水曜日の彼女

揣 仁希

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雨の日の水曜日

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僕 立花皐月《たちばな さつき》は、一応進学校と言われる高校に通う高校3年生である。

女の子みたいな名前は、はっきり言って嫌いだ。両親は女の子が欲しかったらしく僕に皐月と名付けた。
そして僕が10才のころ、妹が産まれると両親の愛情は妹に移った。

僕は、決して両親のことがイヤになったわけではないが、高校は県外の難関校を受験し合格後家を出た。幸い我が家は少し裕福なこともあり両親はすんなりと一人暮らしを了承してくれた。

高校生活は十二分に楽しいものだった。仲の良い友人も出来たし、まぁ名前のことで弄られるのは多々あるが、バイトも始めある程度余裕も出てきた。
そして今、僕は学校からの帰り道、少し遠回りをして帰宅する途中だ。

毎週水曜日だけ、僕の唯一の楽しみ。

僕の住むハイツがある駅近くではなく駅の反対側にある大きな公園。

水曜日の夕方5時30分頃。
公園の中央にある大きな噴水、取り囲むように並んだベンチの定位置。
いつもの場所に、腰掛けて通学カバンから参考書を取り出し読んでいるふりをする。

来た。

夕焼けが眩しい中、彼女が歩いてくる。

栗色の綺麗な髪は、肩ほどで切り揃えてあり少し気の強そうな切長の瞳が印象的な遠目に見ても、ハッとする程の整った美貌。パンツスタイルのビジネススーツが良く似合う名前も知らない彼女。

半年ほど前に、この公園で(ちょうどテスト前で図書館に行った帰り)見かけて以来、僕は彼女がこの公園を通る毎週水曜日のこの時間にこの場所に来るようになった。

そっと、僕は参考書を読むふりをしながら彼女の姿を追う。



・・・あの日、僕は彼女に一目惚れをした。



でも、声をかける勇気なんてものがあるはずもなく、こうしてその姿を見ているだけで、充分だった。

「よし。帰るか」

彼女が、通りすぎその後姿が見えなくなると僕は、1人つぶやき家路についた。
決して、ストーカーじゃないからね?

翌週、水曜日は生憎《あいにく》の空模様だった。今にも泣き出しそうな雲行き。
僕は、少し悩んだけどやっぱり公園に向かった。

いつもの場所、いつもの時間。

「あっ」

いつものように参考書をカバンから取り出したタイミングで、ポツリポツリと雨が降り出してきた。

「やっぱ降ってきたかぁ、傘持ってくるべきだった・・・」
残念だけど、雨の中、1人ベンチに座ってたらただの変な人だし今日は諦めて・・・

帰ろうかと思い、カバンを持ったとき

「傘、入れてあげようか?」

「えっ?」

声を掛けられて顔を上げると、そこには彼女の困ったような顔があった。

「いや、あの、僕は、えっと、」
僕は、しどろもどろになって何を言っていいのか、わからなく。

「うふふ、大丈夫よ、さあどうぞ」
彼女はくすりと笑いながら、傘を差し出して僕の手をとった。


僕は、この日のことを一生忘れないだろう。


僕は、この日、彼女に恋をした。

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