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ラグエリア大陸編~生動の章~

第12話『高橋ファミリー』

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 早速、家族に自宅内を案内する。

 最初にこの豪邸を見た家族の表情は呆然としていた。
 まあ、気持ちは分からんでもない。

 さらに荷物をアイテムボックスに入れるとまた驚きに呆然とする始末。

「なあ、アカリ」
「何でしょう?」
「家族には神の恩恵ギフトは与えられてないのか?」
「そんなことは無いと思います。ただ、まだ自覚がないだけでしょう」

 1階、2階と案内していく。
 最初こそは驚きっぱなしだった家族もいくらか慣れたのか部屋の造りを入念にチェックし始めだした。

 じいちゃん、ばあちゃんは出来れば1階に部屋が欲しいということだったので、俺は書斎を2人の部屋に改装して、書斎は創作室の横に移した。

 妹とオヤジたちは2階の一室を自分たちの部屋に決め、荷物を整理し始める。
 1階に降りると、じいちゃんとばあちゃんはリビングから庭を眺めていた。

「中々の眺めだろう」
「どこかの高級旅館の庭を見ているみたいじゃのう」
「ほんに、ほんに。この庭を毎日散歩できるかと思うと嬉しくなるねぇ」
「お茶、入りました。どうぞです」
「ありがとう、アカリ」
「妖精さんにお茶を入れてもらうとは別世界に来たと実感できるのう」
「ホホホ……では、ゆっくりいただきましょうかねぇ」

 ソファで煎茶と言うのもなんだが、お茶請けにには俺の手作りの饅頭を添える。

「ほぅ。この饅頭中々の味じゃな」
「お茶も良い渋みが出てるのじゃ」
「喜んでもらえてなによりだよ」

 暫くの間、じいちゃんたちとお茶を楽しんでいると祢音たちが下りてきた。

「片づけは終わったのか?」
「一応ね」
「それにしても、一室、一室の広さがなぁ……。残っている部屋はどうするんだ?」
「気に入った仲間が出来たら3階の部屋を拠点にしようとかって考えてたんだけどね」
「それがこちらの世界の常識なのかしら?」
「まあ、村の外にはモンスターがいるくらいだからね」
「まるでゲームの世界だな」
「まあ、現実はゲームよりも非情だけどね。それでもこの辺りは比較的弱いモンスターしか出ないのが救いだよ」

 それでも強力なモンスターが全くいないわけではない。
 森の奥地になればなるほど強力なモンスターのテリトリーになっている。
 そして強いモンスターほど自らの領域を大切にする。

 とは言ってもたまにだが例外もある。
 それが『魔物暴走モンスタースタンピード』である。
 モンスターは魔力を許容以上吸収すると暴走する。
 それが魔獣になると弱いモンスターを巻き込んで暴走することになる。
 こうなると手が付けられない。
 魔獣を倒さない限り追われている魔物は走るのを止めないのだ。

 まあ、そうは言ってもモンスタースタンピードなの早々起きることは無いのだが……。

「じゃあ、昼食を済ませたら村の中を案内するよ」
「お前が作るのか?」
「母さんと祢音も手伝ってくれ」
「あいよ」
「何にするの?」
「主食のご飯は長けてるから、後はおかずだけだな」
「じゃあ、私は煮物を作るよ」
「お兄ちゃん、魚はある?」
「あるぞ」
「じゃあ、焼き魚でも作るか」
「じゃあ、俺は小鉢でも作るわ」

 こっちの世界の野菜は比較的地球と変わらない野菜が多いが、視覚的には色合いが全く違うのでちょっとした違和感が拭えない。
 そのうえ、魚も何というか狂暴な顔しているので一瞬、調理するのに躊躇してしまう。

 俺は魔道焜炉の使い方を教えながらり料理を作っていく。
 ちなみに俺はアカリとともに酢の物を作った。

「出来たわよー」
「ほう。美味そうだな」
「彩が良いわねぇ」
「美味そうじゃのう」

 鶏肉の入った煮物、湖で獲ったワイルドトラウトの塩焼きに酢の物が置かれたテーブルを囲う。
 久しぶりの母の味を堪能しつつ、祢音の作った塩焼きに舌鼓をうつ。
 サッパリ酢の物が口内をリセットしてくれる。
 うん。家庭料理は落ち着くなぁ。

