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第16話 その事象は収束《させる》【ジャンル:アニメ】

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夕食後、リビングのテレビで。
アニメを見ていた楓。
それは、未来から来た〔主人公の孫の孫〕が。
自分の現状を変える為に、主人公の居る時代までやって来て。
主人公とヒロインの仲を取り持ち、何とか2人をくっ付け様とすると言う。
所謂いわゆるドタバタなSF物で、中々の長寿番組だった。

「これは、どう言った設定なんですか?」

横で見ていた姫が、楓に尋ねる。
ここからは、楓による姫への解説。



主人公はダメ女とくっ付いて、未来まで返済の掛かる膨大な借金をこしらえている。そのせいで。
その子孫は、苦しい生活をいられてる。
借金を無くして、もっと幸せに生きたい。
だから主人公に、ヒロインと結ばれる方を勧めているのだ。
主人公とヒロインは元々、月とスッポンの差が有るので。
何か別次元の介入が無いと無理らしい。
それでタイムスリップして、子孫がやって来た。
以上、解説終わり。



「そうなんですか。」

『どの世界も大変ですね』と思いながら、姫は素直に姫の解説を聞いていた。
その会話を耳にして、シンにはふと疑問が生まれる。
待てよ?
主人公の結婚相手が変わるのなら、その子供の遺伝子配列は1/2が変わる事になる。
孫は1/4、ひ孫は1/8、玄孫である子孫は1/16。
それって、かなり大きな差じゃないのか?
外見はもちろん、人間性まで変わるんじゃ……。
シンの疑問は、ドンドン大きく膨らんで行った。
これは、確かめる価値が有りそうだ。
他にも、気になる点が……。
そう考えて、放送途中なのに録画ボタンを押すシン。
途中からの録画なんて、変なの。
楓は、それ位にしか思わなかったが。
姫には、シンの真意が伝わっていた。



録画しておいたアニメを、再生・一時停止し。
その世界に早速入った、シンと姫。
そこには。
主人公の部屋で既に座って待っている、〔主人公〕と〔その子孫〕の姿が在った。
驚いたのは、初めからシン達が来るのを分かっていたらしき事だった。
『本当に来たな』と、主人公が呟く。

『僕が相手するから、君はここで待ってて。直ぐ戻るから。』

子孫が主人公にそう告げる。
『分かった、気を付けて』と、主人公は立ち上がって。
子孫を、少し離れた所から見守る。
2人が呆気に取られていると、子孫が傍に来てこう言った。

『ここで話すのはなんですので、未来の僕の部屋に行きませんか?その方がお互い、都合が良いでしょうし。』

「俺達は構いませんけど、何でまた……?」

シンはまだ、困惑していた。
それを押し切る様に、子孫は。

『さあさあ、行きましょう。』

そう言って、左手首に在る腕時計みたいな物を操作する。
すると空間に、虹色に輝く円盤が浮かび上がった。
その大きさは、人が楽々通り抜けられる程。

『ここが、タイムマシンの入り口です。遠慮せずに乗って下さい。』

子孫の言われるままに、その中へ入り込む2人だった。



くぐり抜けた先は、4次元空間だった。
空間には、カプセル状の乗り物が1台浮いている。
それに、子孫とシン達が乗り込む。

『それでは、行きますよ。』

子孫が言うと。
外の空間に浮かび上がっている、オーロラの様な物が。
後ろへ流れて行った。
どうやら、スーッと移動しているらしい。

『4次元空間は。3次元空間が、時間軸を介して連続している物なので。あんな、オーロラみたいな虹色になってるんです。』

子孫がそう解説する。
人が過ごしている3次元は、時が経つと微妙に変化する。
その過程を重ねて映し出した結果が、オーロラなのだそうだ。

「それにしても、何故私達が来るのが分かったんですか?」

その点を、ずっと疑問に思っていた姫が。
子孫に尋ねる。
姫への返事は、こう。

『それは、彼のタイムレコードに記録されていたからです。超重要事項として。』

「タイムレコード?」

おうむ返しに、疑問の声を上げるシン。
子孫が続けて答える。

『彼の人生の、履歴の様な物です。細かく書かれているのですが。僕の時代になっても、大まかな事までしか読み取れないのです。』

「アカシックレコードの個人版ですね?」

「ん?」

姫の言葉に、シンが首をかしげる。
アカシックレコードに付いて、姫からの説明。

「過去・現在・未来に起こる、ありとあらゆる出来事を記録した物です。予言者達はそれにアクセスして、未来を読み取っていると言われています。」

「なるほど。」

分かった様な、分からない様な。
シンには少し、難しかったのだろうか。
シン達があれこれ話しながら、しばらくして。
光る丸い物が、乗り物の目の前に現れた。
子孫が2人に告げる。

