153 / 320
第153話 喧嘩腰に応じる者は
しおりを挟む
「てめえ等こそ誰だ!あ!」
先住民からすると、至極真っ当な返し。
お邪魔をしているのはこちらだ。
尚も、槍の切っ先を相手に向け続けるロッシェ。
その横にトクシーが立つ。
「我らは訳有って、ここを通り過ぎる者。一過性なので、許して欲しい。」
そう言って頭を下げるトクシー。
一言断ってその場を去る。
それが騎士道。
しかし相手は、そんな物が通用する相手では無かった。
「はあ?何言ってんだ、こいつは。」
寄る人影の中から、リーダーらしき者が吐き捨てる。
人影は明らかに、30~40代のおっさん共。
その中でも一際大きい。
それでも騎士道を押し通すトクシー。
「君達と争う気は無い。何処かを向いている間に、私共も消え失せよう。」
「だ・か・ら!何言ってんだよ、そんなの通用すると思ってんのか!」
リーダーの後ろから、ヤジが飛ぶ。
「ふざけんじゃねえよ!」
「身包み全部置いてきな!」
「それでも通さねえがな、ガハハハ!」
「下品な笑い。貧相だわ。」
ポツリと言った、ハリーの一言。
それが、荒くれ者達の逆鱗に触れた。
「何だてめえ!」
「生意気な!」
「ガキはすっこんでろ!」
「お呼びじゃねえんだよ!」
数々の罵声が浴びせられる。
売り言葉に買い言葉。
口撃しようとするハリーを、ラヴィが制する。
そして囁く。
『相手のペースに乗っちゃ駄目。あいつ等はこっちに先に手を出させて、ぶっ潰す大義名分が欲しいだけなんだから。』
『じゃどうすんのよ?』
腹の虫が収まらないハリー。
ラヴィはニヤリとして言う。
『まあ見てなさい。面白い物が見られるから。』
またあの変な男が何かやるの?
クライスの方を見るハリー。
しかし動く気配は無い。
動いたのは。
「道理が通らねば、無理を通すまで。」
丸腰のセレナだった。
リーダーが揶揄う。
「何だ姉ちゃん、自ら体を売りに来たのか?んー?」
そう言って、セレナの顔に手を伸ばした瞬間。
視界がグルンと急回転して、地面に『バッターン!』と叩き付けられた。
「や、やんのか?お?」
突然の事に怯む、取り巻き達。
その隙に。
スッスッスッと相手の懐に潜り込んでは。
軽々とすっ転ばせて行く。
ガタイの良さが仇となって、ものの数十秒で全員地面に這い蹲る結果に。
地面を舐めながら、大声で叫ぶ取り巻き達。
「て、てめえ!」
「ただで済むと思うな!」
「バラバラに刻んでやる!」
その叫びも空しく。
それ以上に場に木霊したのは。
「ギイヤアアアァァァァ!」
胴体を踏まれ、あらぬ方向へ首と右足を捻られるリーダーの叫び声。
踏んでいるのは勿論、セレナ。
「あら、だらしない。これ位耐えなさい、男なら。」
ジトッとした冷徹な目で見下す。
捻っている箇所を、更に捻る。
流石の痛みに、ジタバタ抵抗も出来ない。
喚くリーダー。
「や、やめ、止めてくれ!このままでは、ほ、骨が!折れるぅ!」
実際、右足は限界の様だ。
ギシギシ軋む音が聞こえそうな位。
ねっとりとした口調でセレナは言う。
「弱気ねぇ?そんな事を言われると、限界に挑戦したくなるわよぉ?」
「ひいいいぃぃぃ!」
リーダーは心臓がバクバクしていた。
お、折られる!
ヤバい!
ヤバ!
ヤバ!
……。
そこで気絶した。
「何よ、もう。だらしないわねえ。」
物足りなさそうに言うセレナ。
ポイッと、掴んでいた頭と右足を放り出す。
ジロッ!
すぐに、倒れている取り巻き達を見る。
『次の獲物はどれ?』と言わんばかりに。
立ち上がりかけていた連中は、その場に凍り付いた。
たった1人の小娘に。
良い様に振り回されてしまう。
悔しいが、俺達が敵う相手では無い。
何とか逃げねば!
