12 / 15
馬鹿な父親が“産まれてくる子の寿命”を知るとこうなる
第一話
しおりを挟む
あるところに、フェリテという小さな国があった。
絶対君主制の国で統制を司るビセンテ王には、ルシアノという一人息子がいた。
そしてルシアノには、カリナという誰もが見初めるほど美人な嫁がおり、そのお腹には新たな命が宿っていたそうな。
「おい、酒が足りんぞ! もっと持ってこい!」
ところがルシアノは大の酒好きでギャンブルにも明け暮れており、その体たらくぶりと言ったら王宮内でも多くの侍者達が国の将来を案じていたほど。無論、父であるビセンテも例外ではない。
「困った……あれが王になったらこの国は大変だ」
片や、ルシアノの嫁であるカリナは臨月を迎え、大きなお腹を抱えていた。カリナも『本当にこのまま私と子は幸せになれるのか』と、心の中の不安を拭いきれずにいた――。
ある日。
寝室で心配そうな面持ちをしたカリナが、小さな声でルシアノに言葉をかけた。
「ルシアノ様、私……お産がとても怖いのです。出来れば出産の際は、貴方様にお側にいて頂きたいのですが……」
お腹に手を添えるカリナが俯き気味にそう告げると、ワイングラスを片手に酔っていたルシアノが、フラフラと寝室の扉に手をかけてカリナに背を向ける。
「俺なんかその場にいたって、何の役にも立たないだろ。優秀な助産師もついてるんだ……そう心配するな――」
少し呂律の回らない口調でそう吐き捨てたルシアノは、貴族達が集まる夜会へと発ってしまった。
寝室に取り残されたカリナが涙する。
少しだけでもいい……ただお腹をさすってくれるだけでも。
お腹の赤ん坊が胎動する度に『この子は二人が望んだから神様が授けてくれた大切な命なのに』と、孤独な寂しさがカリナの胸を強く締め付けた――。
夜会ではたくさんの美味い酒が振る舞われ、ギャンブルを嗜む王族や他の貴族達で壮大な盛り上がりを見せていた。ルシアノもそこに交じって大笑いしている。
「こりゃまいった!! 一か八かで大穴に突っ込んだらこの様だ、ギャハハハハ!!」
「いやはや、殿下の度胸には敵いませんな! アハハハハハ!」
その様子を見ていた近衛兵隊長も「カリナ様が大変な時にこんなことしてる場合なのか」と呆れていると、夜会に遅れて見慣れない風貌をした男が入ってくる。
何だ……簡単に入ってきたが、あんな男が来るとは聞いてないな。
不審に思った隊長が部下に目で合図を送ると、部下は頷いてその男に質問した。
「おい、お前は何者だ?」
黒いハットを脱いだ男がそれを胸に当ててお辞儀する。
「突然失礼致します。私は隣国のベチスタから参りました外交官のタナスと申す者です。明日、フェリテの宰相様と正式にお目見えする予定でしたが、私も何よりギャンブルが好みでございます故、我慢できずにこの場へ参上致しました」
タナスの様相を見る限りはしっかりした服装で、立ち振る舞いも至って貴族のそれだ。すると、円卓に座すルシアノが手を挙げた。
「構わんぞ、その男も交ぜてやれ! 無礼を働けばその場で斬ればいいだけだろう!」
大きな溜息を吐いた隊長が部下に「下がれ」と指示を出すと、タナスはルシアノのいる席に腰を据えた――。
絶対君主制の国で統制を司るビセンテ王には、ルシアノという一人息子がいた。
そしてルシアノには、カリナという誰もが見初めるほど美人な嫁がおり、そのお腹には新たな命が宿っていたそうな。
「おい、酒が足りんぞ! もっと持ってこい!」
ところがルシアノは大の酒好きでギャンブルにも明け暮れており、その体たらくぶりと言ったら王宮内でも多くの侍者達が国の将来を案じていたほど。無論、父であるビセンテも例外ではない。
「困った……あれが王になったらこの国は大変だ」
片や、ルシアノの嫁であるカリナは臨月を迎え、大きなお腹を抱えていた。カリナも『本当にこのまま私と子は幸せになれるのか』と、心の中の不安を拭いきれずにいた――。
ある日。
寝室で心配そうな面持ちをしたカリナが、小さな声でルシアノに言葉をかけた。
「ルシアノ様、私……お産がとても怖いのです。出来れば出産の際は、貴方様にお側にいて頂きたいのですが……」
お腹に手を添えるカリナが俯き気味にそう告げると、ワイングラスを片手に酔っていたルシアノが、フラフラと寝室の扉に手をかけてカリナに背を向ける。
「俺なんかその場にいたって、何の役にも立たないだろ。優秀な助産師もついてるんだ……そう心配するな――」
少し呂律の回らない口調でそう吐き捨てたルシアノは、貴族達が集まる夜会へと発ってしまった。
寝室に取り残されたカリナが涙する。
少しだけでもいい……ただお腹をさすってくれるだけでも。
お腹の赤ん坊が胎動する度に『この子は二人が望んだから神様が授けてくれた大切な命なのに』と、孤独な寂しさがカリナの胸を強く締め付けた――。
夜会ではたくさんの美味い酒が振る舞われ、ギャンブルを嗜む王族や他の貴族達で壮大な盛り上がりを見せていた。ルシアノもそこに交じって大笑いしている。
「こりゃまいった!! 一か八かで大穴に突っ込んだらこの様だ、ギャハハハハ!!」
「いやはや、殿下の度胸には敵いませんな! アハハハハハ!」
その様子を見ていた近衛兵隊長も「カリナ様が大変な時にこんなことしてる場合なのか」と呆れていると、夜会に遅れて見慣れない風貌をした男が入ってくる。
何だ……簡単に入ってきたが、あんな男が来るとは聞いてないな。
不審に思った隊長が部下に目で合図を送ると、部下は頷いてその男に質問した。
「おい、お前は何者だ?」
黒いハットを脱いだ男がそれを胸に当ててお辞儀する。
「突然失礼致します。私は隣国のベチスタから参りました外交官のタナスと申す者です。明日、フェリテの宰相様と正式にお目見えする予定でしたが、私も何よりギャンブルが好みでございます故、我慢できずにこの場へ参上致しました」
タナスの様相を見る限りはしっかりした服装で、立ち振る舞いも至って貴族のそれだ。すると、円卓に座すルシアノが手を挙げた。
「構わんぞ、その男も交ぜてやれ! 無礼を働けばその場で斬ればいいだけだろう!」
大きな溜息を吐いた隊長が部下に「下がれ」と指示を出すと、タナスはルシアノのいる席に腰を据えた――。
0
あなたにおすすめの小説
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
忘れるにも程がある
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。
本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。
ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。
そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。
えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。
でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。
小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。
筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる