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第112話 親父、あくまでも強気

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「あいつは!力を吸い取る気だぞ!」

デュレイがそう叫ぶのも間に合わず。
親父はエナジードレインを開始した。
手元の小さな球が輝いて行く。
トクシーは慌てて、捕らえた見張り達を前に出す。

「この者達がどうなっても良いのか!手下だろう!」

見張り達も必死に命乞いをする。

「親父ぃ!俺達は仲間だよな?」
「殺しはしないよな?そうだよな?」

しかしそれには耳も貸さず。
ただ球に集中する。
輝きを増す球。
このまますぐに、あの世へ送ってやるよ!
フハハハハ!
勝った!
確信したのはそうした時。



ところが。



「聞く耳持たずか、哀れな。」

冷静に呟くクライス。

「早くしないと!大変な事に!」

焦るデュレイ。
虹の壁の外なのでデュレイは影響しないが、その分皆が心配なのだ。
普通は焦って混乱し、オロオロする状況。
しかしクライスは至って平静。
クライスは、トクシーとロッシェに命じる。

「目の前の壁をぶっ叩いて!タイミングを合わせて、一点集中で!」

「ワハハハ!とち狂ったか!そんな攻撃で破れるか!」

親父は答える。
クライスの顔は自信満々。
その表情を信じ、ロッシェとトクシーは壁に向かって構える。

「捻じ込む様に撃つぞ!良いか!」

「分かったぜ!先生!」

2人は正拳突きの構え。
そして呼吸を合わせ。

「「せーのっ!」」

「だから、そんな攻撃……。」



ドスンッ!



「うっ!」

親父は腹を押さえてうずくまる。
うっかりポロリと球を落としてしまう。
それは地面に落ちると、パリンと割れた。
その刹那、結界の様な虹の壁が消えた。
クライスが号令を掛ける。

「一斉に!突撃!」

「おらあああああぁぁぁぁぁ!」
「うらあああああぁぁぁぁぁ!」

男3人が、洞窟の出入り口に走り出す。
親父はまだ立ち上がれない。
手下が2人掛かりで引き摺っていく。
3人が外へ飛び出した時。



「構え!」



漸く話せる様になったのか、親父が叫ぶ。
見ると。
出入口を取り囲んだ手下達は、この世界では見た事も無い道具を持っていた。
トクシーもロッシェも知らない。
だがクライスは知っていた。

「銃、か。しかもライフルとは。」

この世界は、剣や槍といった近接格闘の戦い方が主流。
弓を使う事もあるが、飛び道具はそんな程度。
銃なんて物は高度な技術過ぎて、本来この世界には存在する筈など無い。
と言う事は……。

「誰だ?力を貸したのは?」

「な、何の事だ!」

親父が威嚇する。

「お前等のバックに付いている奴が指示したんだろう?そいつがワルスとか言う奴か?」

クライスの問いに、まともには答えない親父。

「俺達は使い方を習っただけだ。『簡単に人を殺せる道具』って聞いてな!」

チャッと構える手下達。
銃口がクライス達に狙いを付ける。
『なるほど』とクライスは思った。
そして呟く。

「使い方だけと言う事は、〔原理は知らない〕んだな?」

「そんなもん分からなくても使えるんだよ、こいつは!便利なもんだぜ!」

さっと右手を上げる親父。
そしてクライス達の方へ振り下ろす。

「撃てーーーーっ!」



バンッ!



ボフッ!



「うわああっ!」
「ぎやああああっ!」

手下の手元でライフルが暴発する。
気の毒に、手下の指が跡形も無くなった。
そしてライフルは、真ん中でポッキリ折れた。
最早使い物にはならない。

「何だ!どうした!何があった!」

親父が周りに問うも、手下達は皆痛みで苦しんでいる。
まともに答えられる者は居なかった。

「ならば!」

親父は懐から取り出す。
今度はピストル。
リボルバータイプ。
クライスに狙いを定め。
撃鉄を引く。
トリガーに指を掛け。
正に今撃とうとしていた。

「これは避けれまい!死ねえ!」



引き金を引いた。
筈だった。
しかし引き金は動かない。

「くそっ!何でだ!くそっ!」

幾ら力を込めても動かない。
両手で構え直し。
思い切り引き金を引いた。
すると。



バゴンッ!



「ぎいいいえええあああああ!」



またしても暴発。
ピストルのリボルバー部分が爆裂し、破片が親父の顔を襲った。
利き目の右目はこれで失われた。
右耳も中央部分が吹き飛んだ。
鼻も軟骨がえぐれ、血がボトボトとしたたり落ちた。
最早原形を留めていないのではないか。
そう思わせる程、顔の損傷は甚大だった。
それにも関わらず、出血はすぐに止まった。

「出血性ショック死、そんなダサい死に様は嫌だろ?」

いつの間にか、顔を押さえて蹲る親父の傍にクライスの姿が。
一連の流れを呆然と見ていたデュレイ。
ホッと胸を撫で下ろすトクシー。
『やったぜ』と言った顔のロッシェ。
虹の壁に閉じ込められた時クライスに言われた通り、リドは手下達をつたで縛り上げる。
惨めな姿となった親父に、クライスは言った。

「無知と言うのは、やはり罪なものだな。」



一体、この戦闘はどうなっているのか?
順を追って説明しようか。
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