MASK 〜黒衣の薬売り〜

天瀬純

文字の大きさ
33 / 66

レジカウンターのイヴ

しおりを挟む


 12月24日 午後10時半頃。

 定番のクリスマスソングと季節限定商品の宣伝アナウンスがエンドレスに流れるなか、俺は陳列棚に商品を補充していた。

 当初、今年のクリスマス・イヴは大学の友人たちと集まって、宅飲みでもしようかと考えていた。けれど、実家で家族と過ごす者、バイトのシフトが入っていた者などで催すことが困難だということが判明した。みんな、何かしらの予定が入っているらしい。

(動画配信サービスで映画を観ながら、家でのんびりするのも良いかもしれない)

思っていたはずなのに……。

「いらっしゃいませ~」

「スプーンとお箸は、お付けしますか?」

ありふれたセリフを口にしながら、今宵もバイト先のコンビニで生活費を稼いでいる。

「毎度ありがとうございました~………、ん?」

今しがた会計を終えたお客さんが出た直後の自動ドアの向こうに、面識のある2人組が通り過ぎていった。

(あの2人…、付き合っていたんだ……)

妙なところで同じ学部の人間模様を目撃してしまった。なぜだろう。特に想いを寄せていたわけでもないのに、今日ばかりは微笑ましい2人組を見かけると、無差別に失恋した気分になってしまう。

(考えても仕方ない)

レジから出て、品出しの作業に移ろうとしたところ、

「すいません。これ、お願いします」

不意に新たにお客さんの声がしたので、急いでレジの前に戻った。

「あっ」

その時、数ヶ月前の記憶が瞬時に頭の中で蘇ってきた。レジカウンターを挟んで目の前にいたお客さんは、以来再び来店されることはなかったけど、かなり印象に残っている人だった。

「あ、あの、人違いでしたら申し訳ありません。以前こちらで煉羊羹を箱でお買い上げされませんでしたか?」

「ん?……ああ。ありましたね」

(やっぱり‼︎)

どうやら、本人のようだ。1個100円もしない羊羹を箱買いして、帰り際に猫又のストラップをくれた、その人であった。



「あの時いただいたストラップ、今でも大切にカバンにつけています」

カウンターに置かれた3本の缶コーヒーのバーコードを読み取りながら、お礼の意味も込めて彼に話しかける。

「そうですか。作った本人にぜひ聞かせてあげたいですね」

電子決済で支払いをしながら、黒スーツの彼は嬉しそうに微笑む。

「あ、そういえば…」

何かを思い出したかのように、彼は持っていた黒い革製のカバンの中を探り始めた。

「実は猫又ストラップの制作者の方がですね、新しくグッズを作ったんですよ。こちら、そのサンプルです」

そう言って、彼がカウンターの上に置いたのは茶トラと黒といった2種類の猫又フィギュアだった。

「最近手に入れた3Dプリンターで作られたそうですよ」

「へ~」

2つのフィギュアは、それぞれがオレンジとグレーの台座に乗っており、全長で大体12cmぐらいだろうか。

「よろしかったら、ぜひお部屋に飾ってみてください」

「えっ⁉︎ いいんですか⁉︎」

まさにクリスマスの奇跡。猫好きの自分にとっては、最高の贈り物だ。

 2足立ちのフォルムがとても可愛らしく、つい見惚れてしまう。

「メリー・クリスマス」

彼が言うと、黒い霧のような物が彼の周囲を包み込んだ。

「っ⁉︎」

突然のことでレジの中で固まっていると、霧は勢いよく霧散し、彼ごと店内から消え去ってしまった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...