51 / 66
駄菓子屋とドライアイ
しおりを挟む
「あ゛ぁ゛~」
午前11時から午後6時までの営業を終えた私は眼を瞑って、目頭を押さえながら背中を伸ばす。
(やっぱり、これドライアイなのかな?)
レジカウンター内の椅子に腰を下ろし、近所のドラッグストアで購入した市販の目薬を使う。お店の宣伝も兼ねてSNSで駄菓子を紹介するようになってから、タブレット端末を使う時間が如実に増えた。それに伴って、今まではあまり縁のなかった目の乾きや疲労感が度々現れるようになった。ネットで調べたところ、ドライアイの要因は色々とあり、パソコンやコンタクトレンズ、そしてエアコンなどを使用していることで涙が蒸発しやすくなり、さらには目の表面の細胞を傷つけてしまうそうだ。私は自分の生活を振り返ってみた。SNSへの投稿、学生時代から続くコンタクトレンズの愛用、店内でのエアコンの使用など。明らかにドライアイになるリスク要因だらけであった。
(はぁ~。どうしたもんかな…。とりあえず、外出するとき以外はコンタクトを使うの控えようかな)
一応、ドライアイは目の病気であるものの、知り合いの薬売りである黒衣 漆黒に頼るのも大袈裟な気がしてしまう。
(仕方ない。眼科のクリニックでも予約してみようかな)
手元のスマートフォンで近隣の眼科について調べていると、
「おや?眼科ですか、沙月さん」
「っ⁉︎」
振り返ると、私の背後からスマートフォンを覗き込むようにして“彼”が立っていた。
「漆黒⁉︎ 驚かさないでよ、もうっ」
「すみません。なにやら神妙な面持ちで眼科について調べていらっしゃったものですから」
(この男にはデリカシーというものが無いのだろうか?)
「どうしたの、急に」
椅子を回転させ、私は彼のほうを向いた。
「いえ、大したことではないんですよ。うちの猫又で手先が器用な方が新しくグッズを作りましたので、いくつか沙月さんにプレゼントしようと思いましてね」
そう言って、彼がカバンから取り出したのは厚さ2cmほどの円柱状の台座に乗った10cmぐらいのフィギュアだった。
「猫又のフィギュアになります」
レジカウンター上には黒猫、白猫、三毛猫、サビ猫といった色とりどりの小さな猫又たちが並べられた。
(うわぁ…。可愛い…)
カウンターの高さに目線が合うように私がしゃがみ込んで見惚れていると、
「…で、何か眼に悩みでもあるんですか?」
私と同じようにカウンターの反対側でしゃがみ込む彼と目が合った。
「それ聞く?」
逃げるようにして私が椅子に座り直すと、彼は立ち上がってスーツを正して答える。
「生まれた時から知っている方のお悩みなんですから、気になりますよ」
面倒見の良い親戚のおじさんの如く微笑みかける漆黒の目が全く笑っていない。
(ああ、これは逃してくれないな…)
長年の付き合いから早々に諦めた私は、彼にドライアイで悩んでいることを打ち明けた。
… … …
… …
…
「まったく、早いうちに私に頼ってくれてもよかったものを」
話を聴き終えた彼が、哀れみの目で私を見てくる。
「毎回、漆黒に頼るのもどうかと思いまして……」
「変なところで遠慮してしまうのは、お祖母さんに似ていますね。私は薬売りが生業なんですよ。病人が薬に頼っても、罰は当たりませんよ。……う~ん。目薬関係はちょうど手持ちを切らしているので、後日使いの者に持って来させますね」
カバンの中に目的の薬がないことを確認した彼は、帰り支度を始めた。
「あれ? もう帰るの?」
「ええ。猫又グッズを渡すという本来の用件は終えましたので。では」
私に向かって手を上げて軽く挨拶をすると、黒い霧のような物に姿を変え、彼はその場から消え去ってしまった。
* * *
* *
*
翌日、営業開始前に紙袋を持った猫又が店内で作業している私の前に忽然と現れた。
「こちら、主より沙月様にお渡しするようにと頼まれたお薬になります」
「あ、どうも」
(今回は白猫さんか)
前回、彼の使いとして店に来た黒猫の猫又を思い出しながら、紙袋を受け取った。中には、遮光性の小さな容器と漆黒からの手紙が入っていた。
『沙月さんへ
おはようございます。この手紙と一緒に袋に入っている容器には、【 潤沢点眼浴剤】というドライアイに効く目薬が入っています。両目に1滴ずつ点眼することで効果が1日中持続し、常時目の表面の傷が再生し続けます。また、まばたきのたびに分泌が促される涙の質を飛躍的に向上させると同時に、涙の過度の蒸発を抑制します。
まずは1ヶ月ほど使用してみてください。個人差はありますが、大抵はそのくらいで完治します。
P.S. お薬代 2,000円』
(最後は請求かよっ!……向こうも仕事とはいえ、素直に頼らなかったことを根に持っているのかな?)
