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カトリーナの旅立ち 2

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「それはおかしいよカトリーナ。たしかに赤ちゃんはハイハイはする。でもあれは足じゃない、手だよ」

「そ、そうなんだけどー、そういうなぞなぞなんだよぉ」


「だからその問題の本当の答えはヴァンランディヤーンだよ」


 ハイハイの赤ちゃん(4本足)、おとな(2本足)、杖をついた老人(3本足)、人間の一生を表しているという加藤里菜の世界では割とポピュラーあの問題の意味を教えてもパパは納得しなかった。


 なぞなぞの答えがヴァンランディヤーンになってしまった頃、教皇様からのお迎えの馬車がカトリーナたちの前に着いた。


 遠目から思ってたけど、馬車の周りに人多くない?
 あと馬車、きらきらしてる? すごい豪華じゃない……?



 薄青のジャケットを着た騎士様が5人も馬車を囲んでいた。
 どの騎士もやけに顔がいい。

 その他に従者と思しきこれまた顔のいい少年からおじさんまで5人ほど付き従っている。
 その中から、お手紙を持ってきた騎士様が歩み出た。

 ハルト……ば、ば、ヴァンランディヤーンじゃなく……


「教会騎士団のハルト・バニシュです。お久しぶりですカトリーナ様、お迎えにあがりました」

 ハルト・バニシュ様! そうそう!

 パパに向かって名を名乗り、胸に手を当て深く礼をした。
 ハルト様は他の騎士よりジャケットの装飾が豪華だ。
 偉い騎士様なのかもしれない。


「お久しぶりです。学校があるのでさっと行って素早く帰りたいです。よろしくおねがいします」



 他の騎士が続けて名乗り出しそうなのでカトリーナはさっさと馬車に乗ろうとした。
 ハルト様が手を差し伸べるのを気づかぬふりでパパがカトリーナを片手に抱えた。

「カトリーナ、段差が危ないよ。騎士様、トランクも中に乗せていいのかな?」

「もちろんでございます、……扉はわたくしが。どうぞユール様」

 ハルト様が馬車の扉を押さえてくれ、カトリーナとトランクを抱えたパパが乗り込む。

 優しく座席に座らせてくれ、トランクは座席の下に押し込んだ。
 カトリーナの荷物は◯次元ポシェット、パパはジャケットに作った◯次元ポケットに入れているので実はトランクは見せかけなのだ。
 適当な服くらいしか入っていない。


「……ではすぐにでも出発いたします。首都までわたくしが責任を持ちましてお送りいたします」


 ハルト様が馬車の扉をガチャリと閉めた。



「馬車って初めて乗った。ふかふかだね」

「ずいぶんいい馬車だよ。あの騎士たちの見た目といい、セルペンス夫人の言うとおりかもしれないね……」


 パパとひそひそ話していると、馬車がゆっくりと動きだし……

 わぁぁぁぁ! と歓声に包まれた。

「えっなに?!」

「見送りかな?わっすごっ」

 パパがカーテンを開け後ろをうかがうと、驚きの声を上げた。
 門の上にびっしりと人がいたらしい。


「女神カトリーナ様! お気をつけて!」

「女神カトリーナ様! お早いお帰りを!」

「女神カトリーナ様! 次は私の店にも来てください!」

「女神カトリーナ様! バンザイ!」


 わぁぁぁぁ!

 歓声の中、女神カトリーナ様って単語が何度も聞こえた。
 聞き間違えじゃないよね?

「パパ、女神ってなに? わたし、神の愛し子じゃなかったの?」

「さぁ……明らかに言ってるね、女神って……」


 困惑したまま、カトリーナたちを乗せた馬車は町を出た。

 次に立ち寄った町でも女神カトリーナ様コールを受け、困惑することになるのを一行はまだ知らない。


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