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第153話 喧嘩腰に応じる者は

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「てめえ等こそ誰だ!あ!」

先住民からすると、至極真っ当な返し。
お邪魔をしているのはこちらだ。
尚も、槍の切っ先を相手に向け続けるロッシェ。
その横にトクシーが立つ。

「我らは訳有って、ここを通り過ぎる者。一過性なので、許して欲しい。」

そう言って頭を下げるトクシー。
一言断ってその場を去る。
それが騎士道。
しかし相手は、そんな物が通用する相手では無かった。

「はあ?何言ってんだ、こいつは。」

寄る人影の中から、リーダーらしき者が吐き捨てる。
人影は明らかに、30~40代のおっさん共。
その中でも一際大きい。
それでも騎士道を押し通すトクシー。

「君達と争う気は無い。何処かを向いている間に、私共も消え失せよう。」

「だ・か・ら!何言ってんだよ、そんなの通用すると思ってんのか!」

リーダーの後ろから、ヤジが飛ぶ。

「ふざけんじゃねえよ!」
身包みぐるみ全部置いてきな!」
「それでも通さねえがな、ガハハハ!」



「下品な笑い。貧相だわ。」



ポツリと言った、ハリーの一言。
それが、荒くれ者達の逆鱗に触れた。

「何だてめえ!」
「生意気な!」
「ガキはすっこんでろ!」
「お呼びじゃねえんだよ!」

数々の罵声が浴びせられる。
売り言葉に買い言葉。
口撃しようとするハリーを、ラヴィが制する。
そして囁く。

『相手のペースに乗っちゃ駄目。あいつ等はこっちに先に手を出させて、ぶっ潰す大義名分が欲しいだけなんだから。』

『じゃどうすんのよ?』

腹の虫が収まらないハリー。
ラヴィはニヤリとして言う。

『まあ見てなさい。面白い物が見られるから。』

またあの変な男が何かやるの?
クライスの方を見るハリー。
しかし動く気配は無い。
動いたのは。



「道理が通らねば、無理を通すまで。」



丸腰のセレナだった。
リーダーが揶揄からかう。

「何だ姉ちゃん、自ら体を売りに来たのか?んー?」

そう言って、セレナの顔に手を伸ばした瞬間。
視界がグルンと急回転して、地面に『バッターン!』と叩き付けられた。

「や、やんのか?お?」

突然の事に怯む、取り巻き達。
その隙に。
スッスッスッと相手の懐に潜り込んでは。
軽々とすっ転ばせて行く。
ガタイの良さが仇となって、ものの数十秒で全員地面に這いつくばる結果に。
地面を舐めながら、大声で叫ぶ取り巻き達。

「て、てめえ!」
「ただで済むと思うな!」
「バラバラに刻んでやる!」

その叫びも空しく。
それ以上に場に木霊こだましたのは。



「ギイヤアアアァァァァ!」



胴体を踏まれ、あらぬ方向へ首と右足を捻られるリーダーの叫び声。
踏んでいるのは勿論、セレナ。

「あら、だらしない。これ位耐えなさい、男なら。」

ジトッとした冷徹な目で見下す。
捻っている箇所を、更に捻る。
流石の痛みに、ジタバタ抵抗も出来ない。
喚くリーダー。

「や、やめ、止めてくれ!このままでは、ほ、骨が!折れるぅ!」

実際、右足は限界の様だ。
ギシギシ軋む音が聞こえそうな位。
ねっとりとした口調でセレナは言う。

「弱気ねぇ?そんな事を言われると、限界に挑戦したくなるわよぉ?」

「ひいいいぃぃぃ!」

リーダーは心臓がバクバクしていた。
お、折られる!
ヤバい!
ヤバ!
ヤバ!
……。
そこで気絶した。

「何よ、もう。だらしないわねえ。」

物足りなさそうに言うセレナ。
ポイッと、掴んでいた頭と右足を放り出す。
ジロッ!
すぐに、倒れている取り巻き達を見る。
『次の獲物はどれ?』と言わんばかりに。
立ち上がりかけていた連中は、その場に凍り付いた。
たった1人の小娘に。
良い様に振り回されてしまう。
悔しいが、俺達が敵う相手では無い。
何とか逃げねば!
皆が同時にそう考えた為バラバラの動きとなり、それがかえって足枷あしかせとなる。
慌てているのもあって。
お互いぶつかる者、またすっ転ぶ者。
未経験の脅威に、成す術無し。
粋がって登場した割には、あっけなく返り討ち。
もがく連中に、トクシーがスッと槍を向ける。

