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Spring and Start up
#07 ステキな遭遇
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「…竜胆副委員長、こんにちは」
さっきまで見せたこの人の荒々しい態度はどこへ消えたのか、明らかに声の刺々しさが消えている。
その竜胆さんと呼ばれた人物は、表情を変えずにただ、「こんにちは、岡崎さん」とだけ返した。
私たちに突っかかってきた彼女の名前は岡崎さんと言うのか、なんてことよりも先に、なんて甘くて優しい声なんだろう、とその声色に私はひどく感心してしまった。
彼女は副委員長と呼ばれていた。
部管理会の副委員長であることは腕章を見れば一目瞭然である。
職員室から出てきたとなると、たまたまこの場に遭遇しただけかもしれない。
もし私たちの新設反対に加担してきたら、さすがの遥ももう何も言えなくなってしまうだろう。
「岡崎さん、どうされましたか?この方たちは?」
竜胆さんが軽くにっこりと表情を変え尋ねる。
「部活動の新設にあたって、不適切な活動と認識し忠告を入れていました。ラジオ放送活動部を新設したいと申し出た二人です」
真剣な面付きできっちりと質問の順序通りに答える岡崎さん。
その様子は正に、部下が自身の不良を上司に白状しているかのようだった。
「私たちはただポスターの掲示承認印が欲しいだけです」
「そ、そうです」
遥に倣って私もなんとか声を出す。
この人も部管理会の役員なんだ。なら私もちゃんとアピールしなきゃ。
さっきまでそうであったようにまた問い質しを受けるのかと思いきや、意外にも竜胆さんは、あらまぁ、と軽く微笑むと私たちに向けて予想外の言葉を発した。
「承認印ですね。今押しますので掲示物を貸してください」
私たち二人は一瞬戸惑った感じでお互い目を見合わせたが、すぐに遥が持っていたポスターを竜胆さんに手渡した。
丁寧な言葉遣いにおしとやかな声のトーン、この人は天使なのだろうか。
「竜胆副委員長…!」
ポスターを受け取ったところで岡崎さんがいきなり声を荒げる。
その声も意に介さずといった呈で、竜胆さんは腰ポケットから小さな黒い箱を取り出すと、パカッと音を立ててそれを開けた。
中からは白色で見るからに立派な角印が現れ、竜胆さんはそれを取り出すと、近くの平机へと移動しポスターをゆっくり丁寧に置き、その直後ぺたりんこ。
承認印を押してくれたのだ…!
「承認印を押しましたので、どうぞこちらは自由に掲示してください」
竜胆さんはまたもやにっこり微笑むと、私のほうにポスターを手渡してくれた。
「ありがとうございます…!えっと、竜胆…先輩…?」
「はい、竜胆愛衣李と申します。学年は二年ですが、先輩なんて敬称、なくてもよろしいですよ」
「は、はい…!」
はわわ…なんて素敵なんだ…
こんなに丁寧に対応されたのはもしかして初めてなんじゃないだろうか。
「竜胆副委員長、良かったんですか?その、放送室をそんな目的で…」
「岡崎さん。活動に意義があるかどうかは私たちが決めることではありませんし、生徒の持つ自由は尊重されるべきです。…いきましょう」
さっと見を翻す竜胆先輩。
優しい口調だけど、言葉に芯がある。
竜胆先輩の話す様は正にそんな感じだった。
さすがにもう何も言い返す言葉がないのか、岡崎さんは「はい、分かりました」とだけ答えると、竜胆先輩と一緒に階段の方へと行ってしまった。
その場にぽつんと残された私たち二人。
静寂の中、数秒。
「と、とりあえず良かったね、音里!」
「そ、そうだね!ポスターに承認印もらえたね!」
天に昇ってたのか、夢を見てたのか、どっちともつかずな心地だった私は、遥の声でふと我に返る。
いかんいかん、目的を忘れるところだった。
「よだれ垂れてるよ、口元」
「へっ!?おじょじょ」
「ウソなんだけど」
「………」
やめて遥、変な声出ちゃったじゃん。
「確かに素敵な人ではあったけど、私たちの活動が部管理会に否定されたのは事実なんだから。気持ち引き締めないと」
「でも竜胆先輩は大丈夫みたいなこと言ってたよ?」
竜胆先輩は確かに、私たちの活動は尊重されるべきだと言ってくれた。
それでポスターに承認印を押してくれたのではないか。
「竜胆先輩一人が部管理会を動かしてる訳じゃないでしょ。私たちも部活動新設するなら、強い意志を持って行動しないとさ、またこういう事になるよ」
「うん…」
強い意志…
こんな活動がしたい!とかそんなことだろうか。それとも…
「ラジオ放送活動部は遊びなんかじゃない、立派な部活動なんだって。そういうことだよね」
「そういうこと」
「…任せて!私が生半端な気持ちで部活作ろうとするわけないでしょ!ほら、ポスター印刷し直そ!」
「ほんとに大丈夫かなー」
