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運命の秋
新しい日々・11
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暫くは、三人の近況報告が中心となった。シンシアは開発中の創作料理のこと、サイードは独自に改造した望遠鏡のことを熱心に話した。シンシアも酒の勢いもあってか驚くほど饒舌だったし、サイード老人に至っては、その望遠鏡の性能たるや、国内に並ぶものなしと、文字通り口角泡を飛ばしてまくし立てた。
コーはと言えば、アルバンの新作ジョークのことを中心に話した。集会所で出来事を話すとなると、あまり面白い話はないし、率直に言って不快な話の方が多い。そんな話をすると、シンシアが心配するからあまり話さないようにしているのだ。ちなみに、アルバンの新作は、サイードによって駄作と両断された。
それぞれの近況報告が終わり、場がやや落ち着いた後、次の話題を持ち出したのはシンシアだった。彼女が、背負ってきたリュックサックから慎重な手つきで取り出したのは、小さな包み。机の上に置いた小包を見つめるその顔には、僅かではあったが不安の色が覗えた。
「この小包の事なんだけどね」
そう言った彼女は、昨晩遅くに宿を訪れた制服姿の小柄な男と、その男から託された小包の話をした。その男は、返事は日を改めてと言い残して立ち去り、名は名乗らなかったようだ。シンシアはそこで話を止め、二人を見回した。
「えっと、これ、どう思う?」
「どう思うって、なんだ」
「つまり、この包みをどうしたらいいかしら?」
「おかしなことを聞くな、開けたきゃ開けろ」
やれやれまたか、と言わんばかりの顔でサイードが答えた。シンシアに苦手なことがあるとするなら、恐らく決断するという事なのだろう。仕事などは卒無くこなすが、いざ個人のことになると、なかなか判断できない部分がある。
「開けたいとは思わないけど、開けないわけにもいかない気がして」
シンシアが困り顔で言う。コーには、シンシアの話に出てきた自治団の制服に身を包んだ小柄な男に心当たりがあった。当然、この小包も危険なものではないだろう。ここでコーの推測を打ち明けることも出来る。
ただ、そうすればコーが話の主導権を取ることになってしまう。その前に、もう少しだけこの二人の掛け合いを見ていたい。身勝手とは思いながら、コーは少しだけ口を噤んでいることにした。
「自治団の男から貰ったなら、おかしなことは無いだろう」
「身分証は確認しなかったの」
「自治団員を騙れば、即お縄だぞ」
「そうだよね」
「そいつは返事って言ったんだろう。手紙じゃないのか?」
「そうかもしれないけれど、心当たりがないわ」
「そりゃお前、うら若き乙女が貰う手紙と言えば、恋文に決まってる」
「そうなの?分からないわ」
サイードは、退屈そうにあくびをした後、ニヤリと笑っていった。
「不安なら、丁度良い生贄がいるじゃないか」
「どういうこと?」
「決まってるだろう。コーに確認させればいい。お前もそのつもりなんだろう?」
そんなつもりはないと抗議を始めたシンシアを、サイードが混ぜっ返し、シンシアがまた反論する。久々に見る、二人のじゃれ合い。このまま眺めていたい気もしたが、これ以上黙っているのは意地悪が過ぎる気がして、コーは口を開いた。
「心配ないよ、シンシア」
コーがそう言うと、二人はそこでじゃれ合いを止めた。シンシアが、空になっていたサイードのグラスに新しい酒を注ぎ、休戦協定締結。コーの見立てでは、7対3でサイードの勝利。いつもと比べれば、シンシアは善戦したと言える。
「コー、何か分かりそう?」
「分かるというか、知っているというか」
コーがモゴモゴ言うと、シンシアは小首を傾げてコーを見た。意味が分からなかったのだろう。そこでコーは、昨日の夜に集会所で聞いた事の顛末を、少しばかり丁寧な形に翻訳しながら説明した。シンシアが、シルバー・シャークことシャールから、独立記念祭のパレード同伴者として誘われているのだ、と。
「なんだ、事情を知ってた割には言うのが遅いじゃないか」