『さあ、着きましたよ。ここが出口です。足元に気を付けて。』

シンと姫は、思いがけずも。
未来世界へと降り立ったのだった。



結構オートマチックな、子孫の部屋。
空調から光の加減、壁に映し出される風景まで。
中々の近未来振りだった。
しかし、窓もちゃんと有り。
外を眺めると、緑で覆われた大きな公園が幾つも在った。
子孫が暮らす部屋は、その中に立つ高層マンションの一室だった。
シンが思わず呟く。

「未来でも、緑は無くならないんだな。」

『やはり自然は、人間生活から切り離せませんから。植物を育てる手間も、未来では趣味の一環なんですよ。』

「へえ。」

シンは素直に感心した。

『それで、聞きたい事が有るのでしょう?』

子孫はシン達へ、本題を切り出す。

『恐らく、ご先祖様が知っては不味い事が。』

『はい』と返答した後、シンが話し出す。

「俺達は、こことは別の世界から来ました。この世界は、俺達の世界ではアニメとして放送されています。」

子孫は、特には驚かなかった。
この世界の未来では、そう言った事も想定内なのだ。
シンは続ける。

「そこでは、あなたは。自分の現状を変える為に、先祖の結婚相手を変えようと動いている。と言う事になっています。」

『なるほど。』

「しかし、それでは。あなたの遺伝子配列が、ガラリと書き換わってしまいますよね?場合によっては、別人になってしまう。」

「もっともなご指摘ですね。」

「なのに、そんな事が起こる素振りも無い。何故ですか?」

『これは確かに、ご先祖様の前では出来ない話ですね。良いですよ、お話ししましょう。』

「おお!」

シンは素直に喜ぶ。
子孫が話を続ける。

『お2人が、この世界の住人で無いのでしたら。影響も出ないでしょうし。何よりも、【許可】が出ていますから。』

「〔許可〕……ですか?」

急に変な単語が出て来たので、姫が思わず反応する。
姫の疑問に、子孫が答える。

『はい。歴史に関わる事項に関しては、時間管理局の許可が必要なのです。話すのも、タイムスリップするのも。』

子孫は以下の様に、解説を続けた。



例えば。
その時代に生存していない動植物を持ち込んだり、逆にその時代には生存している種を絶滅させたりすると。
歴史が変わってしまいます。
歴史上の重要人物に干渉するのも御法度です。
ですので、タイムスリップしたり。
タイムスリップ先で何が起きたかを、第三者に話したりするのには。
時間管理局の許可が必要なのです。



「では、あなたは。許可を得て、過去に跳んでいると?」

シンが尋ねる、それに子孫は。

『そうです。それはご先祖様にとっても、僕達未来に暮らす者にも。重要かつ必然だからです。』

そして、次の子孫の発言に。
2人は驚いた。

『実は。〔僕の暮らしを良くしたい〕とか言うのは、嘘です。本当は、ご先祖様とあの娘が結ばれるのは【既定事項】で有り。絶対に不変の事なのです。寧ろその為に、僕が派遣されたのですよ。』



子孫の話によると、こうである。
主人公とヒロインの子供は、将来画期的な発明をする。
それは。
未来である今現在においても根幹をなす、重要な事である。
しかし、出会った当時の2人は能力的に差が有り。
到底結ばれない状況だった。
そこで誰かが関与して、2人の仲を取り持った。
その様な形跡が、彼のタイムレコードから見つかった。
となれば、未来から来た誰かだろう。
時間管理局は、そう結論付けた。
『時間管理局が発足したのは、つい最近。
タイムマシンの実用化に、完全に成功したのと同時期に。
その機関は設立された。



