黒見山の魔女が消えた日

片上尚

文字の大きさ
上 下
15 / 25
梓の魔女伝説

7

しおりを挟む
水野は怜さんと一緒に、副編集長の手元の資料をのぞき込む。
女性らしい字で記された分厚いノートだ。
少し古ぼけてはいるが、古書というわけではなく、かといってここ最近書かれた風ではない、というぐらいの感じだ。
副編集長が開いたページには

反魂について

との書き出しから始まっていた。
ページ一杯に必要なものや手順が書き出されているようだが、一部読めない外国語が混じっていたり、よくわからない古語が入っていたりと、素人目には「よくわからない」の一言に尽きる。

「これって人を生き返らせるにはって話ですよね?」
「そうね。私にも読めないところがあるけど。」

「これ、どこにあったんですか?」

怜さんが深刻そうな顔で尋ねる。

「奥の棚の、明らかに古書ばかりの中に差し込んであったわ。これだけ少し新しかったから目に付いたの。同じぐらい年代のものは手前にあるのに、なんでかしらね?この文字に見覚えは?」
「梓姉さんの字に似てますが…母も似た字を書いていた覚えがあるので何とも言えません。」
「怜さんは書いてある内容は読めるのかしら。」
「あまり…」

怜さんはそう言いながらノートから目を離さない。

「別のページも見たけど、基本魔法を使うにはが必要みたいね。」
「血?一族じゃないと無理ってことですか?」

副編集長はすでにある程度資料を読み込んでから声をかけてきたらしい。

「いえ?媒介として使うみたいよ。使いたい魔法によって、どの生物の血が必要なのか異なっているみたい。」
「え、白魔法ってそんな物騒なんですか?」

思わず聞き返してしまう。

「梓姉さんが夜な夜な生き物を殺していた、なんてことはありませんでしたが…」

抗議するように怜さんが言う。

「なにも、体から取り出してなくてもいいみたいよ?魔法陣や呪文、道具などを媒介に、必要な分を抜き取るみたい。生命力でもいいみたいだし。梓さんが幸運になっているそばで、貧血になった人や急に具合が悪そうになっていた人はいなかったかしら?あとは、急に周りで虫がばたばた落ちてたりとか。」

「そんな…」

怜さんが絶句する。

「思い当たることがあるんですか?」
「…私も都姉さんも、よく貧血を起こすんです。でも、今もなので、梓姉さんのせいじゃないと思うのですが。」

そこまで聞いて、なんとなく、先ほどから気になっていたことをつい口に出してしまった。

「片見梓さんは、本当に亡くなったのですか?」
しおりを挟む

処理中です...