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未知の召喚獣3
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時空が停止した状態でリリスの頭上に現れた存在。
それは赤い龍と白い小鳥だった。
ロキとシーナの使い魔だ。
だが何故シーナがここに来たのだろうか?
戸惑うリリスの目の前に赤い龍が停止した。
「リリス。お前はどうして人騒がせな事ばかりするのだ? 儂に対する嫌がらせか?」
非難の波動がリリスに伝わってくる。
「もしかして・・・赤い鳥の事ですか?」
「それに決まっているだろう!」
龍は怒りながらぐるっと身体を回転させた。
その龍の上に赤い鳥が出現した。
その小さな足に魔力の紐が結ばれ、龍の角に結ばれている。
「それにしても妙なものを造ったものだな。少しでも油断すると、異世界にまで逃げてしまう。かろうじて捕縛しているが、これも万全ではない。」
「そもそもこの赤い鳥は何なのだ? 説明してもらおう。」
龍の言葉を受け、リリスは赤い鳥が出現した経緯を説明した。
その言葉に赤い龍はふむと唸り、少し考え込んだ後、白い小鳥に話し掛けた。
「シーナ。お前はどう思う? この赤い鳥は実体でお前の世界にまで逃げ込んでいたが、召喚獣がそんなに簡単に異世界を渡ることが出来るものなのか?」
赤い龍の言葉に白い小鳥は首を傾げる動作をした。
「召喚の手順で出現したものの、この赤い鳥は召喚獣では無いわよね。この赤い鳥の直後にリリスが聖獣を呼び出している事を考えると、これも本来は聖獣として出現する状況だったんじゃないの?」
「だが聖獣ではないぞ。」
「そう。だから成り損なったんじゃないの? 召喚者の邪念か何かが邪魔して・・・」
それってメルの事?
リリスの思いを意に介さず、白い小鳥は話を続けた。
「この赤い鳥は聖獣として出現出来なかった事が悔しかったんじゃないの? それで存在としてのレベルを上げるために画策して、リリスの持つ異世界由来のスキルと融合分立し、別な存在へと自分を生みかえたんでしょうね。」
「う~む。そんな事があるのか?」
そう言って赤い龍が考え込む仕草をしたその時、角に絡んでいた魔力の紐がふっと消え、赤い鳥もその場からふっと消えた。
「アッ! 逃げられてしまった!」
逃げたって・・・ロキ様でも捕縛出来ないの?
あの赤い鳥ってどう言う存在なのよ。
「どうやら異世界にまでは逃げておらん様だ。リリスの通う魔法学院の庭に居る事が探知で来たぞ。だがどうしてそんなところに逃げたのだ?」
「ああ、それなら思い当たる事がありますよ。」
リリスはそう言うと赤い龍の目を見つめた。
「魔法学院の学舎の傍にある小さな公園スペースに、世界樹と通じ合える若木を植えてあるんです。あの赤い鳥は世界樹と何らかの情報伝達をしているのかも知れません。」
「ううむ。どこまでも不思議な奴だ。」
そう言うと赤い龍はふっとため息をついた。
「まあ、あの赤い鳥が異世界を渡るとしても、質量が小さいので、生じる時空の歪も大した事は無い。お前達も意識レベルで転移しただけなので、時空に影響を及ぼす事は無い。だがそれでもあの赤い鳥は想定外の存在なので、今後何が引き起こされるか見当もつかない事が心配なのだよ。」
再び考え込む赤い龍に白い小鳥が話し掛けた。
「まあ、監視しているしかないわよね。それで・・・私はそろそろ帰って良いかしら?」
「ああ、すまんな。感謝しているぞ。」
赤い龍の言葉にうんうんと頷き、白い鳥はその場からふっと消えた。
「シーナさんってどうしてここに来たんですか?」
リリスは龍に素朴な疑問を投げ掛けた。
「ああ、あの赤い鳥を捕縛してくれたのだよ。それで儂のところに連れてきてくれたのだ。あの程度の質量の存在とは言え、自分の世界に異世界の未知の存在を置いておく事は不安だと言っておった。そうでなくてもまだシーナの居る世界は不安定要素が多いからな。」
そうだったのね。
シーナさんが連れてきてくれたのね。
「でも、シーナさんの居る世界ってそんなに不安定要素が多いんですか? 世界樹があれだけ育っているのに・・・」
リリスの疑問に赤い龍はうんうんと頷いた。