「ドントマインドッ!」
私は遥の背中をポンポンと叩くと、にっこりと笑ってみせた。
さっきまで見せたこの人の荒々しい態度はどこへ消えたのか、明らかに声の刺々しさが消えている。
その竜胆さんと呼ばれた人物は、表情を変えずにただ、「こんにちは、岡崎さん」とだけ返した。
私たちに突っかかってきた彼女の名前は岡崎さんと言うのか、なんてことよりも先に、なんて甘くて優しい声なんだろう、とその声色に私はひどく感心してしまった。
彼女は副委員長と呼ばれていた。
部管理会の副委員長であることは腕章を見れば一目瞭然である。
職員室から出てきたとなると、たまたまこの場に遭遇しただけかもしれない。
もし私たちの新設反対に加担してきたら、さすがの遥ももう何も言えなくなってしまうだろう。
「岡崎さん、どうされましたか?この方たちは?」
竜胆さんが軽くにっこりと表情を変え尋ねる。
「部活動の新設にあたって、不適切な活動と認識し忠告を入れていました。ラジオ放送活動部を新設したいと申し出た二人です」
真剣な面付きできっちりと質問の順序通りに答える岡崎さん。
その様子は正に、部下が自身の不良を上司に白状しているかのようだった。
「私たちはただポスターの掲示承認印が欲しいだけです」
「そ、そうです」
遥に倣って私もなんとか声を出す。
この人も部管理会の役員なんだ。なら私もちゃんとアピールしなきゃ。
さっきまでそうであったようにまた問い質しを受けるのかと思いきや、意外にも竜胆さんは、あらまぁ、と軽く微笑むと私たちに向けて予想外の言葉を発した。
「承認印ですね。今押しますので掲示物を貸してください」
私たち二人は一瞬戸惑った感じでお互い目を見合わせたが、すぐに遥が持っていたポスターを竜胆さんに手渡した。
丁寧な言葉遣いにおしとやかな声のトーン、この人は天使なのだろうか。
「竜胆副委員長…!」
ポスターを受け取ったところで岡崎さんがいきなり声を荒げる。
その声も意に介さずといった呈で、竜胆さんは腰ポケットから小さな黒い箱を取り出すと、パカッと音を立ててそれを開けた。
中からは白色で見るからに立派な角印が現れ、竜胆さんはそれを取り出すと、近くの平机へと移動しポスターをゆっくり丁寧に置き、その直後ぺたりんこ。
承認印を押してくれたのだ…!
「承認印を押しましたので、どうぞこちらは自由に掲示してください」
竜胆さんはまたもやにっこり微笑むと、私のほうにポスターを手渡してくれた。
「ありがとうございます…!えっと、竜胆…先輩…?」
「はい、竜胆愛衣李と申します。学年は二年ですが、先輩なんて敬称、なくてもよろしいですよ」
「は、はい…!」
はわわ…なんて素敵なんだ…
こんなに丁寧に対応されたのはもしかして初めてなんじゃないだろうか。
「竜胆副委員長、良かったんですか?その、放送室をそんな目的で…」
「岡崎さん。活動に意義があるかどうかは私たちが決めることではありませんし、生徒の持つ自由は尊重されるべきです。…いきましょう」
さっと見を翻す竜胆先輩。
優しい口調だけど、言葉に芯がある。
竜胆先輩の話す様は正にそんな感じだった。
さすがにもう何も言い返す言葉がないのか、岡崎さんは「はい、分かりました」とだけ答えると、竜胆先輩と一緒に階段の方へと行ってしまった。
その場にぽつんと残された私たち二人。
静寂の中、数秒。
「と、とりあえず良かったね、音里!」
「そ、そうだね!ポスターに承認印もらえたね!」
天に昇ってたのか、夢を見てたのか、どっちともつかずな心地だった私は、遥の声でふと我に返る。
いかんいかん、目的を忘れるところだった。
「よだれ垂れてるよ、口元」
「へっ!?おじょじょ」
「ウソなんだけど」
「………」
やめて遥、変な声出ちゃったじゃん。
「確かに素敵な人ではあったけど、私たちの活動が部管理会に否定されたのは事実なんだから。気持ち引き締めないと」
「でも竜胆先輩は大丈夫みたいなこと言ってたよ?」
竜胆先輩は確かに、私たちの活動は尊重されるべきだと言ってくれた。
それでポスターに承認印を押してくれたのではないか。
「竜胆先輩一人が部管理会を動かしてる訳じゃないでしょ。私たちも部活動新設するなら、強い意志を持って行動しないとさ、またこういう事になるよ」
「うん…」
強い意志…
こんな活動がしたい!とかそんなことだろうか。それとも…
「ラジオ放送活動部は遊びなんかじゃない、立派な部活動なんだって。そういうことだよね」
「そういうこと」
「…任せて!私が生半端な気持ちで部活作ろうとするわけないでしょ!ほら、ポスター印刷し直そ!」
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私は遥の背中をポンポンと叩くと、にっこりと笑ってみせた。
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