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箱買い
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「ありがとうございました~」
深夜、地方都市の某大手チェーンのコンビニにて。
大学での学業の傍ら、僕はここでバイトをしている。深夜のバイトはサーカディアンリズムが狂うのではないかと忌避されがちだが、時給が良いので続けている。
時刻は深夜1時。終電が終わり、まばらだった客足もさらに落ち着いたので、僕は商品棚の補充を始めた。
(…そういえば、今度の長期休暇はどこ行こうかな…。東京の雑貨屋巡りもいいな~)
聞き飽きた店内放送を耳にながら、夏の予定をぼんやりと考えていると、
ガラガラ~。ピポピポ~ン。
自動ドアが開き、来客を知らせる音が店内に響く。
「いらっしゃいませ~」
おそらく陳列棚を数分間物色してからレジに来ると思ったので、しばらく作業を続けていると、
「すいませ~ん」
レジのほうから男の声が聞こえてきた。
(えっ、もう⁉︎)
急いでお客さんのもとへ向かうと、スーツ姿の男性が缶コーヒーをレジの上に置いて待っていた。駆け寄ってきた僕に気付くと、
「店員さん、これって箱ごと買えますか?」
「…箱?」
男性が尋ねてきたのは、レジの傍に置いてある一口サイズの煉羊羹だった。
(え…、それを⁉︎)
「ちょ、ちょっと確認して来ますね!」
僕はレジを離れて、急いで在庫を見に行く。
(珍しいお客さんだなぁ…。1個100円もしないとはいえ、深夜のコンビニで“あれ”の箱買いをご所望とは……)
宅飲みで足りなくなったお酒やお菓子を深夜にたくさん買いにくるお客さんならよく見るけど、煉羊羹だけを爆買いされる方は初めてだ。
「あ、あった」
目当ての商品の在庫を見つけた僕は、すぐにレジで待っている男性のもとへと戻った。
「お待たせしました。こちらの商品でよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
男性は黒い布マスクをつけていたが、目の様子からして、かなり喜んでいることが伺えられた。
「袋はどうしますか?」
「あ、大丈夫です。仕事用の鞄に入れていくので」
見ると、彼の手元にはレザー製の黒い鞄があった。
(へ~、カッコいい鞄だな。なんの仕事だろう?)
男性の素性が気になりながらも、僕は会計の作業を進めた。
「…では、こちらお釣りとなります」
「はい、どうも」
お釣りを受け取ると、男性は缶コーヒーと箱買いした煉羊羹を鞄の中に詰め込んでいく。
「あ、そうだ」
何かを思い出したのだろうか。購入した物とは異なる物を鞄から出してきた。
「これ、よかったらどうぞ。勤務先のイメージキャラクターを模したストラップです。サンプルの1つですが、なかにアロマ関係の匂い玉が入っています」
男性が取り出したのは、三毛猫を彷彿とさせる10cmほどのストラップであった。それを彼から手渡されると、心地よいほのかな香りが漂ってきた。
(良い匂い……)
「羊羹がなくなったら、また来ますね」
そう言って、彼は店を後にした。
後日、もともと猫が好きだった僕は、彼から貰った三毛猫のストラップを普段使っている自分の鞄に付けてみることにした。友人たちからの評判は良い。そして、この一件をバイト先の同僚たちに話したところ、大半の者が彼の来店を強く願うのであった。
深夜、地方都市の某大手チェーンのコンビニにて。
大学での学業の傍ら、僕はここでバイトをしている。深夜のバイトはサーカディアンリズムが狂うのではないかと忌避されがちだが、時給が良いので続けている。
時刻は深夜1時。終電が終わり、まばらだった客足もさらに落ち着いたので、僕は商品棚の補充を始めた。
(…そういえば、今度の長期休暇はどこ行こうかな…。東京の雑貨屋巡りもいいな~)
聞き飽きた店内放送を耳にながら、夏の予定をぼんやりと考えていると、
ガラガラ~。ピポピポ~ン。
自動ドアが開き、来客を知らせる音が店内に響く。
「いらっしゃいませ~」
おそらく陳列棚を数分間物色してからレジに来ると思ったので、しばらく作業を続けていると、
「すいませ~ん」
レジのほうから男の声が聞こえてきた。
(えっ、もう⁉︎)
急いでお客さんのもとへ向かうと、スーツ姿の男性が缶コーヒーをレジの上に置いて待っていた。駆け寄ってきた僕に気付くと、
「店員さん、これって箱ごと買えますか?」
「…箱?」
男性が尋ねてきたのは、レジの傍に置いてある一口サイズの煉羊羹だった。
(え…、それを⁉︎)
「ちょ、ちょっと確認して来ますね!」
僕はレジを離れて、急いで在庫を見に行く。
(珍しいお客さんだなぁ…。1個100円もしないとはいえ、深夜のコンビニで“あれ”の箱買いをご所望とは……)
宅飲みで足りなくなったお酒やお菓子を深夜にたくさん買いにくるお客さんならよく見るけど、煉羊羹だけを爆買いされる方は初めてだ。
「あ、あった」
目当ての商品の在庫を見つけた僕は、すぐにレジで待っている男性のもとへと戻った。
「お待たせしました。こちらの商品でよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
男性は黒い布マスクをつけていたが、目の様子からして、かなり喜んでいることが伺えられた。
「袋はどうしますか?」
「あ、大丈夫です。仕事用の鞄に入れていくので」
見ると、彼の手元にはレザー製の黒い鞄があった。
(へ~、カッコいい鞄だな。なんの仕事だろう?)
男性の素性が気になりながらも、僕は会計の作業を進めた。
「…では、こちらお釣りとなります」
「はい、どうも」
お釣りを受け取ると、男性は缶コーヒーと箱買いした煉羊羹を鞄の中に詰め込んでいく。
「あ、そうだ」
何かを思い出したのだろうか。購入した物とは異なる物を鞄から出してきた。
「これ、よかったらどうぞ。勤務先のイメージキャラクターを模したストラップです。サンプルの1つですが、なかにアロマ関係の匂い玉が入っています」
男性が取り出したのは、三毛猫を彷彿とさせる10cmほどのストラップであった。それを彼から手渡されると、心地よいほのかな香りが漂ってきた。
(良い匂い……)
「羊羹がなくなったら、また来ますね」
そう言って、彼は店を後にした。
後日、もともと猫が好きだった僕は、彼から貰った三毛猫のストラップを普段使っている自分の鞄に付けてみることにした。友人たちからの評判は良い。そして、この一件をバイト先の同僚たちに話したところ、大半の者が彼の来店を強く願うのであった。
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