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第21話 フチルベ邸、訪問

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「どうなされました!」

フチルベ邸では大騒ぎ。
使用人長の【デッセン】が、帰って来てからずっとムスッとしているブラウニーの相手をしていた。
しかし、何を聞いても口をつぐんだまま。
機嫌が悪いのはここ最近では当たり前だが、返事さえしないのは珍しい。
デッセンは困り果てる。
大旦那様から坊ちゃんをお預かりした身、しっかりせねば。
何か原因がある筈。
どうするか?
外へ出て町中を聞き回るか?
でもその間に、坊ちゃんが居なくなったら……。
身動きが取れない。
しかし、原因は向こうからやって来た。



「ごめん下さい。」

豪邸の門番に挨拶する、旅の行商人とやら。
その様子を2階の窓から見ていたブラウニーが。
『わああああーーっ!』と大声を上げ、ドタドタと階段を降りて来る。

「おい!門の前に来てるのは……!」

ブラウニーは興奮していた。
門番から話を聞いたデッセンに掴み掛かる。

「お、落ち着いて下さい!旅の途中で、何やら大旦那様に挨拶したいとか……。」

「通せ!今すぐにだ!」

「大旦那様は外出中ですが……。」

「俺が相手をする!早く!」

訳も分からず、屋敷内に通すデッセン。
入って来たのは、若い女3人組だった。



『本当に大丈夫なの?』

『まあ何とかなるさ。』

クライスにそう言われたのは良いが。
『ここまでする必要が有るのかしら?』と、ふと思うラヴィ。
フチルベに挨拶したいと訪問したが、本人不在なのは承知。
それでも押し掛けたのは、クライスが『使える』と踏んだ今の状況。
ブラウニーがここまで荒れた原因を聞き出し、それを解決してやればこちらへ有利となる。
モッタの権力争い解決にも繋がる。
その役に、俺は寧ろ邪魔。
気に入られたラヴィなら……。
護衛を兼ねて、セレナとアンも同行。
『それで良いだろ?』とクライスに押し切られた。

『私達が付いていますから。』

『安心して。』

不安げな表情のラヴィを、セレナとアンが気遣う。
『これじゃ政略結婚の時と変わらないじゃない』と、釈然としないラヴィだった。



応接室に通されて、ソファに腰かける3人。
そわそわするラヴィ。
そっとラヴィの手を握るセレナ。
或る《仕込み》をするアン。
部屋に入って数分も経たない内に、ドアが『バーーーン!』と開け放たれた。

「良く来たな。俺が屋敷の長、ブラウニー・フチルベだ。」

「初めまして。」

『やあやあ』と手を上げながら、入って来るブラウニー。
立ち上がってお辞儀する3人。
形式ばった挨拶。
王宮に居た頃と同じ感じ。
何か詰まんない。

「んーーーー?何処かで見た顔だなあ?」

わざとらしくオーバーアクションするブラウニー。
そしてラヴィの前に回り込む。

「やっぱり!君はあの時の!」

あー、わざとらしい。
クライスの命で無ければ、顔にグーパンチを食らわしている事だろう。
そこをグッと堪える。

「あの時、とは……?」

「装飾品店の前で会っただろう?俺ははっきり覚えてるぞ!」

「あら、そうでしたかしら?」

『おほほほ』と誤魔化すラヴィ。

「あの時の言葉、今ここで実現させよう!」

ブラウニーの宣言に、ひそひそ話を始める3人。
詳しい事情は、アンとセレナに話していないのだ。

『何の事です?』

『俺の物にしてやるー、とか捨て台詞吐いて逃げてったのよ。クライスに完敗して。』

『呆れた!そんじょそこらの男が兄様に勝てるもんですか。』

『アン、あなたも大概ね。』

『?』

まあ良いわ。
気を取り直して、具体的な会話に入ろうとするラヴィ。

「フチルベ様は、もっとふくよかな方とお聞きしていましたが……?」

「親父は最近ずっと、首都のモッテジンに行ったきりだ。ここは俺が任されてる。だから俺が長だ。」

「そうですか、ご不在ですか……。残念ですが、ご挨拶はまたの機会に……。」

そう言って、応接室を出て行こうとするラヴィ。
それを慌てて引き留めようとするブラウニー。
ここから駆け引きは始まっていた。



「それで?大旦那様への挨拶だけでは無いのでしょう?」

さっきのブラウニーの慌てっぷりを見て。
ふくれっ面の原因は彼女達だと気付いたデッセンは、3人を押し留める為に話を振る。

「いえ、その話はフチルベ様がいらっしゃる時に……。」

尚も立ち去ろうとするラヴィ。
ますますブラウニーは慌てる。

「何をしている!菓子は!紅茶は!」

「はい!今すぐに!」

急かされてキッチンに飛んで行く、使用人達。
『可愛そうに』と気の毒に思うラヴィだが、ここで手を緩める訳には行かない。
何しろ、ここでの頑張りが。
後々、目指す未来に繋がるのだ。

「そこまでおっしゃいますなら、お話ししましょう。実は……。」



勿体ぶった振りをして、ラヴィは話し始めた。
クライスが考えた話通りに。
その内容とは……?
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