『そして、ご先祖様の件に関して〔一番適任だろう〕と考えられたのが。子孫である、僕なのです。』

「そうか、なるほど。じゃあ歴史を変えようとしてるのに、誰も止める人が居ないのも……。」

『そうです。それが既定事項だからです。』

シンの言葉に、子孫はそう返した。
未来からやって来て。
1人の人間の人生を、根本から変える様な過去改変など。
普通は、許される訳が無い。
〔バタフライ効果〕を御存じだろうか。
〔蝶の一羽ばたきで、地球の裏側で嵐が起こる〕と言う、あれである。
ほんの些細な改変でも、とんでもなく歴史がズレてしまう可能性が有るのだ。
そんな事を防ぐ為に、タイムパトロール隊みたいな警備システムも恐らく存在するだろう。
それ等が止めに入る場面なんて、作品中に一度も無い。
そこから考えられる結論は、1つ。
それが【歴史上、起きるべき事象】だと言う事だ。

「それなら。子孫であるあなたの遺伝子配列も変わらず、あなたと言う存在が消滅する心配も無い。そう言う事なんですね。」

姫も納得した様だ。
子孫は、少し苦笑いしながら言う。

『寧ろ。僕と言う存在を生み出す為に、動いているんですがね。』

ちなみに、その発明は。どの様な物なんですか?教えて頂く訳には参りませんか?」

姫がすがる様に、子孫に懇願する。
子孫はやや眉をひそめながらも、小声で答える。

『これはご先祖様はおろか、この世界の誰にも言わないで下さいね。それは……。』

2人は、子孫からの答えを聞いて。
言葉を失った。
それは。

『超小型、ハンディタイプの【核融合炉】です。』

それは、携帯型の太陽を作ったのと同義だった。
そんな物が実現したら、色々なモノが変わってしまう。
エネルギー問題が一気に解決し。
エンジンなどの動力部もそれに置き換われば、マッハで走る自転車も可能になってしまう。
大気汚染などの問題も、楽々クリア出来る。
それは逆に、それ等に関係する産業の消滅も意味する。
未来まで影響するどころでは無い、正に歴史そのもの。
躍起になって、主人公とヒロインをくっ付け様とする筈だ。

『乗って来たタイムマシンや、この腕時計型端末にも。それは使われています。僕達子孫はその恩恵を受けて、不可侵の存在になっています。』

左手首を差しながら、子孫は言う。
絶句したままのシン達、そんな2人に子孫は忠告する。

『この事は、ごく一部の人にしか知らされていないので。くれぐれも、気を付けて下さいね。』

「分かりました。自分の世界に戻った後も、自分の心の中だけにとどめておきます。」

ようやく我に返ったシンは、子孫にそう言った。
うっかり話しでもしてしまったら。
この番組を見てくれている子供達が、大変な事になりそうだ。
そう考えての事。
シンの返答に、安堵する子孫。

『どうやら、あなた方にこの話をする許可が下りたのは。必然だった様ですね。僕も、周りの人に話したくても話せないので。正直、むずがゆかったんです。』

秘密を共有出来る人が居て良かった……。
子孫は2人に、感謝の意を述べる。
シンと姫は、少し恥ずかしくなる。
それと同時に、嬉しかった。
2人だけが、特別なのだから。
子孫は、2人へ言う。

『さあ。そろそろ、ご先祖様の所に戻りましょう。あの時代の食事の方が、あなた方には合うでしょうから。』

そう言って子孫は、タイムマシンの入り口を開いた。



「あんな裏設定が有るなんてな。子供向けとあなどっていたよ。」

わずかの一時ひととき、主人公とおやつを食べながら談笑して。
2人は、自分達の世界へ戻って来た。
特に姫は、仮想ヒロインに見立てられ。
ヒロインに対する接し方のアドバイスに、少しばかり協力した。
勿論、主人公は喜んだ。
それ等の出来事は、アニメでは一切放送されないが。

「全く、人間は。何処まで技術を発展させる気なんでしょう。」

〔有りし者〕としては、とても気になる姫。

「いずれ、この世界も。そうなるかもな。」

その時、お前達はどう出る?
神に等しい力を持とうとする、人間に対して。
そう姫に聞きたかったが、言葉を無理やり飲み込んで。
シンはその事に関して、敢えて考えない振りをするのだった。
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