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