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第18話 その道のプロは、やはり凄い!【ジャンル:ファッション雑誌】

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楓と出掛けて、帰って来たと思ったら。
それからずっと、姫の様子がどうもおかしい。
シンには、そう見えていた。
食い入る様に、ファッション雑誌を見ている姫。
外出先で何か有ったんだろうか?
シンは心配するのだが……。



姫は、文音あやねの登場に怒りを感じていた。
それ以上に、落胆もしていた。
智花の足元にも及ばない女子力。
このままでは、智花はおろか文音にも完敗してしまう。
姫はかなり焦っていた。
楓には、痛い位にその気持ちが伝わっていたので。
自分が読んでいるファッション誌を何冊か、姫に渡した。

「参考になるかは分からないけど……。」

楓なりの気遣いだった。
心の中で感謝し、そこに載っている情報を掻き集める姫。
それを見て、『お洒落に目覚めたのかしら』と勘違いしたシンの母親も。

「結構参考になるわよ、これ。」

そう言って、自分の手元に在った雑誌を姫に貸してくれた。



一朝一夕で、ファッションセンスが身に付くとは思っていない。
それでも何か、コツ位は掴みたい。
姫は必死だった。
それがシンには、新鮮に映った。
人前では、かなりおしとやかなに見えたから。
内面も、それに近い方だと思っていたんだけど。
結構、頑張り屋なんだな。
『俺も力に成りたい』、そう思って。
シンは姫に声を掛ける。

「熱心だな。」

姫は雑誌を見たまま、コクンと頷く。
シンは続けて。

「人間のお洒落に関心が有るのか?」

またコクンと頷く姫。
すると、シンは。

「見てるだけじゃ、直ぐには身に付かないだろう。だったらさ……。」

次にシンが示す、その提案に。
姫はピコーンと反応した。

「載ってるモデルに、コーディネートのコツを教わったらどうだ?直接聞くのが早いだろう?」

「それです!その手が有りました!是非お願いします!」

ガバッとシンの両手を握って、姫が大声で叫ぶ。
姫の目はキラキラきらしていた。

「あ、ああ。」

物凄い勢いに、シンも気圧けおされる。
そこまで思い詰めていたとは……。
姫に対し、『真剣に応えよう』と思った。
シンは早速、姫が読んでいた雑誌を手に取ると。
パラパラとめくり始める。

「この雑誌の中で、一番人気のモデルに聞きに行こう。えっと……これか!」

シンは、或るページを見つけた。
そこには、とあるモデルが。
4ページにもわたって、グラビアを飾っていた。
『この子が本命だな』、シンはそう考える。
姫も同意見らしい、2人の腹の内は決まった。
早速入って、取材開始だ。
2人共、相当意気込んでいた。



『良いよ良いよー。』

カメラマンのシャッターを切る音が、場内に鳴り響く。
ここは、グラビアの撮影スタジオらしい。
ウェーブのかかった長い茶髪をヒラリとさせて、モデルが幾つもポージングをしていた。
スタッフの輪の外側から見守る、シンと姫。
シンの特別な力を使って、関係者に成り済まし。
見学のていを取っていた。

『休憩入りまーす。』

その声に、少し疲れた様子で椅子に座るモデル。
差し入れをする振りをして、シンと姫は近付こうとする。

「お疲れ様です。これをどうぞ。」

シンがスッと、モデルに飲み物を差し出す。
前に、雑誌のインタビューで。
このモデルが『好きだ』と答えていた奴だ。
モデルの警戒心を、少しでも解こうとする策だった。