「シーナの居る世界は元々の世界から切り離されたのだ。大規模な時空の歪によって二つの異世界が複雑に絡み合ってしまい、双方に消滅の危機さえ生じていた。それを解消するためにシーナの世界の管理者は自分の世界を二つに分割し、大規模な時空の歪の解消に投入しているのだよ。管理者同士の交渉も上手く進んでいないので、完全な解消のためにはまだ数万年以上掛かるだろうな。」
そんなに酷いのね。
「シーナは管理者に見放された世界だと言っていたが、それは奴のひがみに過ぎぬ。シーナの居る世界は例えれば、腐りかけたリンゴから切り離された腐っていない健全な部分なのだよ。」
ふうん。
そうなのね。
聞かされる話が壮大過ぎて、リリスには言葉が出てこない。
そのリリスの様子をスルーして、赤い龍はリリスに語り掛けた。
「とりあえずあの赤い鳥には過度に接触しないでくれ。何かの拍子にまた異変が起きるかも知れんからな。」
そう言われてもねえ。
リリスは心の中に不満を抱きつつも、止む無くハイと返事をした。
その後ロキは姿を消し、リリスの周りの時空の停止も解消された。
リリスはメリンダ王女達と世界樹についてしばらく談笑し、メリンダ王女の部屋を後にした。
その後、学舎の傍の公園スペースに時折、あの赤い鳥が出没するようになった。
若木の枝に留まっているかと思えば、ベンチに座っている生徒の傍に降りてきて身体を摺り寄せる事もあった。
人懐っこい仕草をするのでその評判は上々だ。
メリンダ王女の使い魔だと言う話が広がっているので、あえて危害を加える者もいない。
公園スペースで寛ぐ生徒にとってはアイドルのような存在になっている。
そんなある日の事。
リリスは放課後に職員室の隣のゲストルームに呼び出された。
呼び出したのはメリンダ王女である。
何の用だろうか?
疑心暗鬼でゲストルームの中に入ると、メリンダ王女の他にノイマン卿とジークが座っていた。
しかもメリンダ王女は使い魔ではなく本人が座っている。
何なのよ!
このメンツって何なの?
平常心を保ちつつ、リリスはメリンダ王女達と挨拶を交わし、その対面のソファに座った。
「ごめんね、急に呼び出して。でも今回はあんたに関係の深い事案だからね。」
そう言われても分からない。
不審感満載のリリスの表情を見て、メリンダ王女はアハハと笑った。
「そんな顔をしないでよ。実はアブリル王国の王家から公文書が届いてね。アブリル王国の統治者が代わった事を機会に、ミラ王国との同盟関係を見直した上で、再構築したいって言うのよ。」
「それはその統治者の意向なんでしょうね。」
そう答えながらもリリスの心の中に引っ掛かるものがあった。
アブリル王国と言えば・・・個別進化を遂げたローラの国だ。
統治者が代わったと言うのはローラの事だろうか?
「それでね、その統治者があんたを国賓としてお迎えしたいって言っているのよ。正式な招待状もあるわ。」
そう言いながらメリンダ王女はノイマン卿にその招待状を取り出させた。
「リリス。あんたって何をしたの? 国賓待遇での招待って、相手国の王族なら分かるけど・・・・・」
うっ!
そう言えばローラの従者のジーナさんがそんな事を言っていたわね。
まさか本気で言っていたとは思わなかったけど・・・。
「まあ、ワームホールから出てきた魔物を大量に駆除したご褒美じゃないの?」
「そんな事で国賓待遇にするっていうの? リリス、何を隠しているのよ。」
「そう言われてもねえ。私も思いつかないわよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女は全く納得出来ない様子だ。
その傍からノイマン卿が口を開いた。
「まあ、理由はともあれ、相手方は歓迎してくれているのですから、これを機会に文化的な交流まで含めて、同盟関係を再構築するのは我が国にとっても好都合だと思いますぞ。」
そうそう。
ノイマン様、グッジョブよ。
「まあ、それはそうなんだけどねえ。」
そう言いながらもメリンダ王女はまだ不満そうだ。
そのメリンダ王女の表情を見ながら、ノイマン卿はジークに話し掛けた。
「ジーク君。警護はいつも通りの仕様で頼むよ。それでアブリル王国の最近の情報は掴んでいるかね?」
問い掛けられたジークはそのチャラい表情で口を開いた。
「ハイ。以前の国王は退位され、孤島に追いやられたようです。島流しですね。新しい統治者は若い女王でローラ様と言う名前だそうです。」
「20歳前後の若い女王ですが、聡明で統治能力に長けており、周辺諸国との交渉事も上手くこなしているそうです。」
うん?
20歳前後って?
おかしいわね。
ローラってまだ10歳程度の少女だったわよ。
違う人が代行しているのかしら?
「隣国からの情報では、その女王の国内の統治は上々で、種々の産業の振興などもあって、国民全体の暮らしも向上しているとの事です。」
ジークの言葉にノイマン卿はうんうんと頷いた。
「それにしても稀なケースだな。基本的に獣人の国は男尊女卑の傾向が高い。獣人の国にあって、女王が統治して安泰になっているというのも珍しい事だ。おそらく周囲に有能な部下を大勢従えておるのだろうな。」
ノイマン卿はそう言うとメリンダ王女に話し掛けた。
「王女様。国賓待遇のリリスに常時傍で仕える従者はお決めになりましたか?」
「ああ、それなら決めたわよ。私と同じクラスのリンディに頼んだから。」
メリンダ王女の言葉にリリスはえっ!と驚いた。
「リンディも行くの?」
「ええ、そうよ。彼女は姉のアイリスの件もあって、獣人の統治する国の王族とは交流の機会を増やしたいのよ。いずれは獣人の国との外交面で貢献してもらおうと思っているのでね。色々と経験を積ませてあげたいの。それに、実の姉が獣人の国の王妃と言うだけでも、他国から一目置かれるのは間違いないわ。」
「それと、獣人には獣人のしきたりがあるからね。大まかな事は私にも分かるけど、相手が獣人の王族ともなると、微妙に分かり難いところもあるのよ。だから、ちょっとした事で無作法に思われない為にも、リンディが傍に居ると助かると思うわよ。」
うんうん。
そう言う配慮は嬉しいわね。
それに空間魔法に長けたリンディが一緒なら、何かと心強いしね。
でもそこまで構えて行く必要があるのかしら?
国情が落ち着いてきたから、私に会う余裕が出来ただけじゃないのかなあ。
「それで出立は3日後でよろしいですか?」
ノイマン卿の問い掛けにメリンダ王女はうんうんと頷いた。
「それで良いわよ。リリスもそのつもりで準備してね。」
メリンダ王女の言葉にリリスはハイと答え、ノイマン卿やジークにも軽く頭を下げた。
その後、用件を済ませたリリスはゲストルームから生徒会の部屋に向かった。
その途中の廊下でリンディを見かけたリリスは、急ぎ足で近付き声を掛けた。
「リンディ! 丁度良かったわ。アブリル王国へ行く事は聞いているわね?」
リリスの言葉にリンディは笑顔で頷いた。
「ええ、聞いていますよ。リリス先輩の傍で仕える従者の件ですよね。行き先が獣人の国だから私が適役だと、王女様に思っていただけたのでしょうね。」
「ええ、その通りよ。よろしくね。」
リリスの言葉にリンディはハイと元気に答えた。
「それにしても国賓待遇で招待なんて、リリス先輩・・・何をしたんですか? もしかして駆除した魔物の数の合計が1万体を超えたとか・・・」
「そんなんじゃないわよ。でも色々と事情があってね。」
そう言いながらリリスは廊下の外れの壁の窪みにリンディを誘導した。
何事かと首を傾げるリンディの耳元に、リリスは小声でつぶやいた。
「今回の件には間接的にロキ様が関わっているのよ。」
「えっ! そうなんですか?」
リンディは驚いて大きな声を上げてしまった。
そのリンディを落ち着かせ、リリスは再度小声でつぶやいた。
「実際には私もアブリル王国に行ってみないと状況が掴めないのよね。とりあえず厚遇で招待されているんだから、楽しい時間になると思うわよ。」
「そうですよね。私も楽しみです。それに従者とは言え、今回アブリル王国の王族に会えるのもリリス先輩のお陰ですからね。先輩にはどこまでも付いていきますよ!」
「それは大げさだわよ。」
そう言って笑いながら、リリスはリンディを促して生徒会の部屋に入っていったのだった。
それは赤い龍と白い小鳥だった。
ロキとシーナの使い魔だ。
だが何故シーナがここに来たのだろうか?
戸惑うリリスの目の前に赤い龍が停止した。
「リリス。お前はどうして人騒がせな事ばかりするのだ? 儂に対する嫌がらせか?」
非難の波動がリリスに伝わってくる。
「もしかして・・・赤い鳥の事ですか?」
「それに決まっているだろう!」
龍は怒りながらぐるっと身体を回転させた。
その龍の上に赤い鳥が出現した。
その小さな足に魔力の紐が結ばれ、龍の角に結ばれている。
「それにしても妙なものを造ったものだな。少しでも油断すると、異世界にまで逃げてしまう。かろうじて捕縛しているが、これも万全ではない。」
「そもそもこの赤い鳥は何なのだ? 説明してもらおう。」
龍の言葉を受け、リリスは赤い鳥が出現した経緯を説明した。
その言葉に赤い龍はふむと唸り、少し考え込んだ後、白い小鳥に話し掛けた。
「シーナ。お前はどう思う? この赤い鳥は実体でお前の世界にまで逃げ込んでいたが、召喚獣がそんなに簡単に異世界を渡ることが出来るものなのか?」
赤い龍の言葉に白い小鳥は首を傾げる動作をした。
「召喚の手順で出現したものの、この赤い鳥は召喚獣では無いわよね。この赤い鳥の直後にリリスが聖獣を呼び出している事を考えると、これも本来は聖獣として出現する状況だったんじゃないの?」
「だが聖獣ではないぞ。」
「そう。だから成り損なったんじゃないの? 召喚者の邪念か何かが邪魔して・・・」
それってメルの事?
リリスの思いを意に介さず、白い小鳥は話を続けた。
「この赤い鳥は聖獣として出現出来なかった事が悔しかったんじゃないの? それで存在としてのレベルを上げるために画策して、リリスの持つ異世界由来のスキルと融合分立し、別な存在へと自分を生みかえたんでしょうね。」
「う~む。そんな事があるのか?」
そう言って赤い龍が考え込む仕草をしたその時、角に絡んでいた魔力の紐がふっと消え、赤い鳥もその場からふっと消えた。
「アッ! 逃げられてしまった!」
逃げたって・・・ロキ様でも捕縛出来ないの?
あの赤い鳥ってどう言う存在なのよ。
「どうやら異世界にまでは逃げておらん様だ。リリスの通う魔法学院の庭に居る事が探知で来たぞ。だがどうしてそんなところに逃げたのだ?」
「ああ、それなら思い当たる事がありますよ。」
リリスはそう言うと赤い龍の目を見つめた。
「魔法学院の学舎の傍にある小さな公園スペースに、世界樹と通じ合える若木を植えてあるんです。あの赤い鳥は世界樹と何らかの情報伝達をしているのかも知れません。」
「ううむ。どこまでも不思議な奴だ。」
そう言うと赤い龍はふっとため息をついた。
「まあ、あの赤い鳥が異世界を渡るとしても、質量が小さいので、生じる時空の歪も大した事は無い。お前達も意識レベルで転移しただけなので、時空に影響を及ぼす事は無い。だがそれでもあの赤い鳥は想定外の存在なので、今後何が引き起こされるか見当もつかない事が心配なのだよ。」
再び考え込む赤い龍に白い小鳥が話し掛けた。
「まあ、監視しているしかないわよね。それで・・・私はそろそろ帰って良いかしら?」
「ああ、すまんな。感謝しているぞ。」
赤い龍の言葉にうんうんと頷き、白い鳥はその場からふっと消えた。
「シーナさんってどうしてここに来たんですか?」
リリスは龍に素朴な疑問を投げ掛けた。
「ああ、あの赤い鳥を捕縛してくれたのだよ。それで儂のところに連れてきてくれたのだ。あの程度の質量の存在とは言え、自分の世界に異世界の未知の存在を置いておく事は不安だと言っておった。そうでなくてもまだシーナの居る世界は不安定要素が多いからな。」
そうだったのね。
シーナさんが連れてきてくれたのね。
「でも、シーナさんの居る世界ってそんなに不安定要素が多いんですか? 世界樹があれだけ育っているのに・・・」
リリスの疑問に赤い龍はうんうんと頷いた。
「シーナの居る世界は元々の世界から切り離されたのだ。大規模な時空の歪によって二つの異世界が複雑に絡み合ってしまい、双方に消滅の危機さえ生じていた。それを解消するためにシーナの世界の管理者は自分の世界を二つに分割し、大規模な時空の歪の解消に投入しているのだよ。管理者同士の交渉も上手く進んでいないので、完全な解消のためにはまだ数万年以上掛かるだろうな。」
そんなに酷いのね。
「シーナは管理者に見放された世界だと言っていたが、それは奴のひがみに過ぎぬ。シーナの居る世界は例えれば、腐りかけたリンゴから切り離された腐っていない健全な部分なのだよ。」
ふうん。
そうなのね。
聞かされる話が壮大過ぎて、リリスには言葉が出てこない。
そのリリスの様子をスルーして、赤い龍はリリスに語り掛けた。
「とりあえずあの赤い鳥には過度に接触しないでくれ。何かの拍子にまた異変が起きるかも知れんからな。」
そう言われてもねえ。
リリスは心の中に不満を抱きつつも、止む無くハイと返事をした。
その後ロキは姿を消し、リリスの周りの時空の停止も解消された。
リリスはメリンダ王女達と世界樹についてしばらく談笑し、メリンダ王女の部屋を後にした。
その後、学舎の傍の公園スペースに時折、あの赤い鳥が出没するようになった。
若木の枝に留まっているかと思えば、ベンチに座っている生徒の傍に降りてきて身体を摺り寄せる事もあった。
人懐っこい仕草をするのでその評判は上々だ。
メリンダ王女の使い魔だと言う話が広がっているので、あえて危害を加える者もいない。
公園スペースで寛ぐ生徒にとってはアイドルのような存在になっている。
そんなある日の事。
リリスは放課後に職員室の隣のゲストルームに呼び出された。
呼び出したのはメリンダ王女である。
何の用だろうか?
疑心暗鬼でゲストルームの中に入ると、メリンダ王女の他にノイマン卿とジークが座っていた。
しかもメリンダ王女は使い魔ではなく本人が座っている。
何なのよ!
このメンツって何なの?
平常心を保ちつつ、リリスはメリンダ王女達と挨拶を交わし、その対面のソファに座った。
「ごめんね、急に呼び出して。でも今回はあんたに関係の深い事案だからね。」
そう言われても分からない。
不審感満載のリリスの表情を見て、メリンダ王女はアハハと笑った。
「そんな顔をしないでよ。実はアブリル王国の王家から公文書が届いてね。アブリル王国の統治者が代わった事を機会に、ミラ王国との同盟関係を見直した上で、再構築したいって言うのよ。」
「それはその統治者の意向なんでしょうね。」
そう答えながらもリリスの心の中に引っ掛かるものがあった。
アブリル王国と言えば・・・個別進化を遂げたローラの国だ。
統治者が代わったと言うのはローラの事だろうか?
「それでね、その統治者があんたを国賓としてお迎えしたいって言っているのよ。正式な招待状もあるわ。」
そう言いながらメリンダ王女はノイマン卿にその招待状を取り出させた。
「リリス。あんたって何をしたの? 国賓待遇での招待って、相手国の王族なら分かるけど・・・・・」
うっ!
そう言えばローラの従者のジーナさんがそんな事を言っていたわね。
まさか本気で言っていたとは思わなかったけど・・・。
「まあ、ワームホールから出てきた魔物を大量に駆除したご褒美じゃないの?」
「そんな事で国賓待遇にするっていうの? リリス、何を隠しているのよ。」
「そう言われてもねえ。私も思いつかないわよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女は全く納得出来ない様子だ。
その傍からノイマン卿が口を開いた。
「まあ、理由はともあれ、相手方は歓迎してくれているのですから、これを機会に文化的な交流まで含めて、同盟関係を再構築するのは我が国にとっても好都合だと思いますぞ。」
そうそう。
ノイマン様、グッジョブよ。
「まあ、それはそうなんだけどねえ。」
そう言いながらもメリンダ王女はまだ不満そうだ。
そのメリンダ王女の表情を見ながら、ノイマン卿はジークに話し掛けた。
「ジーク君。警護はいつも通りの仕様で頼むよ。それでアブリル王国の最近の情報は掴んでいるかね?」
問い掛けられたジークはそのチャラい表情で口を開いた。
「ハイ。以前の国王は退位され、孤島に追いやられたようです。島流しですね。新しい統治者は若い女王でローラ様と言う名前だそうです。」
「20歳前後の若い女王ですが、聡明で統治能力に長けており、周辺諸国との交渉事も上手くこなしているそうです。」
うん?
20歳前後って?
おかしいわね。
ローラってまだ10歳程度の少女だったわよ。
違う人が代行しているのかしら?
「隣国からの情報では、その女王の国内の統治は上々で、種々の産業の振興などもあって、国民全体の暮らしも向上しているとの事です。」
ジークの言葉にノイマン卿はうんうんと頷いた。
「それにしても稀なケースだな。基本的に獣人の国は男尊女卑の傾向が高い。獣人の国にあって、女王が統治して安泰になっているというのも珍しい事だ。おそらく周囲に有能な部下を大勢従えておるのだろうな。」
ノイマン卿はそう言うとメリンダ王女に話し掛けた。
「王女様。国賓待遇のリリスに常時傍で仕える従者はお決めになりましたか?」
「ああ、それなら決めたわよ。私と同じクラスのリンディに頼んだから。」
メリンダ王女の言葉にリリスはえっ!と驚いた。
「リンディも行くの?」
「ええ、そうよ。彼女は姉のアイリスの件もあって、獣人の統治する国の王族とは交流の機会を増やしたいのよ。いずれは獣人の国との外交面で貢献してもらおうと思っているのでね。色々と経験を積ませてあげたいの。それに、実の姉が獣人の国の王妃と言うだけでも、他国から一目置かれるのは間違いないわ。」
「それと、獣人には獣人のしきたりがあるからね。大まかな事は私にも分かるけど、相手が獣人の王族ともなると、微妙に分かり難いところもあるのよ。だから、ちょっとした事で無作法に思われない為にも、リンディが傍に居ると助かると思うわよ。」
うんうん。
そう言う配慮は嬉しいわね。
それに空間魔法に長けたリンディが一緒なら、何かと心強いしね。
でもそこまで構えて行く必要があるのかしら?
国情が落ち着いてきたから、私に会う余裕が出来ただけじゃないのかなあ。
「それで出立は3日後でよろしいですか?」
ノイマン卿の問い掛けにメリンダ王女はうんうんと頷いた。
「それで良いわよ。リリスもそのつもりで準備してね。」
メリンダ王女の言葉にリリスはハイと答え、ノイマン卿やジークにも軽く頭を下げた。
その後、用件を済ませたリリスはゲストルームから生徒会の部屋に向かった。
その途中の廊下でリンディを見かけたリリスは、急ぎ足で近付き声を掛けた。
「リンディ! 丁度良かったわ。アブリル王国へ行く事は聞いているわね?」
リリスの言葉にリンディは笑顔で頷いた。
「ええ、聞いていますよ。リリス先輩の傍で仕える従者の件ですよね。行き先が獣人の国だから私が適役だと、王女様に思っていただけたのでしょうね。」
「ええ、その通りよ。よろしくね。」
リリスの言葉にリンディはハイと元気に答えた。
「それにしても国賓待遇で招待なんて、リリス先輩・・・何をしたんですか? もしかして駆除した魔物の数の合計が1万体を超えたとか・・・」
「そんなんじゃないわよ。でも色々と事情があってね。」
そう言いながらリリスは廊下の外れの壁の窪みにリンディを誘導した。
何事かと首を傾げるリンディの耳元に、リリスは小声でつぶやいた。
「今回の件には間接的にロキ様が関わっているのよ。」
「えっ! そうなんですか?」
リンディは驚いて大きな声を上げてしまった。
そのリンディを落ち着かせ、リリスは再度小声でつぶやいた。
「実際には私もアブリル王国に行ってみないと状況が掴めないのよね。とりあえず厚遇で招待されているんだから、楽しい時間になると思うわよ。」
「そうですよね。私も楽しみです。それに従者とは言え、今回アブリル王国の王族に会えるのもリリス先輩のお陰ですからね。先輩にはどこまでも付いていきますよ!」
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