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七草 《せり》
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その日、昼過ぎにひとりの常連のお客さんがお店にやって来た。
「いつものちょうだい」
近くの会社で働く彼は、大きな商談がある日や気合いを入れたい時には必ず来店し、いつも同じ物を注文する。
「お昼はもう取られたんですか?」
私は商品を用意しながら、彼に尋ねてみた。
「午前中の仕事が長引きましたが、なんとか」
苦笑いしながら、彼は頷いた。働き盛りとはいえ、食事はちゃんと取って欲しいものだ。
「はい、【七草・特製“競り”フラペチーノ】」
「おお、これこれ。ありがとうございます」
彼がテイクアウトで購入したのは、清涼感が感じられる新鮮な食材たちをふんだんに使った特製ドリンク。ある意味この商品の柱となっているのが、“せり”だ。鉄分を多く含み、体内の血液を増やすことが期待される“せり”は、爽やかで独特な香りを持ちながら、若葉が競り合うようにして生えていく、その姿から『競り勝つ』という意味が込められた縁起物でもある。
「いつもこれを飲んだ後は必ずと言って良いほど、契約を取れるんだよね。助かるわ~」
電子決済で颯爽と会計を済ませる彼は、実に嬉しそうだった。
「大袈裟ですよ、もう」
“競り”フラペチーノは味が青臭くならないようにと試行錯誤の末に辿り着いた自慢の商品だ。その食材の種類や組み合わせは当然ながら門外不出なのだけれど、常連のお客さん達からは時折レシピを教えて欲しいと何度も頼まれる。というのも、発売して間もない頃に、近隣のビジネスマンが縁起の良い物だからと試しに購入したところ、その日のうちに大きな契約が取れたり、本社への栄転が決まったりしたことがあるからだ。報告を受けた時は流石に驚いたけど、今ではSNSなどの口コミによって会社員だけでなく、受験生も買いに来る。
「では、また来ますんで」
ドリンクを片手に常連の彼は仕事場に戻って行く。
(まさか、あそこまで出世するとは……)
新卒で入社した会社に馴染めず転職を考えていた彼が、私のお店に来たのは随分と前のこと。“競り”フラペチーノを飲むようになってからは見違えるほど仕事に精を出し、その後は独立して、今や一部上場が噂されるほどの代表取締役ときたものだ。
(ん~。ちょっと効き過ぎたかなぁ……)
「いつものちょうだい」
近くの会社で働く彼は、大きな商談がある日や気合いを入れたい時には必ず来店し、いつも同じ物を注文する。
「お昼はもう取られたんですか?」
私は商品を用意しながら、彼に尋ねてみた。
「午前中の仕事が長引きましたが、なんとか」
苦笑いしながら、彼は頷いた。働き盛りとはいえ、食事はちゃんと取って欲しいものだ。
「はい、【七草・特製“競り”フラペチーノ】」
「おお、これこれ。ありがとうございます」
彼がテイクアウトで購入したのは、清涼感が感じられる新鮮な食材たちをふんだんに使った特製ドリンク。ある意味この商品の柱となっているのが、“せり”だ。鉄分を多く含み、体内の血液を増やすことが期待される“せり”は、爽やかで独特な香りを持ちながら、若葉が競り合うようにして生えていく、その姿から『競り勝つ』という意味が込められた縁起物でもある。
「いつもこれを飲んだ後は必ずと言って良いほど、契約を取れるんだよね。助かるわ~」
電子決済で颯爽と会計を済ませる彼は、実に嬉しそうだった。
「大袈裟ですよ、もう」
“競り”フラペチーノは味が青臭くならないようにと試行錯誤の末に辿り着いた自慢の商品だ。その食材の種類や組み合わせは当然ながら門外不出なのだけれど、常連のお客さん達からは時折レシピを教えて欲しいと何度も頼まれる。というのも、発売して間もない頃に、近隣のビジネスマンが縁起の良い物だからと試しに購入したところ、その日のうちに大きな契約が取れたり、本社への栄転が決まったりしたことがあるからだ。報告を受けた時は流石に驚いたけど、今ではSNSなどの口コミによって会社員だけでなく、受験生も買いに来る。
「では、また来ますんで」
ドリンクを片手に常連の彼は仕事場に戻って行く。
(まさか、あそこまで出世するとは……)
新卒で入社した会社に馴染めず転職を考えていた彼が、私のお店に来たのは随分と前のこと。“競り”フラペチーノを飲むようになってからは見違えるほど仕事に精を出し、その後は独立して、今や一部上場が噂されるほどの代表取締役ときたものだ。
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