【R18】蜜を求める牢獄

ロマネスコ葵

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第一章 出会いと別れ

16 入場許可証なんて……。

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 や、や、やってしまっ、た……!!

 ベルがその兵士の首を片手で掴み、私から引き離す。握力が強いのか、腕が震えている。兵士も抵抗しようとベルの手を引っ掻いたりするがビクともしない。

「これ以上は営業妨害だ。お前らはここの牢務官だな? ルーツ兵長とやらに問出せばいいか? その鎧にお前らの名が紋章として記されてる事も分かってる。今すぐにでも報告してやっていいんだぞ」

 脅しにかかると、首を絞められた兵士が地面を汚していく。――失禁だった。

「ひゃっ……、し、失禁……??」

 嘘でしょう……そんなに恐れる事なの??
 もう一人の兵士は足を震わせながら「申し訳ありません!」と深々と謝罪した後、失禁中の男の前で慌て始める。
 失禁する程、ルーツ兵長は彼らにとって怖いものなのか。
 ベルは失禁した男の首を投げ捨てるように押し離す。彼が再び起き上がることは無かった。

「失せろ汚らわしい。街を汚すな」

 ベルがそう吐き捨てると、私達は早々に彼らを横切って路地裏から出た……。
 ゔ……、約束したばっかりなのに。大騒ぎにしちゃ駄目だと言ったのに。

「もうっ……やり過ぎです」
「え……殺ってはいないだろ?」
「そ、そういう問題じゃないです!」

 もっと平和に、穏便に済ませられたらいいのになぁ。騒ぎになるとドキドキしちゃう。でも、ベルは頑張って闇商人を演じてくれたよね……しょうがない、これはしょうがない……と、私は私で甘い考えに陥る。

 そういえば脅し文句でルーツ兵長が出てくるなんて、思いもしなかった。
 
「――ルーツ兵長」

 はっ。
 思わず声に。

「弟だ」
「あっ……」

 隠すことも無く即答するベル。存じております――とは言えず。

「盗賊団が崩壊する手前で、ルーツは俺に見切りをつけて自らの道を進んだんだ」
「そんな、兄を置いて、そんな事をするなんて。兄弟なら協力し合う仲であるべきなんじゃ」
「……俺もそうなりたかったさ」

 苦笑され、この会話は終わった。
 ベルはそう望んでいるのに。
 彼らが協力し合っていればベルは牢獄に閉じ込まれる事もなく済んだんじゃ。二人とも、もっともっと強い存在になれたかもしれないのに。でも……ルーツの第一印象を見る限りだと、そう簡単にはいかないのかも。――あっ!
 凄い風!
 
「――飛空船だ。暫く見ない間に、戦争でも始まってるのか」

 立ち止まり、私の肩を抱き寄せ、飛ばされないように守ってくれる。
 飛空船。船が空を飛んでいる。

「ルーツは、どうするんだろう……」

 ベルは寂しげに溜息をつきながら、そう呟いた。船が私達を超えると、ぱたりと風が治まる。
 周りがざわめき始める。戦争か? また税金を無駄に使ってる等とネガティブな発言が飛び交った。
 ざわめきを聞きながらも、黙々と中級の門前に辿り着く。またしても兵士二人が警備をしていた。

「入場許可証を提示してくださ」
「あそこで女が裸になって襲われてる。助けてやってくれないか?」

 兵士の言葉を遮りベルは早速、闇商人を演じる。

「なっ……」

 兵士二人はお互いの顔を見合わせ、一人の兵士のみが女の方へと駆け足で向かった。恐る恐る振り向くと、下級の男にまじまじと見られていたはずの女がベタベタと男に触られていたのだ。
 ああ、あの女は私達に服を盗まれたから、きっと……。

「見なくていい」

 小声でそっと告げて、私の目の前に手を被せるベル。
 下級なら見慣れた光景だけど、気を遣ってくれてる。

「……さぁ、入場許可証を見せなさい!」
「一人じゃあ助けられないだろう。君も助けに行ったほうがいいんじゃないか?」
「なっ……ここを空けたら誰かが侵入するだろ――わっ! あ、あれ? な、なんでだ?」

 兵士が人形のように操られて、勝手に女の方へと進んで行った。
 魔力、使ってる……。ルーツは指を使って操っているように見えたけど、ベルは指を使っていない。何か違うのか。
 
「行こう」

 門を、音が出ないようにそっと丁寧に開けて、入った後には同じくゆっくり閉めた。ガシャン、と音が鳴ったところで、閉まった音だと認識したのかベルは門から手を離した。
 
「ベルさん、流石ですっ! やっと、何も騒ぎなく会話で解決してくれた」
「……俺だってそんぐらいできる」

 ベルは不貞腐れた表情をしながらも、頬は赤くなっていた。それを見た私はクスリと笑ってしまう。

「ふふ。そうでしたっけ」
「ばーか。頑張って商人になりきってんだから。あまりイジメないでくれよ」

 私の事は散々イジメるくせに。――と言うのは、やめておこう。
 私達は漸く歩みを進めた。

 ここが中級土地。暗くても明るい灯りがいくつかあって、地面もしっかりとコンクリートで塗られているし、ドミノのように建物が並んでいた。いくつかの屋台があり、周りの人々も楽しそうにしているのが分かる。

「わぁ……」
「なんか食うか?」
「いえ、そんな。見ているだけでお腹いっぱいになりそうです」

 下級土地とは大違い。こんなに素敵な街が近くにあったんだ。
 何人かの兵士も居るけれど私達の事なんて目にも留まらない。人混みだからかな。

「朝から食べてないんじゃねえの? いいよ。石化魔鳥コカトリスの鳥焼きくらいなら買えそうだ」
「ふえっ!? な、なんだか名前だけ聞くと美味しくなさそうですが」
「何を言う! これがすごい上手いんだ」

 いつの間にか手元に大量の銀貨を持っているベル。一瞬ぎょっとしたけれど、流石、元盗賊団というべきなのかな。私が知らないうちに、どこで盗んできたんだろう。
 
「いらっしゃい」
「二つください」

 ベルは、タレがポタポタと溢れている鳥焼きに指差して商人に申し出た。

「あいよ。――ちなみに、そいつは売り物?」
「……いや?」
「残念。売り物だったら、直ぐに店閉めて今ある在庫と交換してやろうと思ったのに」

 商人は渋々とした表情でコカトリスの鳥焼きを二本、銀貨二枚と交換してくれた。
 私達はその場から去ると、ベルはイライラしながら、

「お前モテるなぁ」

 と、呟く。ほらよ、と鳥焼きを一本渡してくれた。
 売り物って、またしても私の事だったんだ。何故だろう。今までこんな事一度たりとも無かったのに。

「下級であろうと、性奴隷と認識されると価値が上がるのかもしれないです」

 自分の考えを告げた後、鳥焼きを一つ、あむっと口いっぱいに頬張る。すごい弾力! 噛み締めた途端に油がたっぷり。甘辛いタレとマッチしている気がする。

「ねえ! ベルさん。これ、すっごく美味し――」
「きゃっ」

 急に、真っ黒なドレスを着た一人の女性がベルの胸に飛び込んできた。
 飛び込んできたと同時に、鳥焼きが一つ床へ落ちる。
 あっ……! 私の居場所に……。

「ご、ごめんなさい」

 ふにゅ、ふにゅ、と自分の胸をベルに押し付けて、上目遣いで謝っている。
 暫くすると、彼女は私達を横切って立ち去ってしまった。

「なっ――あれは?? お誘い、みたいな? む……ベルさんもモテてるじゃないですか」

 何なの、あの人は……。するとベルがくしゃくしゃになった紙を持っていて、そっと覗き込むと、そこには拙い字で"私を助けてください"と書かれていた。

「なんですか、これは……?? ちょっと! 真面目に聞いてます。ニヤニヤしないでください」
「してない! あれはただの客引きだから気にするなって。自分を誰かに買ってもらおうとしてんだよ」

 奴隷が自分を買ってもらう為の作戦……?
 ベルはその紙を捨てて、最後の鳥焼きを口に含んだ。肉はともかく、女の子に対してなんとも思ってなさそうな表情だけど。私はちょっと気になっている……。
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