『あら、ありがとう。』

モデルは素直に、それを受け取る。
『気が利くわね』位は、思ってくれると良いけど。
そんな事を考えているシンを見て、モデルが。

『見ない顔だけど……どちら様?』

「カメラマンの知り合いの者です。」

シンの代わりに、姫がそう答える。
そして。

「私、あなたのファンなんです。あなたの撮影が行われると聞いて、無理を言って見学させて頂いてました。」

姫は、適当に嘘を付いた。
『ごめんね』と、心の中で呟きながら。
モデルは嬉しそうに、姫に笑い掛けると。

『それは光栄ね。』

「それでですね。これを機会に、ファッションのコツについて伺いたいのですが……。」

『そんなに時間は無いけど、それで良いなら答えるわよ。カメラマンさんのお知り合いだもんね。』

モデルは気軽に、姫のリクエストへ応じてくれた。



カメラマンは、写真チェックをしている。
少し時間が掛かる様だった。
その間に姫は、モデルを質問攻めにする。
最初はたじろいだモデルだったが、徐々に手慣れた感じで受け答えを続けた。
シンは2人の邪魔にならない様、少し離れた所で立っている。
もうそろそろ時間らしい、席を離れる準備をするモデル。
最後に姫は、彼女に尋ねた。

「一番大切な事は何ですか?」

姫の問いに対して、モデルはあっさり答える。

『誰の為に着飾るか、ね。』

「と言いますと?」

『今日の私は、仕事として来てる訳だけど。ここで取られた写真は当然、読者に見られる訳よね?その読者が、《私もこんな風に成りたい》と思ってくれる様に着てるのよ。』

『なるほど』と、素直に姫は感心する。
モデルが続ける。

『逆に普段は、《こう言う風に、自分を見て欲しい》と思って。服とかをチョイスするの。特に、気になる人の前ではね。あなたもそうでしょう?』

「確かに。でも私は、これまでそんな自覚が無くて……。」

『でも今は、ちゃんと気付いてる。相当な進歩よ。』

「はい……。」

『あなたにも居るんでしょう?《私を見て》って言う人が。例えば……彼とか?』

シンを顔を、チラリと見るモデル。
ここから2人はひそひそ声に。

「ど、どうして……?」

『分かるわよ。見え見えだもの、女の子からはね。』

その言葉は、姫の顔を真っ赤にさせた。
『とっても大事な事よ』とは、モデルの言葉。
そして。

『自分のイメージを大切にして、なおかつ最大の効果を見せられるコーディネートをする。彼の前で披露すれば、ちょくでリアクションが見られる。それを参考に、また考えれば良い。単純でしょ?』

「何と無く分かった様な……。」

『今はそれで良いの。大丈夫、直ぐに上達するわ。恋してるあなたなら。』

モデルは姫に対し、小悪魔的な笑みを薄っすらと浮かべる。
その時。

『済みませーん、撮影を再開しまーす。衣装チェンジをお願いしまーす。』

スタッフが、全体に号令を掛けた。
それを受け、モデルは立ち上がる。

『あ、行かなくちゃ。ゆっくり見学して言ってね。』

「ありがとうございました。」

姫はモデルに、深々と頭を下げる。
『頑張って!』と姫に、優しく一声掛けて。
モデルは衣装を着替えに、控室へと向かった。



「どうだ?参考になったか?」

2人の様子を心配そうに見つめていたシンが、姫に尋ねる。
モデルが撮影に戻った後も。
2人はしばらく、その様子をジッと見ていた。
姫の顔からは。
この世界に入る前の、暗い表情が消えていた。

「はい、とても。」

姫は、尊敬の眼差しでモデルを見つめる。
流石、一流だな。
モデルに対して感心するシン、その一方で。
女神に尊敬される人間なんて、そうそう居ないぞ。
モデルのプロとしての振る舞いを、心の中でそう評していた。



雑誌の世界から戻って来た後、姫は色々考えていた。
〔有りし者〕としては、威厳の有る姿の方が本来なのだろう。
でも〔恋する女の子〕としては、多少親しみ易い方が良いのかも知れない。
何せ、シンは私を。
【姫】と呼んでくれているのだから。
それがシンの、私に対するイメージなら。
それに合わせた方が、好印象な筈。
姫の、ファッションに対する方向性は決まった。

《大丈夫。》

そんな、モデルの励ましの言葉を胸に。
女子力アップに精進する決意を固める、姫なのだった。
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