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カトリーナと初めてのお祭り 5

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 消えたカトリーナを探して、途中でパパとヒューのパパも捕まえながらヒューはあちこち走り回ったらしい。

「無事でよかった……!」


 カトリーナにのばした手を、しかしさっき避けられたことを思い出したのか引っ込めた。


「カトリーナ、みつかってよかったよ。いきなり消えたってなにをしたの?」

 パパがヒューのママが持ってきてくれたお水を一気に飲んで聞いてきた。


「うん……。あのね、おばさまに会いたい! て思ったら、突然ここにいたの。魔法を使ったつもりはないんだけど……」

「すぐにうちに来ていたんだね。カトリーナが危険な目に遭わなくて、よかったよ」

 ヒューがほっと息を吐いた。
 いつもさらさらの白銀の髪はくしゃくしゃ、おそろいのケープもズボンもあちこち汚れていた。
 こんなにぼろぼろになるまで走らせたのに、怒らないんだ。
 ヒューの果てしない優しさにカトリーナの胸はきゅんとした。

「そうだった、すっかり忘れていたわ。突然部屋が明るくなったと思ったら目の前にカトリーナちゃんがいたのよ」

 そんな現象忘れるなよ、てヒューのパパが言ってる。
 私もすっかり忘れていました。



「初めて聞くけど、魔法なんだろうね……。はぁ、皆さんカトリーナがご迷惑をおかけしました。
 もう暗いから今日のところは帰ります。門がしまってしまう。ほら、カトリーナ。ご挨拶して」


 気づくともう外は薄暗い。夜になると門から出られないのだ。
 カトリーナは慌てて頭を下げた。

「おじさま、おばさま、ヒュー、迷惑をかけてほんとうにごめんなさい。失礼します。おやすみなさい」

 なんだか、ヒューの顔はあまり見れなかった。


 慌てて門を出ると、もう空には星が瞬いていた。
 暗いからか、パパはいつもよりゆっくりとポーラを進めている。

 カトリーナは今日気づいた、年齢についての誤解を話した。


「私、自分が幼い子供だと思っていたの。まだ10歳だから、て。
 でも違ったんだね。まだ10歳じゃない、もう10歳だったんだね」

「カトリーナは、ほとんどパパかお年寄りしか会ったことがなかったから……じいちゃんたちの接し方は小さな頃と変わらないしね。パパが教えることだったよね、ごめんね」

 パパがカトリーナの頭のてっぺんにキスをした。

「いままで、ヒューと手をつないだりするの、仲良しのお友達ができたと思って嬉しかったの。
 でも、お年頃なんだってわかったら、とっても恥ずかしくて。ヒューを避けちゃったの。傷ついてた」

 パパは静かに相槌を打ちながら聞いてくれる。

「でも、嫌じゃないの。すごく恥ずかしいけどヒューだから、嫌じゃないって思うの。あんな傷ついた顔、してほしくないの。
 パパ、私、ヒューのこと男の子として好き、みたいなの。
 あんなにきれいで優しいヒューのこと、私なんかが好きになってもいいのかな?」

「ヒューは、ずっとカトリーナに大切な女の子として接していたよ。カトリーナが好きになったら嬉しいだけだと思うよ。
 ねぇ、カトリーナ、私なんかなんて言わないで」

 君は誰よりすてきなパパの宝物だよ。

 パパがとっても優しい声で言った。





 つぎの日は学校が休み。
 ベッドから身を起こすといつもより寝坊していた。
 窓の外は霧雨が降っている。



 昨夜はヒューのことばかり考えてあまり眠れなかった。

 いつから好きだったんだろう?いつのまにか。
 あんなに美しい顔でひたすら優しくしてもらって、好きにならないわけないよね?
 好きにならないわけがない。

(次に会ったら、ヒューが大好きって伝えよう)

 目を閉じ心を決めると、まぶたの裏には昨日の、ぼろぼろのヒューが浮かんだ。


 さて朝ごはんにしよう!

 目を開くと、そこには寝起きでくしゃくしゃのヒューがいた。
 ぽかんとなんだかかわいい顔で、カトリーナを凝視している。

 ヒューの部屋だ。ヒューのベッドだ。


 昨日と同じことをしてしまった、みたいだ。


「カトリーナ? ほんとうに? ……おはよう?」


 ヒューはこんらんしている!
 カトリーナはさっきの決意のとおりにした。

「おはようヒュー! ヒューが大好きって伝えにきたの!」


 パパの言った通り、ヒューはとても嬉しそうにはにかんで、僕もカトリーナがずっと大好きだよ。て言ってくれた。



 そして唇に食いついて、ヒューのママが部屋に入ってくるまで離してくれなかった。






あとがき

パパ「娘の恋バナ聞くのつらい」
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