MASK 〜黒衣の薬売り〜

天瀬純

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登録販売者 《喉薬》

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「こちらは【水面みなもの追憶】というお薬になります」

水面みなも……」

名刺より一回りほど大きい箱をカバンから取り出し、彼は俺に向かって説明し始める。



「はい。喉に違和感や痛みを感じられた際にこちらのお薬を1包服用していただくだけで、だる夏の日に涼しく感じられた水面みなもの如く、清涼感満載の膜を喉の炎症部位に形成します。すると、そこから薬効成分を浸透させることで炎症で苦しむ喉を即座に癒してくれます」

「へ~……」

凡人の理解の範疇をあまりに大きく越える代物だ。

「個人差はあるものの、効果はおよそ1週間ほど。とりあえず12包ほどお渡しいたしますので試しに使ってみてください」

そう言って静かに微笑む彼の顔は、どこか悪戯っぽい表情が見え隠れしており、不安を感じさせる。

「……対価は?」

彼は自身が作る薬の値打ちをその時々の気分で決めてしまうことが多い。

驚くほど安いときもあれば、食事を奢れと言うときもある。

世間一般的な常識が通用しないだけに安易に相談したくなかったのは、ためだ。

「そうですね…」

(さて今回は…)

固唾を飲んで、次に彼から発せられる言葉を待っていると、

「私の知り合いで結界を張ることを生業としている者がいる、と以前お話しいたしましたよね?」

「ん?…あ、あぁ、あったね。そんなこと」

ニヤリと小さく口角を上げながら、彼は警戒する俺に話しかける。

「その彼があなたの能力に少し興味を抱いているようなので、今度紹介させてください」

予想外の対価に思考が停止してしまう。

「えっと…、つまり会えばいいってこと?」

「はい。お時間がよろしいときで構いませんので」

そう言うと、彼は空になったカップをソーサーに置き、黒い霧となって姿を消した。

自身が頼んだコーヒー代を卓上に残して。

店内にいる他のお客さんやスタッフの人たちからは、に気付く素振りが全く見られない。

(気にしたら、キリがないな…)

考えるのを諦めた俺は、目の前に置かれた薬を自分のカバンに入れ、彼の分の代金と伝票を手にして会計へと向かった。

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