サイードは皮肉っぽい口調でそう言った後、シンシアが注いだばかりのグラスを一気に呷り、飲み干した。この老人は、どれだけ飲んでも全く変化を見せない。コーは、丸眼鏡の奥の冷静な瞳を見返しながら、苦しい言い訳をした。
「ごめんよ、言うタイミングを探っていたんだけど」
「まあいい。儂の見立て通りだな、おい?」
サイードは、そう言ってシンシアの肩を叩いた。シンシアも小さく頷いた。コーがすぐに事情を説明しなかったことを不快に思っている様子はない。
「そうなのかも」
「シャールってのは誰だ?」
「ゴルドー隊の副長だったかしら。結構人気があるみたい」
「ほう、お前も貴族の仲間入りか?」
「もう、やめてよ」
シンシアは、ゴルドー隊の副長たるシャールからの突然の申し出に戸惑った様子こそ見せたものの、小包を受け取った理由が分かって安心したらしい。今この場所で、小包の中身で検めたいと言い出した。
シンシアの言葉を聞いたサイードは、目をぐるりと回す仕草を見せた。全く、世話のかかる。隣のシンシアには見えていないだろうが、サイード老人の表情は明らかにそう言っていた。だが、どこか嬉しそうでもある。
「一体、何が入っているのかしら?」
机の上の小包を右手の中指でノックするように叩きながら、シンシアが誰ともなしに呟いた。小包からは、乾いた音が帰ってくる。その音から推測するに、何か硬い物が入っているように思われた。
また、机に置かれた小包の形が美しく整っていることから見て、包みの中には長方形型の箱か何かが入っているような気がする。独立記念日のパレードは注目行事だ。そこにシンシアを正式に招待するなら、形式的に整った何かが入っているはずだ。
「うーん、木箱か何かかな。その中に、招待状があるんじゃないかな」
「そうかもしれない。サイードは、どう思う?」
シンシアがそう問いかけたが、サイードは何も答えなかった。軽く肩をすくめただけだ。ただし、サイードは、丸眼鏡の奥で目を細めて、机の上の包みを眺めている。興味は、あるようだ。
一方のシンシアは、興味深そうな眼差しで小包みを見つめている。シンシアは、どう思っているんだろうか?実は、意外に?コーは、心の隅で何かが身をもたげるのを感じたが、軽く首を振ってすぐに打ち消した。息を吸ってから口を開く。
「それじゃあ、開けてみようか?」
コーはと言えば、アルバンの新作ジョークのことを中心に話した。集会所で出来事を話すとなると、あまり面白い話はないし、率直に言って不快な話の方が多い。そんな話をすると、シンシアが心配するからあまり話さないようにしているのだ。ちなみに、アルバンの新作は、サイードによって駄作と両断された。
それぞれの近況報告が終わり、場がやや落ち着いた後、次の話題を持ち出したのはシンシアだった。彼女が、背負ってきたリュックサックから慎重な手つきで取り出したのは、小さな包み。机の上に置いた小包を見つめるその顔には、僅かではあったが不安の色が覗えた。
「この小包の事なんだけどね」
そう言った彼女は、昨晩遅くに宿を訪れた制服姿の小柄な男と、その男から託された小包の話をした。その男は、返事は日を改めてと言い残して立ち去り、名は名乗らなかったようだ。シンシアはそこで話を止め、二人を見回した。
「えっと、これ、どう思う?」
「どう思うって、なんだ」
「つまり、この包みをどうしたらいいかしら?」
「おかしなことを聞くな、開けたきゃ開けろ」
やれやれまたか、と言わんばかりの顔でサイードが答えた。シンシアに苦手なことがあるとするなら、恐らく決断するという事なのだろう。仕事などは卒無くこなすが、いざ個人のことになると、なかなか判断できない部分がある。
「開けたいとは思わないけど、開けないわけにもいかない気がして」
シンシアが困り顔で言う。コーには、シンシアの話に出てきた自治団の制服に身を包んだ小柄な男に心当たりがあった。当然、この小包も危険なものではないだろう。ここでコーの推測を打ち明けることも出来る。
ただ、そうすればコーが話の主導権を取ることになってしまう。その前に、もう少しだけこの二人の掛け合いを見ていたい。身勝手とは思いながら、コーは少しだけ口を噤んでいることにした。