薬の代金を猫又に支払った私はレジに戻って、その日の開店準備を再開させた。
午前11時から午後6時までの営業を終えた私は眼を瞑って、目頭を押さえながら背中を伸ばす。
(やっぱり、これドライアイなのかな?)
レジカウンター内の椅子に腰を下ろし、近所のドラッグストアで購入した市販の目薬を使う。お店の宣伝も兼ねてSNSで駄菓子を紹介するようになってから、タブレット端末を使う時間が如実に増えた。それに伴って、今まではあまり縁のなかった目の乾きや疲労感が度々現れるようになった。ネットで調べたところ、ドライアイの要因は色々とあり、パソコンやコンタクトレンズ、そしてエアコンなどを使用していることで涙が蒸発しやすくなり、さらには目の表面の細胞を傷つけてしまうそうだ。私は自分の生活を振り返ってみた。SNSへの投稿、学生時代から続くコンタクトレンズの愛用、店内でのエアコンの使用など。明らかにドライアイになるリスク要因だらけであった。
(はぁ~。どうしたもんかな…。とりあえず、外出するとき以外はコンタクトを使うの控えようかな)
一応、ドライアイは目の病気であるものの、知り合いの薬売りである黒衣 漆黒に頼るのも大袈裟な気がしてしまう。
(仕方ない。眼科のクリニックでも予約してみようかな)
手元のスマートフォンで近隣の眼科について調べていると、
「おや?眼科ですか、沙月さん」
「っ⁉︎」
振り返ると、私の背後からスマートフォンを覗き込むようにして“彼”が立っていた。
「漆黒⁉︎ 驚かさないでよ、もうっ」
「すみません。なにやら神妙な面持ちで眼科について調べていらっしゃったものですから」
(この男にはデリカシーというものが無いのだろうか?)
「どうしたの、急に」
椅子を回転させ、私は彼のほうを向いた。
「いえ、大したことではないんですよ。うちの猫又で手先が器用な方が新しくグッズを作りましたので、いくつか沙月さんにプレゼントしようと思いましてね」
そう言って、彼がカバンから取り出したのは厚さ2cmほどの円柱状の台座に乗った10cmぐらいのフィギュアだった。
「猫又のフィギュアになります」
レジカウンター上には黒猫、白猫、三毛猫、サビ猫といった色とりどりの小さな猫又たちが並べられた。
(うわぁ…。可愛い…)
カウンターの高さに目線が合うように私がしゃがみ込んで見惚れていると、
「…で、何か眼に悩みでもあるんですか?」
私と同じようにカウンターの反対側でしゃがみ込む彼と目が合った。
「それ聞く?」
逃げるようにして私が椅子に座り直すと、彼は立ち上がってスーツを正して答える。
「生まれた時から知っている方のお悩みなんですから、気になりますよ」
面倒見の良い親戚のおじさんの如く微笑みかける漆黒の目が全く笑っていない。
(ああ、これは逃してくれないな…)
長年の付き合いから早々に諦めた私は、彼にドライアイで悩んでいることを打ち明けた。
… … …
… …
…
「まったく、早いうちに私に頼ってくれてもよかったものを」
話を聴き終えた彼が、哀れみの目で私を見てくる。
「毎回、漆黒に頼るのもどうかと思いまして……」
「変なところで遠慮してしまうのは、お祖母さんに似ていますね。私は薬売りが生業なんですよ。病人が薬に頼っても、罰は当たりませんよ。……う~ん。目薬関係はちょうど手持ちを切らしているので、後日使いの者に持って来させますね」
カバンの中に目的の薬がないことを確認した彼は、帰り支度を始めた。
「あれ? もう帰るの?」
「ええ。猫又グッズを渡すという本来の用件は終えましたので。では」
私に向かって手を上げて軽く挨拶をすると、黒い霧のような物に姿を変え、彼はその場から消え去ってしまった。
* * *
* *
*
翌日、営業開始前に紙袋を持った猫又が店内で作業している私の前に忽然と現れた。
「こちら、主より沙月様にお渡しするようにと頼まれたお薬になります」
「あ、どうも」
(今回は白猫さんか)
前回、彼の使いとして店に来た黒猫の猫又を思い出しながら、紙袋を受け取った。中には、遮光性の小さな容器と漆黒からの手紙が入っていた。
『沙月さんへ
おはようございます。この手紙と一緒に袋に入っている容器には、【 潤沢点眼浴剤】というドライアイに効く目薬が入っています。両目に1滴ずつ点眼することで効果が1日中持続し、常時目の表面の傷が再生し続けます。また、まばたきのたびに分泌が促される涙の質を飛躍的に向上させると同時に、涙の過度の蒸発を抑制します。
まずは1ヶ月ほど使用してみてください。個人差はありますが、大抵はそのくらいで完治します。
P.S. お薬代 2,000円』
(最後は請求かよっ!……向こうも仕事とはいえ、素直に頼らなかったことを根に持っているのかな?)
薬の代金を猫又に支払った私はレジに戻って、その日の開店準備を再開させた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、10人の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる