ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

文字の大きさ
14 / 81

14しばしの別れ①

しおりを挟む
 およそ半年後、レオポルドが王立学校への登校を始める日が近づいてきた。

 6年間の武者修行とでもいったらよいか。
 王宮をしばし離れて外へ出る。豊かな心を育むために、これほど大事な出来事は他にない。学校は全寮制で、忙しい期間には、家に帰れない月もあるという。親離れという意味でも成り立っているところが、学生たちの辛いところだ。

「ルイ。ちょっと来てくれよーー」

「おはようございます。どうされたのですか、レオ様」

 朝から廊下をこだまする少年の声。彼が元気に挨拶をしてくることは、もうルイには慣れたものだ。

「学校のよしゅうをしたい!それが終わったら、遊びに行こう!」

「昨日出された課題はもう終わっているのですか?」

「ぜんぜん!ルイ、それもおしえてくれ」

 まったく。ルイは呆れながら少年をたしなめた。昨日の数術の授業は、担当者がそうとう高齢の教師らしい。レオポルドは「ねむい」とその家庭教師の授業を放り投げたこともある。

「学校には私はいないのですよ?」

「そうだけど……ルイがおしえてくれるとわかりやすいんだ」

 ここに来て、もうすぐ1年になる。
 ルイは母国語よりも、シオン語を流暢に話せるようになってきた。ふと思い返すと、夢中になって少年の世話をしていたと思う。自分の日課よりもレオポルドの生活の面倒を見ることの方が多くなっている。

 嫁入り前は胸にぽっかり穴が空いていたようだった。でもこれが今では、心のどこを探っても見当たらない。

「褒めすぎです」

「だって本当のことだもん」

 親の目線って、こんなカンジなのだろうか。親というほど長くいるわけではないのだけど。ぼんやりとルイはそんなくだらないことを考えたりする。彼は不思議と、この生活に充実感を見出せていた。

 ルイとレオポルドは勉強を終えたあと、外庭で球戯を楽しんだ。ルイは名目上は妃なので、人目につかないことが強く求められている立場にある。これは男でも女でも同様。妻が夫以外に袖を振るなど許されないという慣習のとおりである。
 だからうろうろと外を出歩くのは人聞きが悪いこと。のはずであった。しかしこの夫妻の場合、事情がまったく異なっていた。


 幼い第三王子の妻である「エスペランサの姫君」。彼は透明感のある美貌に加え、10歳の夫を立てる器量よしだと巷では好評だった。
 当たらずも遠からず。確かにルイはレオポルドの世話をほとんど付きっきりでしている。王子の母は育児にまったくといってよいほど関与してこない。王様も同じで野放しの有様だった。

 小さな王子と妃が手をつないで寄り添う光景は、人々の気持ちを温める。王宮の厳格な雰囲気はどこにもない。彼らの世界は清い平和そのものを具現化していた。



「レオ様。もう寝る時間ですよ」

「うん……でもなぁ。まだねむくないよ」

 決闘大会から、レオポルドはルイの部屋で寝るようになっていた。少年の自室は、学校に持っていくための荷物がぎゅうぎゅうに積まれていた。

 ルイは床に寝転がる少年を目に入れながら、実家宛てに手紙を記していた。ほのかな光源を頼りにペンを走らせる。シオン王国の状況や王宮内の動きを書き漏らすことなくまとめる。
 
「明日には宮を出払うのですから。しっかり寝て、英気を養っておいてください」

「学校……やっぱり行きたくない」

「なにを弱気になっているんですか。レオ様らしくありませんね」

「ルイと離れたくないよ」

 帰省すればいつでも会える。何度もそのように言って聞かせていたのに、直前でぽろぽろとレオポルドは涙をこぼした。ベッドのシーツを握りしめて彼は声かどうかもわからない呻きを漏らす。

「ずっとここにいたい」

「すぐに学校が楽しくなります。兄君たちがそうであるように」

 ルイは学校に通ったことがないが、愉快で楽しいところなのだとなんとなく想像していた。たくさんの仲間と切磋琢磨できる環境、とても素晴らしい思い出ができそうだ。

「さぁもう寝ましょう。侍女たちももうお暇するようです」

「じゃあいっしょにねようよ」

 手を引かれ、ねだられたルイは作業を中断してベッドに近寄った。

「わかりましたから、もう泣くのはよしてくださいね?」

「ずっ。う、うん」

 丸い頭を撫でて、流れる鼻水を手巾で拭きとってやる。レオポルドはルイの懐にもぐると、ぎゅっと顔を押し付けてくる。笑ったり泣いたり、寂しがったり甘えたり。子どもって忙しないなとルイは感じながら、目を閉じた。

「いいにおい……」

「しゃべるならあっちに行きますよ?レオ様」

 結局、寝息が聞こえてくるまでルイは床を離れることはなかった。
 消えかけのロウソクの火を構うことも忘れ、眼前の子どものだらしない寝顔を眺めていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。 広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。 「は?」 「嫁に行って来い」 そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。 現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる! ……って、言ったら大袈裟かな? ※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

【完結】こじらせ半猫くんは、好きな人の前だけ可愛い―溺愛ダーリン×半猫化男子―

砂原紗藍
BL
大学生の三毛乃レンは、雨に濡れたり感情が高ぶったりすると、ふわふわの猫耳としっぽが勝手に出てしまう“半猫体質”。 誰にも知られないように隠してきたのに、気になっていた隣人・橘カナトに見られてしまう。 「お前は、そのままで可愛い」 そう言って優しく受け入れてくれるカナトに対し、レンは「別に嬉しくない」と強がる。 でも本当は――寂しがりで不安になりやすく、嫉妬も拗ねるのも止められない“無自覚メンヘラ”気質。 実はその原因は、“幼い頃に背負った傷”にあった。 半猫姿を狙われて怯えたり、危ない目に遭えば、カナトは迷わず抱き寄せて守ってくれる。 そんな溺愛に触れていくうちに、気づけば、“心も体も”カナトなしでは生きていけなくて――。 「カナトさんがいないと、やだ。置いてかないでね」 「置いていかない。絶対に」 「……約束?」 「約束するよ」 レンを守り甘やかす一方で、嫉妬や拗ねるレンにデレデレになりがちなカナト。 耳もしっぽも、心も体も――お互いを独り占めしたくて、手放せない。 こじらせ半猫男子と、一途に溺愛するダーリンの、甘々ラブストーリー。

わからないから、教えて ―恋知らずの天才魔術師は秀才教師に執着中

月灯
BL
【本編完結済・番外編更新中】魔術学院の真面目な新米教師・アーサーには秘密がある。かつての同級生、いまは天才魔術師として名を馳せるジルベルトに抱かれていることだ。 ……なぜジルベルトは僕なんかを相手に? 疑問は募るが、ジルベルトに想いを寄せるアーサーは、いまの関係を失いたくないあまり踏み込めずにいた。 しかしこの頃、ジルベルトの様子がどうもおかしいようで……。 気持ちに無自覚な執着攻め×真面目片想い受け イラストはキューさん(@kyu_manase3)に描いていただきました!

処理中です...