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造形作家(続) 《新入居者》
しおりを挟む突然現れた入居希望者の名は、『飛介』。
成人男性と同じくらいの背丈から従来の一般的なスズメぐらいの大きさまでに自身を自由自在に拡大や縮小が可能な彼は、あらゆる鳥類と意思疎通ができる妖だそうだ。かつては民家の軒下に巣を作って暮らしていたが、昨今の建築様式には巣作りが可能なスペースが見られなくなったため、地方を転々としながら古い空き家内部に住み着いていたらしい。しかし空き家を改築して移住する人間たちが増えてきたことで再び住む場所を追われてしまった。次の住まいを求めて放浪している最中、以前から交流のある風変わりな“薬売り”が教えてくれた“人と化け狸が共存する山”の存在を思い出した。
(もしかしたら、そこでなら安心して暮らしていけるかもしれない!)
そう思った彼は、“薬売り”との会話に出てきた“その山”がある地域へと向かった。しかし“薬売り”が正確な場所までは話していなかったため、辿り着くのにかなりの時間がかかったそうだ。
『……というのが、この山に来るまでの出来事でな。その……、突然押し掛けてしまい、申し訳ない』
(なんという行動力……)
話を聞き終えた僕たちは、彼のフットワークの軽さと黒衣さんと思われる“薬売り”が関係していることに驚いていた。
僕だけで対応を決めるのは難しかったので、あとで化け狸一族の長たちと話し合うことにした。そして飛介と名乗る巨大スズメが空腹そうにしていたので、とりあえず余っていた川魚を彼に分けた。
… … …
… …
…
その日の夕方に化け狸一族の長と他の者たちを何人か呼んで話し合った結果、彼の入居は認められることとなった。そして山の入居者として、彼にも家賃代わりの役割を担当してもらうことも決定した。
彼が担当するのは、“伝達係”だ。山に生息する鳥たちをまとめ上げ、僕や化け狸たちが情報のやり取りを必要としたときに伝書鳩と似たかたちで協力してもらうよう、彼らとの仲介を担うことが主な仕事内容だ。住む場所は化け狸一族の集落近くに彼の家を建てることで話がまとまった。身体の大きさを自由に変えられる彼だが、この山では身を潜める必要がないので成人男性の平均身長と同じくらいの背丈で暮らしていくそうだ。なんでも、その大きさが本来の姿らしい。
* * *
* *
*
飛介が山に住み始めて数ヶ月後、僕は某玩具メーカーから新たなカプセルトイを発表していた。頭部はスズメで胴体は人型の『派遣社員スズメさん』と題したカプセルトイは、モチーフにした職業の制服の違いから全部で5種類となっている。スズメである“可愛らしさ”と妙な“哀愁”が世間的に受け入れられたのか、第2弾製作の話がメーカー内で挙げられているらしい。
飛介の家が完成した頃、1人の猫又が僕宛ての小包みを抱えて我が家にやって来た。
「我が主人より近松様へのお届け物でございます」
送り主の名前は『黒衣 漆黒』。僕に化け狸一族を紹介したスーツ姿の薬売りだ。
(そうなると、目の前にいる猫又は彼の従者か?)
小包みには手紙が1通入っており、飛介を受け入れてくれたことへの感謝と彼が突然山に押しかけてきたことへの謝罪が書かれていた。お詫びとしてなのか、送られてきた荷物には2種類の薬が入っていた。
1つには『骨格筋浄化液』と記載されており、同封されていた説明書を読む限りではロールオン型の塗り薬で、肩や手に塗ることで大抵の肩凝りや腱鞘炎が2時間ほどで完治するらしい。
もう1つは、以前彼が化け狸一族を紹介したときにくれた『禁足の鼻腔』という花粉症対策の飲み薬であった。この薬1錠だけでも効果が1年間続くというのに、今回はそれが5錠も入っている。
(……すごいな)
彼からの贈り物を自宅の寝室にある金庫の中に保管した僕は、以前化け狸たちに教えてもらったレシピで作った川魚の干物を食糧庫からいくつか取り出し、配達に来てくれた猫又に渡した。
「もし苦手でないようでしたら、受け取ってください」
「え、ええ⁉︎……いいんですか⁉︎」
彼女は干物が入った大きめのジップロックを持ったまま、目を大きく見開く。
「はい。最近魚を捌けるようになって、つい嬉しさのあまり作りすぎてしまいまして…」
僕がそう言うと、彼女はジップロックを大事そうに抱え、
「私、干物には目がないんですよ。ありがとうございます」
何度も僕にお辞儀して、彼女は嬉しそうに山を去っていった。
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