「だから言ったであろう?争いたく無いと。実力差も見測れんのか?」

これがトドメとなり、皆降伏。
何もしないと約束した。
リーダーは未だに目が覚めず。
醜態を晒したままだった。



「ね?面白かったでしょ?」

『あの娘は、切れると意外と怖いのよー』とラヴィ。
全く思いもしない面を垣間見、唖然とするハリー。
ブルブル震えながら、ハリーとラヴィの傍に来るロッシェ。

「やっぱ怖いよなー。俺もしごかれている時、何度同じ目に会ったか……。」

師匠と崇めるのには。
剣捌き等の手解きを受けているからだけでは無く。
そう言う裏の面を飄然ひょうぜんと隠し切る胆力を、セレナが持っているせいでもあった。
『あー、おっかねぇー』と言いながら、馬車の陰に隠れている年寄り達へ事態解決の報告をしに行く。
ロッシェからその報を聞くと、安堵の表情が溢れる。
子供達もすぐに駆け寄る。
そしてお互い喜び合う。
大人は喜びながらも『また同じ様な事が起こりかねない』と懸念し、早々に歩く準備をし出す。
大人達に声を掛けるセレナ。

「大丈夫ですか?まだ疲れが取れていないのでは……。」

セレナの言葉に、ゾクッと背中に悪寒が通る男手達。
『も、もう充分休みましたから』と何故か敬語になって、きびきび動き出す。
その様子を見て、ふふふと笑う女手達。
『私達も本気を出すと怖いのよー』と言いた
そのまま平然と身支度を手伝うのだった。



出発の準備は整った。
でもまだ、粋がっていた野郎共に用が有る者。
クライス。
家の陰に引っ込もうとする一人を捕まえて、尋ねる。

「なあ、あんた等は自分からここに住もうと決めたのか?それとも……。」

肩を掴まれた男は、顔を真っ青に染めながらクライスの方を振り返る。
セレナがあれだけやれるのだ。
他の奴も、とんでもないに違いない。
恐怖していた。
答えられそうに無い。
そこでクライスは。
袖の下にそっと渡す。
拳大こぶしだいの金塊を。
『あんただけ特別だぜ?』との一言を添えて。
それである程度落ち着いたらしい。
現金なものだ。
男は答えた。

「勧められたんだ。『ここに住んでいれば、金が支給される』ってな。」

「ほう。」

目を輝かせるクライス。

「そいつは誰か、話してくれるかい?」

「い、いやあ。そこまでとなると……。」

明らかに追加を要求している。
仕方無くクライスは、懐をゴソゴソする。
そして、親指程の金塊を手渡す。
男はニヤリとする。
そして言った。

「この町には《お偉いさんからの使い》ってのがいるんだ。そいつが口利きしてくれたんだ。」

「何か、身体的な特徴は有るかい?」

「そうさなあ……。」

考える振りをする男。
急にクライスにぶつかると。
スタコラと逃げて行った。

「残りの金塊は貰った!じゃあな!」

捨て台詞は、至って普通。
面白味もない。
まあ、ユーモアを交える余裕が無かっただけかも。
しかし、クライスの方にはそれなりに。
馬鹿だねえ。
そんなガラクタ、何処が良いんだか。
まあ良い、少しは情報が得られた。
この調子で掻き集めるか。
クライスは、馬車のある方へ戻って行った。



まんまと逃げおおせた男。
やった!
ってやったぜ!
そう思って、手のひらを開く。
そこには。
辺りに転がっている石。
ちくしょう!
やられた!
そのまま石ころを、ポイッと地面に投げ捨てる
『すり替えられた』と考えた男は悔しがる。
でもそれは当然。
交渉の時に使える様、懐に或る程度の石を隠し持っているクライスには。
取り出す時に錬金しているだけ。
そんな事とは露知らず。
何時までも地団駄を踏んでいる男だった。
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