50 / 211
俺のねーちゃんは人見知りがはげしい【俺の奮闘】
7.ねーちゃんの後輩に、採寸された
しおりを挟むあれ以来、鴻池は俺を叩かなくなった。
それに必要以上に話し掛けて来ないので、話す機会が激減した。
それで今まで鴻池から積極的に話し掛けて来ていたから話す機会が多かったんだって、嫌が応にも意識した。
趣味の合う話し相手が減って少し寂しい気がする。
でもこれで良かったんだとも思う。何より(肉体的に)痛い思いをする事が無くなって、楽になった。
今日も地学部でお弁当を広げる。
時折安孫子さんがやって来てなにやら俺の知らないアニメの話をするのを、聞き流す。彼女は特にコメントなどを要求していないから楽だった。どうやら、彼女のお気に入りのキャラクターに俺が似ているとのこと。
そこまでは何となく理解できたけど、どんどん専門用語が多くなってそれ以上の内容を把握することは難しかった。
ある日安孫子さんが一番乗りで、部室で待ち構えていた。
何故かメジャーを鞭のようにビシッと顔の前に斜めに構えて、正面に立っていた。
「ちょーっとだけ、採寸させて」
「え?……え?」
俺が戸惑っている間に素早く首回りから足のサイズまで測定されて、メモられた。全く安孫子さんの言動や行動は―――俺の理解の範疇を越えている。
胸囲を測定しようと安孫子さんが俺の胸にメジャーを回そうとしたとき、ガチャッと扉が開いた。
「え……あっ、ご、ゴメン!」
扉を開けたのはねーちゃんで、何故か彼女は俺達を認めると頬を朱くして扉を閉めてしまった。
安孫子さんと俺は視線を合わせ―――その後、自分達の恰好を振り返る。
制服の上着を脱いだ俺に、メジャーを回そうとぴったりと抱き着くような恰好をしている安孫子さん。俺の中途半端に上がった腕が……今まさに彼女を抱きしめようとしているように見えなくも無いという事に気が付いた。
「ね、ねーちゃん!」
俺は慌てて、扉を開けて飛び出した。
ねーちゃんは扉の横に立っていた。少し頬が朱い―――何を考えて朱くなったんだ~!
「ご、誤解だよ!」
「え……?」
「今、採寸されていて……」
「ふーん、セーターでも作ってもらうの?相変わらずモテてるね」
そう言ったのは、ねーちゃんの隣に立っている王子だった。
なんで、王子と一緒なんだ。
不快感を覚えながらも、俺は取り敢えず弁明した。
「いや……突然測られて何が何だか……」
ねーちゃんが強張っていた頬を、ちょっと緩めて息を吐いた。
「いや、焦ったよ。密室で抱き合っているから……弟のラブシーンって心臓に悪いね」
「―――んなわけないだろ!」
とぼけた事を言うねーちゃんに、焦って突っ込みを入れる。
「お似合いなんじゃない?……付き合っちゃえば?」
王子がニヤニヤと嗤っている。
この野郎……。
俺が殺気を込めて奴を睨むと、その王子様フェイスを更にキラキラさせて爽やかに笑いやがる。
「ねえ、そう思うよね?森」
そして、ねーちゃんに同意を求めた。
ねーちゃんが口を開こうとした、その時。
そこに凛とした声が響いた。まるで、舞台女優のように大仰に。
「誤解です!」
背後からスッと安孫子さんが現れて、王子を右手で制した。
……しかしいちいちこの人って、芝居がかっているな。
「王子先輩だけは……王子先輩だけは誤解しないで下さい」
え?
もしかして……安孫子さんって俺の気持ちに気付いている……?
安孫子さんが感極まったように主張する様子を見て、ねーちゃんはヒクッと僅かに顔を引き攣らせた。
王子は眉を顰めて安孫子を見守った。
「私は決しておふたりの仲を邪魔しません」
おふたり?
誰と誰のこと?
「王子先輩と森君の至上の愛の物語は今、幕を開けたばかりなのですから……!」
あちゃー、言っちゃった……と呟き、顔を覆うねーちゃん。
「何言ってんの?馬鹿なの?!」
キレる王子。
「は……王子と……俺ぇ?!」
何を言われたか理解できない俺。
「主君『遙』にそっくりな王子先輩と護衛騎士『聖耶』にそっくりな森君。おふたりがこうして出会うなんて……運命に違いありません。さぁ!王子先輩、存分に森君を強気攻めで落としちゃってくださいっ!私に遠慮せずっ!さぁ!」
さぁっ!さぁっ!と、まるで卓球選手のように掛け声を発する安孫子さん。
俺の中の何かが、フッと冷たくなった。
王子を見ると同じように感情の欠けた冷たい瞳で、安孫子(こっちも、もう、『さん』付けしない事に決定)を見ていた。
俺はこの一瞬だけ、王子にシンパシーを抱いた。
勿論、幻想だろうけど。
「清美、えと……時間大丈夫?」
「あ!」
またしても、ねーちゃんの指摘で我に返る俺。
部室に戻り一気にお弁当を平らげて、すぐ立ち上がった。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「フフフ……」
「あとは、俺に任せて気兼ねなく練習してね」
余計な事を言ってキラキラした笑顔を惜しげもなく俺に浴びせかける王子を『爆ぜろ!』という念を込めて睨見つけてから俺は、体育館へ走ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる