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カトリーナの幸せ 1

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 カトリーナはベッドに横になり、ぐーんと伸びた。
 疲れた。


 パパも隣のベッドにばたりと倒れる。

「パパちょっと……眠いな……」

 パパはもううとうとしはじめた。



 あのあと、クリスティアはアルトゥール様に泣いて縋ろうとしたがおじさん神官に止められ。
 騒ぎを聞きつけて他の神官や騎士も集まってきたので、彼らにクリスティアを任せてカトリーナは部屋へ戻ることになった。


 アルトゥール様のエスコートと、ハーラン先生のお供で。
 アルトゥール様がいるならハーラン先生はいいです、て言ったけどついて行くときかないので好きにしてもらった。
 言い合うのが面倒だったのだ。


 そしてパパと軽食をいただいて、ベッドにごろんした。
 パパはアルトゥール様との面会の時からずっと気を張っていたから、疲れたのだろう。


(パパお疲れ様。『げんきになあれ』)

 眠るパパの頬にそっとキスをして、そのままパパのベッドに横になり目を閉じた。




 ふ、と目を覚ますとパパの顔が目の前にあった。
 まだよく寝ている。


 そっとベッドを降りて窓の外を見る。
 庭園の日時計が見えるのだ。
 市民学校は終わっている時間だった。


 もうヒューに会いに行っちゃお!
 カトリーナはベッドに置いてあった◯次元ポシェットをかけ、中から便箋とペンを取り出し、『ヒューのとこにいってくるね!』と書いて、パパのてのひらに載せた。

 これで大丈夫!


(『おでかけ』ヒューのとこ!)






「わっ! カトリーナ!」

「ひゃあ」

 ヒューはお風呂上がりだった。
 廊下を歩いて部屋に戻るところだったのだろう、目の前に現れたカトリーナにぶつかりそうになり、驚きよろけたカトリーナをぎゅっと抱きとめてくれた。

「ありがとうヒュー! お風呂入ってたの?早いね」

 カトリーナも抱きしめ返す。
 ヒュー、せっけんのいい匂い!


「今日は清掃活動だったんだ。髪が汚れたからお風呂入っちゃったよ」

「清掃活動かー、お疲れ様!」

 市民学校の生徒が町中のゴミを拾ったり草を刈ったり、掃除して回る活動だ。
 ヒューのまだ湿っている白銀の髪を、カトリーナは優しく撫でた。

(『きれいになあれ』)


 とたんに髪がさらりと乾く。

「カトリーナなにかした?ありがとう」


 清めは髪を乾かす時もとっても便利。
 使わないなんてもったいないのになぁ。

 目を丸くしてふるふる髪を揺らすヒューと、手を繋いでお部屋に入った。


「カトリーナ、今日、すごくかわいいね」

 ヒューがまじまじとカトリーナの装いを見て言った。

「ほんとう? こどもっぽくない? 特に髪……」


 カトリーナはもじもじとツインテールをいじった。
 ハーラン先生の技術なのか、お昼寝しても崩れていない。

「ぜんぜん! 髪結ぶのもとっても似合うよ! その服すごいね、絵本のお姫様みたいだよ」


 繊細なレースとフリルがたっぷりあしらわれた白いワンピースは、たしかにお姫様みたいだ。


「ハ……んん! 先生が仕立てたんだって。上手だよね」

 名前は呼ばない! 部屋に来られたらパパが起きちゃう!


「ハーラン先生が? 世話係って、服まで縫うんだ……嫌なこと言われてない?」

「大丈夫だよ! すごく優しいよ!」

 ちょっと変な人になってるけど!


「そんなことより! ヒュー。カトリーナ姫はくちづけを所望する、ですわ!」


 気取って言ったけど姫っぽい言葉、なんか変だ!
 頬を染めて、ちょっと偉そうな表情を作ってヒューを見上げた。


「喜んで、僕のカトリーナ姫」

 ヒューはカトリーナの手を取り、腰を屈め、うやうやしく指先にくちびるを寄せた。


「ふふっ! 私の王子様」


 その芝居がかった仕草も様になる。
 輝く白銀の髪があれば、冠だっていらない。

 私の王子様はとってもすてき!





 アルトゥール様に手を取られても、不愉快じゃなかったな。



 カトリーナの脳裏にふとアルトゥール様の微笑みがよぎったが、くちびるにふれたヒューのくちびるに夢中になり、霧散した。
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