 昼食を終え、食後の休憩をした後でまずはリュナに会いに行く。
 まあ、会いに行くまでの間に数人の村人にも挨拶したが……。

「リュナ。家族を会わせに来たぞ」
「はいはーい。初めまして、この村の村長代理をしていますリュナです。よろしくお願いいたしますね」
「私は高橋大輔。こちらが妻の真希、娘の祢音に父、信幸と母、華恵です」
「こんな何もない村に来ていただき光栄です。それで皆さんはどのようなことをして暮らしていくおつもりですか?」
「農業を中心に家畜などの世話をしたいと考えております」
「分かりました。でしたら、村の作業も手伝っていただきたいと考えてますが……」
「頑張らせていただきます」
「とりあえず村に来たばかりですし、数日は村に慣れていただいてから作業に加わっていただこうと思います」
「分かりました。お言葉に甘えさせていただきます」

 話を終え、俺はある提案をすることにした。

「リュナ。村人全員に声をかけてくれるか?今日は家族が村の住人になった記念ってことで宴会を開こうと思うんだが……」
「それは良い考えだけど、食材はどうするの?」
「それは大丈夫だ。ただ、出来れば村人全員で集まれる場所を提供してほしい」
「そうなると、海岸沿いが良いかも」
「あと、手伝ってもらえる人員がいてくれると助かる」
「分かった。女性たちに声をかけておくわ」
「よろしく頼むよ。じゃあ、さっそく海岸沿いに行って色々と用意を始めるよ」

 家族を連れて村を見ながら港に向かう。
 港に着くと海岸に降りて砂地にテーブルやいすを設置していく。
 暑さ対策に簡易テントを設置する。
 ビーチチェアを置いてじいちゃんとばあちゃんに休んでもらい、バーベキューコンロを設置する。
 炭火の用意は親父に任せ、野菜のカットや肉の味付けなどはオフクロと祢音に任せる。
 俺は俺で焚火を起こす。
 こっちは飯盒とスープ鍋を作るためだ。

「なんか、キャンプでの食事を思い出すなぁ」
「そう言えばあの時もバーベキューだった」
「まあ、食材はまったくの別物だがなぁ」
「それは言っちゃダメな奴だからな」
「……そうだな」

 魔物の肉だの見慣れない野菜だのを使って料理するわけだから躊躇するのも分かる。
 だが、こればかりは慣れてもらうしかない。

「色合いが違うだけで味が同じと言うのも面白いものね」
「と言うか、昼食の時も思ったけど…全体的に野菜の味が美味しくない?」
「こっちじゃ、農薬なんてないからじゃろう」
「これが本来の野菜の味なのよ、祢音ちゃん」
「おじいちゃんやおばあちゃんには分かるんだね」
「昔はこれが当たり前じゃったからのう」
「大量に食物を作るために農薬を作ったのは間違いじゃな」

 即席のサラダを摘まみながら母さんたちの会話。
 
 そういや、こっちの食材が普通に美味いと思ったっけ。
 パンも硬かったが味は満足できたし。
 料理も薄味だったが美味しくないとは思わなかった。

 日本にいた時はちゃんと考えもしなかったが、農薬が人体に良くないというのは本当だということだろう。
 よくよく思い返せば調味料の味も日本にいた時より美味しく感じたのも単なる懐かしさではなかったということだろう。

「炭は良い感じだぞ?」
「オヤジ、これ焼肉だ。焼いてくれ」
「おう」

 漬け込みしておいた肉を渡す。
 あとはブロック肉も出すか……。

「母さん、これを頼む。祢音はこっちで豚汁を手伝ってくれ」
「任せなさい」
「OK」

 料理はみんなに任せ、俺は俺で茶碗や皿を取りに自宅に戻る。
 帰る途中、海岸に向かって歩く村人たちとすれ違う。
 こりゃ、早くした方がいいな。

 俺は人目を避けて、ゲートで自宅に戻ると食器類をアイテムボックスに入れてゲートで海岸に戻った。
 すでに海岸には大勢の村人が集まりだしていた。
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