「自治団の男から貰ったなら、おかしなことは無いだろう」
「身分証は確認しなかったの」
「自治団員を騙れば、即お縄だぞ」
「そうだよね」
「そいつは返事って言ったんだろう。手紙じゃないのか?」
「そうかもしれないけれど、心当たりがないわ」
「そりゃお前、うら若き乙女が貰う手紙と言えば、恋文に決まってる」
「そうなの?分からないわ」
サイードは、退屈そうにあくびをした後、ニヤリと笑っていった。
「不安なら、丁度良い生贄がいるじゃないか」
「どういうこと?」
「決まってるだろう。コーに確認させればいい。お前もそのつもりなんだろう?」
そんなつもりはないと抗議を始めたシンシアを、サイードが混ぜっ返し、シンシアがまた反論する。久々に見る、二人のじゃれ合い。このまま眺めていたい気もしたが、これ以上黙っているのは意地悪が過ぎる気がして、コーは口を開いた。
「心配ないよ、シンシア」
コーがそう言うと、二人はそこでじゃれ合いを止めた。シンシアが、空になっていたサイードのグラスに新しい酒を注ぎ、休戦協定締結。コーの見立てでは、7対3でサイードの勝利。いつもと比べれば、シンシアは善戦したと言える。
「コー、何か分かりそう?」
「分かるというか、知っているというか」
コーがモゴモゴ言うと、シンシアは小首を傾げてコーを見た。意味が分からなかったのだろう。そこでコーは、昨日の夜に集会所で聞いた事の顛末を、少しばかり丁寧な形に翻訳しながら説明した。シンシアが、シルバー・シャークことシャールから、独立記念祭のパレード同伴者として誘われているのだ、と。
「なんだ、事情を知ってた割には言うのが遅いじゃないか」
サイードは皮肉っぽい口調でそう言った後、シンシアが注いだばかりのグラスを一気に呷り、飲み干した。この老人は、どれだけ飲んでも全く変化を見せない。コーは、丸眼鏡の奥の冷静な瞳を見返しながら、苦しい言い訳をした。
「ごめんよ、言うタイミングを探っていたんだけど」
「まあいい。儂の見立て通りだな、おい?」
サイードは、そう言ってシンシアの肩を叩いた。シンシアも小さく頷いた。コーがすぐに事情を説明しなかったことを不快に思っている様子はない。
「そうなのかも」
「シャールってのは誰だ?」
「ゴルドー隊の副長だったかしら。結構人気があるみたい」
「ほう、お前も貴族の仲間入りか?」
「もう、やめてよ」
シンシアは、ゴルドー隊の副長たるシャールからの突然の申し出に戸惑った様子こそ見せたものの、小包を受け取った理由が分かって安心したらしい。今この場所で、小包の中身で検めたいと言い出した。
シンシアの言葉を聞いたサイードは、目をぐるりと回す仕草を見せた。全く、世話のかかる。隣のシンシアには見えていないだろうが、サイード老人の表情は明らかにそう言っていた。だが、どこか嬉しそうでもある。
「一体、何が入っているのかしら?」
机の上の小包を右手の中指でノックするように叩きながら、シンシアが誰ともなしに呟いた。小包からは、乾いた音が帰ってくる。その音から推測するに、何か硬い物が入っているように思われた。
また、机に置かれた小包の形が美しく整っていることから見て、包みの中には長方形型の箱か何かが入っているような気がする。独立記念日のパレードは注目行事だ。そこにシンシアを正式に招待するなら、形式的に整った何かが入っているはずだ。
「うーん、木箱か何かかな。その中に、招待状があるんじゃないかな」
「そうかもしれない。サイードは、どう思う?」
シンシアがそう問いかけたが、サイードは何も答えなかった。軽く肩をすくめただけだ。ただし、サイードは、丸眼鏡の奥で目を細めて、机の上の包みを眺めている。興味は、あるようだ。
一方のシンシアは、興味深そうな眼差しで小包みを見つめている。シンシアは、どう思っているんだろうか?実は、意外に?コーは、心の隅で何かが身をもたげるのを感じたが、軽く首を振ってすぐに打ち消した。息を吸ってから口を開く。
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