皆が同時にそう考えた為バラバラの動きとなり、それが反って足枷となる。
慌てているのもあって。
お互いぶつかる者、またすっ転ぶ者。
未経験の脅威に、成す術無し。
粋がって登場した割には、あっけなく返り討ち。
もがく連中に、トクシーがスッと槍を向ける。
「だから言ったであろう?争いたく無いと。実力差も見測れんのか?」
これがトドメとなり、皆降伏。
何もしないと約束した。
リーダーは未だに目が覚めず。
醜態を晒したままだった。
「ね?面白かったでしょ?」
『あの娘は、切れると意外と怖いのよー』とラヴィ。
全く思いもしない面を垣間見、唖然とするハリー。
ブルブル震えながら、ハリーとラヴィの傍に来るロッシェ。
「やっぱ怖いよなー。俺も扱かれている時、何度同じ目に会ったか……。」
師匠と崇めるのには。
剣捌き等の手解きを受けているからだけでは無く。
そう言う裏の面を飄然と隠し切る胆力を、セレナが持っているせいでもあった。
『あー、おっかねぇー』と言いながら、馬車の陰に隠れている年寄り達へ事態解決の報告をしに行く。
ロッシェからその報を聞くと、安堵の表情が溢れる。
子供達もすぐに駆け寄る。
そしてお互い喜び合う。
大人は喜びながらも『また同じ様な事が起こりかねない』と懸念し、早々に歩く準備をし出す。
大人達に声を掛けるセレナ。
「大丈夫ですか?まだ疲れが取れていないのでは……。」
セレナの言葉に、ゾクッと背中に悪寒が通る男手達。
『も、もう充分休みましたから』と何故か敬語になって、きびきび動き出す。
その様子を見て、ふふふと笑う女手達。
『私達も本気を出すと怖いのよー』と言いた気。
そのまま平然と身支度を手伝うのだった。
出発の準備は整った。
でもまだ、粋がっていた野郎共に用が有る者。
クライス。
家の陰に引っ込もうとする一人を捕まえて、尋ねる。
「なあ、あんた等は自分からここに住もうと決めたのか?それとも……。」
肩を掴まれた男は、顔を真っ青に染めながらクライスの方を振り返る。
セレナがあれだけやれるのだ。
他の奴も、とんでもないに違いない。
恐怖していた。
答えられそうに無い。
そこでクライスは。
袖の下にそっと渡す。
拳大の金塊を。
『あんただけ特別だぜ?』との一言を添えて。
それである程度落ち着いたらしい。
現金なものだ。
男は答えた。
「勧められたんだ。『ここに住んでいれば、金が支給される』ってな。」
「ほう。」
目を輝かせるクライス。
「そいつは誰か、話してくれるかい?」
「い、いやあ。そこまでとなると……。」
明らかに追加を要求している。
仕方無くクライスは、懐をゴソゴソする。
そして、親指程の金塊を手渡す。
男はニヤリとする。
そして言った。
「この町には《お偉いさんからの使い》ってのがいるんだ。そいつが口利きしてくれたんだ。」
「何か、身体的な特徴は有るかい?」
「そうさなあ……。」
考える振りをする男。
急にクライスにぶつかると。
スタコラと逃げて行った。
「残りの金塊は貰った!じゃあな!」
捨て台詞は、至って普通。
面白味もない。
まあ、ユーモアを交える余裕が無かっただけかも。
しかし、クライスの方にはそれなりに。
馬鹿だねえ。
そんなガラクタ、何処が良いんだか。
まあ良い、少しは情報が得られた。
この調子で掻き集めるか。
クライスは、馬車のある方へ戻って行った。
まんまと逃げ果せた男。
やった!
盗ってやったぜ!
そう思って、手のひらを開く。
そこには。
辺りに転がっている石。
ちくしょう!
やられた!
