31 / 66
箱買い
しおりを挟む
「ありがとうございました~」
深夜、地方都市の某大手チェーンのコンビニにて。
大学での学業の傍ら、僕はここでバイトをしている。深夜のバイトはサーカディアンリズムが狂うのではないかと忌避されがちだが、時給が良いので続けている。
時刻は深夜1時。終電が終わり、まばらだった客足もさらに落ち着いたので、僕は商品棚の補充を始めた。
(…そういえば、今度の長期休暇はどこ行こうかな…。東京の雑貨屋巡りもいいな~)
聞き飽きた店内放送を耳にながら、夏の予定をぼんやりと考えていると、
ガラガラ~。ピポピポ~ン。
自動ドアが開き、来客を知らせる音が店内に響く。
「いらっしゃいませ~」
おそらく陳列棚を数分間物色してからレジに来ると思ったので、しばらく作業を続けていると、
「すいませ~ん」
レジのほうから男の声が聞こえてきた。
(えっ、もう⁉︎)
急いでお客さんのもとへ向かうと、スーツ姿の男性が缶コーヒーをレジの上に置いて待っていた。駆け寄ってきた僕に気付くと、
「店員さん、これって箱ごと買えますか?」
「…箱?」
男性が尋ねてきたのは、レジの傍に置いてある一口サイズの煉羊羹だった。
(え…、それを⁉︎)
「ちょ、ちょっと確認して来ますね!」
僕はレジを離れて、急いで在庫を見に行く。
(珍しいお客さんだなぁ…。1個100円もしないとはいえ、深夜のコンビニで“あれ”の箱買いをご所望とは……)
宅飲みで足りなくなったお酒やお菓子を深夜にたくさん買いにくるお客さんならよく見るけど、煉羊羹だけを爆買いされる方は初めてだ。
「あ、あった」
目当ての商品の在庫を見つけた僕は、すぐにレジで待っている男性のもとへと戻った。
「お待たせしました。こちらの商品でよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
男性は黒い布マスクをつけていたが、目の様子からして、かなり喜んでいることが伺えられた。
「袋はどうしますか?」
「あ、大丈夫です。仕事用の鞄に入れていくので」
見ると、彼の手元にはレザー製の黒い鞄があった。
(へ~、カッコいい鞄だな。なんの仕事だろう?)
男性の素性が気になりながらも、僕は会計の作業を進めた。
「…では、こちらお釣りとなります」
「はい、どうも」
お釣りを受け取ると、男性は缶コーヒーと箱買いした煉羊羹を鞄の中に詰め込んでいく。
「あ、そうだ」
何かを思い出したのだろうか。購入した物とは異なる物を鞄から出してきた。
「これ、よかったらどうぞ。勤務先のイメージキャラクターを模したストラップです。サンプルの1つですが、なかにアロマ関係の匂い玉が入っています」
男性が取り出したのは、三毛猫を彷彿とさせる10cmほどのストラップであった。それを彼から手渡されると、心地よいほのかな香りが漂ってきた。
(良い匂い……)
「羊羹がなくなったら、また来ますね」
そう言って、彼は店を後にした。
後日、もともと猫が好きだった僕は、彼から貰った三毛猫のストラップを普段使っている自分の鞄に付けてみることにした。友人たちからの評判は良い。そして、この一件をバイト先の同僚たちに話したところ、大半の者が彼の来店を強く願うのであった。
深夜、地方都市の某大手チェーンのコンビニにて。
大学での学業の傍ら、僕はここでバイトをしている。深夜のバイトはサーカディアンリズムが狂うのではないかと忌避されがちだが、時給が良いので続けている。
時刻は深夜1時。終電が終わり、まばらだった客足もさらに落ち着いたので、僕は商品棚の補充を始めた。
(…そういえば、今度の長期休暇はどこ行こうかな…。東京の雑貨屋巡りもいいな~)
聞き飽きた店内放送を耳にながら、夏の予定をぼんやりと考えていると、
ガラガラ~。ピポピポ~ン。
自動ドアが開き、来客を知らせる音が店内に響く。
「いらっしゃいませ~」
おそらく陳列棚を数分間物色してからレジに来ると思ったので、しばらく作業を続けていると、
「すいませ~ん」
レジのほうから男の声が聞こえてきた。
(えっ、もう⁉︎)
急いでお客さんのもとへ向かうと、スーツ姿の男性が缶コーヒーをレジの上に置いて待っていた。駆け寄ってきた僕に気付くと、
「店員さん、これって箱ごと買えますか?」
「…箱?」
男性が尋ねてきたのは、レジの傍に置いてある一口サイズの煉羊羹だった。
(え…、それを⁉︎)
「ちょ、ちょっと確認して来ますね!」
僕はレジを離れて、急いで在庫を見に行く。
(珍しいお客さんだなぁ…。1個100円もしないとはいえ、深夜のコンビニで“あれ”の箱買いをご所望とは……)
宅飲みで足りなくなったお酒やお菓子を深夜にたくさん買いにくるお客さんならよく見るけど、煉羊羹だけを爆買いされる方は初めてだ。
「あ、あった」
目当ての商品の在庫を見つけた僕は、すぐにレジで待っている男性のもとへと戻った。
「お待たせしました。こちらの商品でよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
男性は黒い布マスクをつけていたが、目の様子からして、かなり喜んでいることが伺えられた。
「袋はどうしますか?」
「あ、大丈夫です。仕事用の鞄に入れていくので」
見ると、彼の手元にはレザー製の黒い鞄があった。
(へ~、カッコいい鞄だな。なんの仕事だろう?)
男性の素性が気になりながらも、僕は会計の作業を進めた。
「…では、こちらお釣りとなります」
「はい、どうも」
お釣りを受け取ると、男性は缶コーヒーと箱買いした煉羊羹を鞄の中に詰め込んでいく。
「あ、そうだ」
何かを思い出したのだろうか。購入した物とは異なる物を鞄から出してきた。
「これ、よかったらどうぞ。勤務先のイメージキャラクターを模したストラップです。サンプルの1つですが、なかにアロマ関係の匂い玉が入っています」
男性が取り出したのは、三毛猫を彷彿とさせる10cmほどのストラップであった。それを彼から手渡されると、心地よいほのかな香りが漂ってきた。
(良い匂い……)
「羊羹がなくなったら、また来ますね」
そう言って、彼は店を後にした。
後日、もともと猫が好きだった僕は、彼から貰った三毛猫のストラップを普段使っている自分の鞄に付けてみることにした。友人たちからの評判は良い。そして、この一件をバイト先の同僚たちに話したところ、大半の者が彼の来店を強く願うのであった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
