だてに30数年生きてない

音成アオイ

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ブサイクのまま生きていくつもりなんて無い2/4

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という事で、もちろんアイプチをフル活用した。
中学は学校に化粧をしていけないから、休みの日だけ。高校に入ってからは毎日アイプチ。
万が一にでも途中で取れてきては困る。恐ろしい顔が露呈して死ぬ。私の瞼の重力に12時間以上耐え得る強力なものでなくてはならない。
アイプチとバレるのは構わないが、あまりに不自然に裏瞼が見えてるような『糊でくっつけてます!』な感じはみっともない。「自然な二重に」「クセづけていずれ本当の二重になれる」「美容成分配合」「絶対取れない」あらゆる謳い文句のアイプチを、それはもう5、6千円の高額商品から何から試した。


オシャレをしたい、恋をしている、かわいくなりたい、ティーンエイジャーは真剣なのだ。
中学生の時、1学年上のオシャレな先輩のことが好きだった。
私は学校に履いていくスニーカーを丁度買い替える時で、母親にadidasを買ってほしいとお願いした。オシャレな人は、その辺のスーパーで買えるノーブランドの白いスニーカーではなく、adidasとかNikeのスニーカーを履いていたのだ。
高いだとか何でも一緒でしょとか文句を言っていた母親は、私の知らぬ間に細い5本ラインのadidasのパチものスニーカーを買ってきていた。「あんたがこの黒いラインのやつって言ったんでしょ!」と怒られその最高にダサいスニーカーを履いていかざるを得なくなった時、これを履いているところを先輩に見られるくらいなら死んだ方がマシだと本気で思った。
舞子は思春期ニキビとふっくらした体型に悩んで、徹底的にお菓子・脂ものを避けた。その結果肌はすごく綺麗になったし体重も5キロ落ちた。中学3年の食べ盛り、買い食い盛りの中あれだけ強い意志でやり遂げたのは間近でみていて本当に立派だった。
栗ちゃんは天パーに悩んで、大量のヘアピンをオシャレ使いしてなんとか髪を押さえ込んでいた。高校に入学して中学まで続けていたバスケット部に入るか迷ったが、バスケは接触が多いスポーツだからヘアピン禁止と言われて陸上部に入る事にした。

それは全然くだらなくなんかない。


毎日アイプチでグッグッと瞼を酷使していたら、赤く腫れるようになってきた。最初から腫れているけど。もっと、病的に腫れてきた。
それでも1日も休むことなくアイプチを使っていたら瞼が切れて膿が出るようになってきた。
それでも染みて痛いのを我慢してアイプチを使い続けていたら、なんかもう赤くただれて酷いことになっていった。
元々いずれは整形するつもりだった。
例えば事故にあって、病院のベットで目が覚める時、意識が戻っても目を開ける瞬間に「今、周りに誰がいる?!私アイプチ取れてるよね?!目開けていい状況か?!」と考えてしまうだろう。もしも友達や恋人が見守っているとしたら、みんなが帰るまで意識が戻らないふりをしなければならない。
いつか反町隆史と結婚したいと思っているのだが、一生スッピンが見せられない。お風呂から出てもアイプチしなきゃいけないし、何より一緒に寝る時に糊がくっついてて薄っすら瞼の裏側が見えてる顔なんて絶対に見せられない。一生アイプチで生きていくのは無理だ。

くだらなくなんかない、至って真剣な考えだ。


高校を卒業したらやろうかな?と何となく考えていたが、瞼の膿だらけ問題で思ったよりその時期は早くなった。迷いなんか何もなかったしお金も準備していた。
夢のために、かわいくなるために、自分のために今自分ができることは最大限する。「お金がないからできない」なんて言語道断。
やりたい事が決まったらすぐ行動に移せるためにお金はしっかり稼いでおく。
高校生は夜22時までしか働けない。だったら朝早い分には問題ないよね?!と、夏休みの短期バイトは朝6時から市場で働いた。
2つ掛け持ちするのも当たり前。居酒屋に工場、1日勤務の販売員、カフェ、高校2年生にしてかなりのバイト経験がある。整形費用の10万円も問題なく払えた。
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