そのまま石ころを、ポイッと地面に投げ捨てる
『すり替えられた』と考えた男は悔しがる。
でもそれは当然。
交渉の時に使える様、懐に或る程度の石を隠し持っているクライスには。
取り出す時に錬金しているだけ。
そんな事とは露知らず。
何時までも地団駄を踏んでいる男だった。
先住民からすると、至極真っ当な返し。
お邪魔をしているのはこちらだ。
尚も、槍の切っ先を相手に向け続けるロッシェ。
その横にトクシーが立つ。
「我らは訳有って、ここを通り過ぎる者。一過性なので、許して欲しい。」
そう言って頭を下げるトクシー。
一言断ってその場を去る。
それが騎士道。
しかし相手は、そんな物が通用する相手では無かった。
「はあ?何言ってんだ、こいつは。」
寄る人影の中から、リーダーらしき者が吐き捨てる。
人影は明らかに、30~40代のおっさん共。
その中でも一際大きい。
それでも騎士道を押し通すトクシー。
「君達と争う気は無い。何処かを向いている間に、私共も消え失せよう。」
「だ・か・ら!何言ってんだよ、そんなの通用すると思ってんのか!」
リーダーの後ろから、ヤジが飛ぶ。
「ふざけんじゃねえよ!」
「身包み全部置いてきな!」
「それでも通さねえがな、ガハハハ!」
「下品な笑い。貧相だわ。」
ポツリと言った、ハリーの一言。
それが、荒くれ者達の逆鱗に触れた。
「何だてめえ!」
「生意気な!」
「ガキはすっこんでろ!」
「お呼びじゃねえんだよ!」
数々の罵声が浴びせられる。
売り言葉に買い言葉。
口撃しようとするハリーを、ラヴィが制する。
そして囁く。
『相手のペースに乗っちゃ駄目。あいつ等はこっちに先に手を出させて、ぶっ潰す大義名分が欲しいだけなんだから。』
『じゃどうすんのよ?』
腹の虫が収まらないハリー。
ラヴィはニヤリとして言う。
『まあ見てなさい。面白い物が見られるから。』
またあの変な男が何かやるの?
クライスの方を見るハリー。
しかし動く気配は無い。
動いたのは。
「道理が通らねば、無理を通すまで。」
丸腰のセレナだった。
リーダーが揶揄う。
「何だ姉ちゃん、自ら体を売りに来たのか?んー?」
そう言って、セレナの顔に手を伸ばした瞬間。
視界がグルンと急回転して、地面に『バッターン!』と叩き付けられた。
「や、やんのか?お?」
突然の事に怯む、取り巻き達。
その隙に。
スッスッスッと相手の懐に潜り込んでは。
軽々とすっ転ばせて行く。
ガタイの良さが仇となって、ものの数十秒で全員地面に這い蹲る結果に。
地面を舐めながら、大声で叫ぶ取り巻き達。
「て、てめえ!」
「ただで済むと思うな!」
「バラバラに刻んでやる!」
その叫びも空しく。
それ以上に場に木霊したのは。
「ギイヤアアアァァァァ!」
胴体を踏まれ、あらぬ方向へ首と右足を捻られるリーダーの叫び声。
踏んでいるのは勿論、セレナ。
「あら、だらしない。これ位耐えなさい、男なら。」
ジトッとした冷徹な目で見下す。
捻っている箇所を、更に捻る。
流石の痛みに、ジタバタ抵抗も出来ない。
喚くリーダー。
「や、やめ、止めてくれ!このままでは、ほ、骨が!折れるぅ!」
実際、右足は限界の様だ。
ギシギシ軋む音が聞こえそうな位。
ねっとりとした口調でセレナは言う。
「弱気ねぇ?そんな事を言われると、限界に挑戦したくなるわよぉ?」
「ひいいいぃぃぃ!」
リーダーは心臓がバクバクしていた。
お、折られる!
ヤバい!
ヤバ!
ヤバ!
……。
そこで気絶した。
「何よ、もう。だらしないわねえ。」
物足りなさそうに言うセレナ。
ポイッと、掴んでいた頭と右足を放り出す。
ジロッ!
すぐに、倒れている取り巻き達を見る。
『次の獲物はどれ?』と言わんばかりに。
立ち上がりかけていた連中は、その場に凍り付いた。
たった1人の小娘に。
良い様に振り回されてしまう。
悔しいが、俺達が敵う相手では無い。
何とか逃げねば!
皆が同時にそう考えた為バラバラの動きとなり、それが反って足枷となる。
慌てているのもあって。
お互いぶつかる者、またすっ転ぶ者。
未経験の脅威に、成す術無し。
粋がって登場した割には、あっけなく返り討ち。
もがく連中に、トクシーがスッと槍を向ける。
「だから言ったであろう?争いたく無いと。実力差も見測れんのか?」
これがトドメとなり、皆降伏。
何もしないと約束した。
リーダーは未だに目が覚めず。
醜態を晒したままだった。
「ね?面白かったでしょ?」
『あの娘は、切れると意外と怖いのよー』とラヴィ。
全く思いもしない面を垣間見、唖然とするハリー。
ブルブル震えながら、ハリーとラヴィの傍に来るロッシェ。
「やっぱ怖いよなー。俺も扱かれている時、何度同じ目に会ったか……。」
師匠と崇めるのには。
剣捌き等の手解きを受けているからだけでは無く。
そう言う裏の面を飄然と隠し切る胆力を、セレナが持っているせいでもあった。
『あー、おっかねぇー』と言いながら、馬車の陰に隠れている年寄り達へ事態解決の報告をしに行く。
ロッシェからその報を聞くと、安堵の表情が溢れる。
子供達もすぐに駆け寄る。
そしてお互い喜び合う。
大人は喜びながらも『また同じ様な事が起こりかねない』と懸念し、早々に歩く準備をし出す。
大人達に声を掛けるセレナ。
「大丈夫ですか?まだ疲れが取れていないのでは……。」
セレナの言葉に、ゾクッと背中に悪寒が通る男手達。
『も、もう充分休みましたから』と何故か敬語になって、きびきび動き出す。
その様子を見て、ふふふと笑う女手達。
『私達も本気を出すと怖いのよー』と言いた気。
そのまま平然と身支度を手伝うのだった。
出発の準備は整った。
でもまだ、粋がっていた野郎共に用が有る者。
クライス。
家の陰に引っ込もうとする一人を捕まえて、尋ねる。
「なあ、あんた等は自分からここに住もうと決めたのか?それとも……。」
肩を掴まれた男は、顔を真っ青に染めながらクライスの方を振り返る。
セレナがあれだけやれるのだ。
他の奴も、とんでもないに違いない。
恐怖していた。
答えられそうに無い。
そこでクライスは。
袖の下にそっと渡す。
拳大の金塊を。
『あんただけ特別だぜ?』との一言を添えて。
それである程度落ち着いたらしい。
現金なものだ。
男は答えた。
「勧められたんだ。『ここに住んでいれば、金が支給される』ってな。」
「ほう。」
目を輝かせるクライス。
「そいつは誰か、話してくれるかい?」
「い、いやあ。そこまでとなると……。」
明らかに追加を要求している。
仕方無くクライスは、懐をゴソゴソする。
そして、親指程の金塊を手渡す。
男はニヤリとする。
そして言った。
「この町には《お偉いさんからの使い》ってのがいるんだ。そいつが口利きしてくれたんだ。」
「何か、身体的な特徴は有るかい?」
「そうさなあ……。」
考える振りをする男。
急にクライスにぶつかると。
スタコラと逃げて行った。
「残りの金塊は貰った!じゃあな!」
捨て台詞は、至って普通。
面白味もない。
まあ、ユーモアを交える余裕が無かっただけかも。
しかし、クライスの方にはそれなりに。
馬鹿だねえ。
そんなガラクタ、何処が良いんだか。
まあ良い、少しは情報が得られた。
この調子で掻き集めるか。
クライスは、馬車のある方へ戻って行った。
まんまと逃げ果せた男。
やった!
盗ってやったぜ!
そう思って、手のひらを開く。
そこには。
辺りに転がっている石。
ちくしょう!
やられた!
そのまま石ころを、ポイッと地面に投げ捨てる
『すり替えられた』と考えた男は悔しがる。
でもそれは当然。
交渉の時に使える様、懐に或る程度の石を隠し持っているクライスには。
取り出す時に錬金しているだけ。
そんな事とは露知らず。
何時までも地団駄を踏んでいる男だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
58
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる