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最終話
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それからすぐにエマとニックの婚約は解消された。
実はニックとアンナの二人と話をする前に、すでにニックの両親にはジェイクと一緒に事情を話していたこともあり、ことはスムーズに運んだ。
ニックはただでさえ婚約解消で落ち込んでいるところに両親にきつく説教を入れられ、現在はかなり暗い雰囲気で日々の生活を送っているらしい。アンナは親友の婚約者を奪ったとして周りから遠巻きに見られ、針のむしろ状態。
小さいこの村で急速に噂は広がり、今や二人のしたことを知らないものはほぼいない。
「ねえ、ジェイク。アンナは私が周囲に好かれるのが気に入らない、みたいなことを言っていたけど、それってアンナの勘違いでしょう? そんなに人から好かれていた覚えはないし。彼女にされたことには傷ついたし許せないけど、それはそれとして、本当ならこんな仲違いをする必要もなかったんじゃないかって……」
花壇の縁石に座っている、エマとジェイク。
エマがぽつりとこぼした言葉に、ジェイクはなぜか苦笑した。
「さあ、それはどうかな。少なくとも僕は、ニック以外で君に夢中だった人間を一人は知ってるけど」
「ええ、ジェイクの勘違いじゃなくて?」
「まさか」
ジェイクはそこで少し困ったように笑い、それから深くため息をついた。
不思議そうに首をかしげるエマ。
「やっぱり、伝わってなかったか。ニックは昔からずっと君のことが好きだと言ってはばからなかったけど、本当は僕も同じだった。僕もずっと君のことが好きだったんだよ、エマ」
柔らかく微笑みなから、ジェイクは穏やかにそう告げた。
エマはその言葉を聞いて思わず目を見開く。
──えっと、それって。
ジェイクの言葉の意味を理解した瞬間、エマの頬がぼっと赤く染まる。
信じられなくて、どうしようもなく恥ずかしくて、でも嫌ではない。表現しがたい気持ちを隠すように、エマはうつむいた。
ジェイクは静かに言葉を続けた。
「こんな時に言ってしまって、ごめん。今すぐには考えられないと思うし、とりあえずは心の隅にでも止めておいてくれたら嬉しい。それで、君が次に踏み出そうと思えた時にでも思い出してくれれば」
「う……」
いたたまれなくなって下を向き表情を隠し続けるエマを、ジェイクは愛おしいものを見る目で見つめる。
エマはなんだか、ニックと付き合う前、自分の胸にずっと居座って離れなかった感情を思い出しそうになった。いつも穏やかに微笑みながら優しく自分に接してくれた幼なじみに抱いていた、懐かしいあの気持ちを。
「でも、覚えておいて。僕は絶対に君を裏切らない。君がもしも僕を望んでくれるなら、決して離しはしない」
エマが今度こそ幸せな結婚にたどり着くのは、そんなに遠い未来の話ではない……かもしれない。
実はニックとアンナの二人と話をする前に、すでにニックの両親にはジェイクと一緒に事情を話していたこともあり、ことはスムーズに運んだ。
ニックはただでさえ婚約解消で落ち込んでいるところに両親にきつく説教を入れられ、現在はかなり暗い雰囲気で日々の生活を送っているらしい。アンナは親友の婚約者を奪ったとして周りから遠巻きに見られ、針のむしろ状態。
小さいこの村で急速に噂は広がり、今や二人のしたことを知らないものはほぼいない。
「ねえ、ジェイク。アンナは私が周囲に好かれるのが気に入らない、みたいなことを言っていたけど、それってアンナの勘違いでしょう? そんなに人から好かれていた覚えはないし。彼女にされたことには傷ついたし許せないけど、それはそれとして、本当ならこんな仲違いをする必要もなかったんじゃないかって……」
花壇の縁石に座っている、エマとジェイク。
エマがぽつりとこぼした言葉に、ジェイクはなぜか苦笑した。
「さあ、それはどうかな。少なくとも僕は、ニック以外で君に夢中だった人間を一人は知ってるけど」
「ええ、ジェイクの勘違いじゃなくて?」
「まさか」
ジェイクはそこで少し困ったように笑い、それから深くため息をついた。
不思議そうに首をかしげるエマ。
「やっぱり、伝わってなかったか。ニックは昔からずっと君のことが好きだと言ってはばからなかったけど、本当は僕も同じだった。僕もずっと君のことが好きだったんだよ、エマ」
柔らかく微笑みなから、ジェイクは穏やかにそう告げた。
エマはその言葉を聞いて思わず目を見開く。
──えっと、それって。
ジェイクの言葉の意味を理解した瞬間、エマの頬がぼっと赤く染まる。
信じられなくて、どうしようもなく恥ずかしくて、でも嫌ではない。表現しがたい気持ちを隠すように、エマはうつむいた。
ジェイクは静かに言葉を続けた。
「こんな時に言ってしまって、ごめん。今すぐには考えられないと思うし、とりあえずは心の隅にでも止めておいてくれたら嬉しい。それで、君が次に踏み出そうと思えた時にでも思い出してくれれば」
「う……」
いたたまれなくなって下を向き表情を隠し続けるエマを、ジェイクは愛おしいものを見る目で見つめる。
エマはなんだか、ニックと付き合う前、自分の胸にずっと居座って離れなかった感情を思い出しそうになった。いつも穏やかに微笑みながら優しく自分に接してくれた幼なじみに抱いていた、懐かしいあの気持ちを。
「でも、覚えておいて。僕は絶対に君を裏切らない。君がもしも僕を望んでくれるなら、決して離しはしない」
エマが今度こそ幸せな結婚にたどり着くのは、そんなに遠い未来の話ではない……かもしれない。
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長期間かけてコツコツと根気のいる作業の果てに出来上がった工芸品を自ら叩き壊す。
いやー、ニックの無駄な時間の使い方は理解できません(笑)
田舎の噂話は回るの早いぞー。
そして一生付きまとうんです。
酒の肴に井戸端会議に。「そういえばあんな事あったね〜」って(・ω・`)
酔っ払いとおばちゃんは容赦無し!
感想ありがとうございます!
村ではかなり居心地の悪い立場に置かれると思います。
ただただ4話のアンナの根性?精神?凄いヨネ( ´;゚;∀;゚;)
婚約者にバレた彼(ニック)の変り身発言見聞きしるのに彼(ニック)に言えるんだ?
で、彼(ニック)がダメなら…で、迅速にお断りされるシーンは実に爽快でしたヨ( *´艸)ゴチ
感想ありがとうございます!
アンナは精神強いですね……!
好きな相手を悪口言って貶めるってのは、相手より優位に立ちたいってことかな
惚れて口説き落とした
けど、自分が下に感じる
女が輝くのを許せない男って、結構居るからな。稼ぎが嫁のがいいのが許せないとか。仕事が出来るのが許せないとか
下らないプライド男から逃げられて良かったよ!
感想ありがとうございます!
自分が一方的に惚れていたということで、自分の方が下のように感じていた面はあると思います! 主人公は逃げられてラッキーだったかもしれません。